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泰皇国立皇統学院記 〜 一年目 秋 〜  作者: 都月 敬
2日目
9/23

夕_食堂2


 炭はまだかかりそうだったので、次は西柏国担当、雪祈の番となった。


「私、甘味なんで、食べる順序がおかしくなっちゃうんですけど。すみません」


 そう言いながら雪祈が取り出したのは、ずいぶんと物騒な形状をした、何か。


「――――ウニ?」

「うに?」


 思わず地元の食材を思い出す碧流。しかし雪祈にはそれが何かわからなかったようだ。気にしないよう、碧流が先を促し、雪祈が食材の説明を開始する。


「これは、栗という木の実です」

「木の実? ってことは、これ、木に生るの?」


 そのトゲトゲした物体に、恐る恐る指を伸ばす紫絡。


「痛っ。かなり本気なヤツだね、こいつ」

「あ、痛いですよ。触る時は頑丈な手袋をしないと」


 そう言いながらも、素手でそのトゲの一つを掴んだ雪祈は、器用にトゲの間に包丁を入れていく。そこから二つに割ると、中からは硬そうな実が三つほど。

 出てきた実を、またも紫絡が軽くつついてみる。


「硬い。これ、食べられるの?」

「これはまだ殻です。もう一度剥きます」


 今度は殻の平たいところに爪を立てて、パキリと。

 器用に殻を割って、中から出てきた実の薄皮を剥いで。


「これを食べます。火が通ってると、ホクホクとして上品な甘みがあります。茹でたのが、これです」


 別容器に入った、茹で済みの栗を出す。手際がいい。


「それと、もう一つ。こっちはおいもです。泰陽で取れるのと違って、これもかなり甘みがあります」


 次に取り出したのは、見覚えのない形のいも。赤みがかっていて、長く大きい。

 馴染みがあるのは、もっと茶色くて、丸い。甘みもそれほどではないのだが。

 紫絡がこれも軽くつついてみて。


「へぇ〜。おいもなのに、甘いんだ」

「このまま蒸して食べても美味しいくらい甘いです。で、茹でて潰して、味を加えたのが、これです」


 続いて取り出した容器には、黄色い何かがたっぷりと。


「泥?」

「泥じゃないです! 青華さん、ひどいです!」


 悪気はないと思う。青華は思ったままを口に出しているだけだ。それもダメだとは思うけど。


「茹でたら、黄色くなるの?」

「赤いのは皮だけなんです。中身はもともと黄色いんですよ。これにさっきの栗を入れます」


 栗をいもへ投入。実を潰さないよう、少しの間練り上げる。


「そうしたら、あとは一口大に丸めるだけです」


 栗を中心にいもごと一掬いし、濡れ布巾に乗せると、キュッと強めに一絞り。

 布巾から出して小皿に乗せる。


「これで、できあがりです。柏 (ハク) では、きんとんと呼んでいます。縁起のいい食べ物なんですよ」


 人数分作り、全員の目の前へ。


「どうぞ、召し上がれ」

「いただきま〜す」


 手にベタつくのかと思ったが、案外それほどでもなく、口の中でも滑らかに溶けていく。


「おいも、なんですよね、これ。でもすごく甘いです。で、中からほっくりとしたものが」

「うん、甘い。この、中の栗の上品な甘さ、ってのがわかる。これ好きかも」


 紫絡、絶賛。


「これ、西柏 (サイハク) では一般的なお菓子?」


 青華に訊かれた雪祈は、なぜか小さく首を傾げて。


「お菓子、なんでしょうか。こんなに甘いんですけど、実は料理の一つとして登場するんですよね」

「え? これ、おかずなの?」

「肉の隣にいるのは嫌だなぁ」

「いや、ごはんのお供、ってわけではないんですけど。とにかく、一般的な料理ではありますよ。栗もおいももこの時期に取れるものですから、収穫祭っぽさもばっちりです!」


 慌ててフォローに走る雪祈。

 実務派の紫絡が、さらに疑問点をまとめ上げていく。


「これ、調理は大丈夫? 茹でたり、潰したり、けっこうたいへんそうだけど」

「全部、事前にまとめてやっておけるので、問題はないです。熱々を食べるものでもないですし。その場では、丸めるだけくらいでいいんじゃないでしょうか」


 調理の時間や手間も問題なし。雪祈の前日までの準備はけっこう大変そうだが、それも折り込み済みの提案だと思って、ここは甘えてしまおう。


「央香国では見かけないですし、西柏国で一般的なら方向性にもぴったりです。一個では少し物足りない気がするので、二、三個単位で売った方がいいかもしれませんね」


 これは甘味の立派な商品候補としていいだろう。


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