トリタンとマーダス
蒼一とブリ雄、それにルドルフ達は今森を抜けて街道を歩いていた。
ソーリャを治療した事で一応の信頼を得たものの、まだ完全に信用はされていないのか蒼一とブリ雄の二人が前を歩き、その後ろを六人がついて行くというような状態で街道を進んで行く。
そんな中、肝心の蒼一達はその扱いを気にしていないのか、二人で何やら色々と話し込んでいた。
「この世界において"冒険者"という言葉は存在せず、彼らが口にしていた"新兵"や"重騎士"という言葉に等級と冒険者という意味が包括されている形になります」
「へー、でもそうなると軍隊の新兵なんかはなんて呼ぶんだろうな?」
「翻訳前であればギルドで使われる場合は"新兵"、軍隊で使われる場合は"新兵"と二つの言葉があったみたいですが……新兵の方どう翻訳されてるかは謎ですね」
「これでそっちも新兵と訳されてたらどっちがどっちか分からなくなるな」
流石にそれは無いだろうと思いつつも、あの神なら細かいところなんか気にせず一括変換しそうだなと蒼一は不安を覚える。
「そういや気になってたんだが、所属なんて言い方をしたって事はギルドが複数存在してたりするのか?」
「はい、蒼一様のイメージではギルドという巨大な組織が一つだけ存在してて各地に拠点があるというものでしょうが、こちらのギルドは競合相手が数多く存在しており、ここにおける会社も蒼一様の良く知る会社と似たような物です。零細企業などは一拠点だけで細々とやっていますが、大きくなってくれば各地に拠点を作ったりもしますし、互いに顧客を奪い合ったりもしてます」
「競争相手ねぇ……イメージで言うと、ギルドっていうより傭兵団とかに近い感じ、なのか?」
「一概にそのイメージで合ってるとは言い辛いですね。そういう形態のギルドも確かに存在しますが、蒼一様が思い描くギルドらしいギルドも存在するので」
「ギルドにも種類があるって事だな」
正確にはギルドではなく会社なのだが、これは管理神のいい加減な翻訳が原因だし何より会社という呼び方が生前の万年平PGだった頃の自分を想起させるので蒼一としてもあまり使いたくはない。
(勤続年数が増えても役職は変わらない癖に責任だけは増えてくんだよなぁ……)
生前の苦労を思い出してホロリと目尻から涙を零しつつ、意識を生前から今へと切り替えていく。
「そういやガルフ達はニーヴァってギルド所属の新兵って役職なんだよな?。他のギルドになると役職の名前って違ったりするのか?」
「いえ、そこは共通規格を使用してますよ。流石に各ギルドで好き勝手付けてたら訳が分からなくなりますし」
「ふーん、共通規格ね。それってJIS?」
「いえ、ISOですね」
「なるほど」
転移魔術の媒介となる石杭をポインタとアドレスで例えた時のように、ソフト畑だった蒼一とその知識を持つブリ雄は時折一般の人には伝わり辛い用語で会話する事がある。
今回の場合は共通規格の名称で蒼一の方は日本工業規格、ブリ雄の方が国際標準化機構であり、つまりは蒼一が"それって国家規格なの?"と質問して、それに対しブリ雄が"国際規格です"と返した形になるのだ。
また蒼一は意図していなかったが、このやり取りを傍から見ていたルドルフ達にとって、聞きなれない単語が飛び交う二人の会話は、二人が自分達の知らぬ土地からやって来たのだという印象を受けるのに一役買っていた。
「国って何ヶ国存在するんだ?」
「私の知る限りでは大きいなところが二つと小国が二つ三つってくらいですが、穴抜けもあると思うので正確な数は分からないですね」
「そんなに数は多くないんだな。戦争とかは起きてるのか?」
「大昔はあったらしいですが、今はどうなんでしょうね。そこら辺の事情は彼らに聞いた方が早いかと」
そう告げてブリ雄が後ろを振り返り、それに釣られるように蒼一も後ろを見ると二人に視線を向けられた一同がビクリと肩を震わせつつも、その先頭を歩いていたルドルフが代表して答える。
「目立った戦争はここ数十年は起こってない。ただ戦争してないとはいえマーダスとは険悪な状態が続いてるけどな」
「"マーダス"?」
「お隣の魔術大国の名前だよ。因みに俺らが居る国は"トリタン"、ブリ雄が言ってた二つの大国のマーダスじゃない方だ」
「トリタンとマーダスね。まぁ仲が悪くても戦争が起きてないってのは良い事だな」
「それに国名もどうやら私の知る通りだったようで安心ですね。名前が変わるとどこがどこだか分からなくなりますし、ありがとうございます、ルドルフさん」
「これくらいお安い御用だ。分かんない事があれば聞いてくれ」
そうして二人がまた前を向き直しまた何事かを喋り出すのを見計らって、ルドルフは安堵の溜息を吐く。
「大丈夫ですか、ルドルフさん?」
「ガルフ、心配してくれんなら俺と位置変わってくれや。ったく敵意が無いってのは分かってるが、こうも大きな魔力を周囲に放たれると息苦しくて仕方ねぇ」
更に言えばブリ雄は無意識的に自身の意識が向く方へと魔力を集中させている為、話しかけらたルドルフ達は生きた心地がしなかった。
「何者なんですかね、本当に」
「さぁな。少なくとも悪人には見えないが」
「それは俺達もそう思いますが、でも色々と怪しすぎて」
「素直に信じられないってか?それで良いと思うぜ。善人と信用出来る人間ってのは決して等しい訳じゃないからな」
良い人だから、優しいから、だから信じられるというのは安易な考え方だ。
その優しさや善意が果たして自分や周囲人間の為になるのかはまた別問題なのだから。
「とりあえず信じる信じないは置いといてだ。絶対に敵対行為だけはするなよ。あれだけの魔力を持つ存在だ、下手に暴れられたらスルクの街が壊滅しかねん」
「そんな大袈裟な、なんてあの魔力を直に感じたら笑い飛ばせそうにないわね」
「あの、魔力を抑えて貰う事は出来ないのでしょうか。このまま街に入ったら騒ぎになる未来が見えるのですが」
「それもそうだな……おーい!」
ブリ雄をそのまま街に入らせるのは色々と拙いと判断したルドルフ達はブリ雄に魔力を抑えて貰うよう頼み、魔力を抑えるという事を今までした事が無かったブリ雄は多少悪戦苦闘しながらも何とか他人に威圧感を与えないレベルまで魔力を抑えるのだった。




