夕_食堂2
炭はまだかかりそうだったので、次は西柏国担当、雪祈の番となった。
「私、甘味なんで、食べる順序がおかしくなっちゃうんですけど。すみません」
そう言いながら雪祈が取り出したのは、ずいぶんと物騒な形状をした、何か。
「――――ウニ?」
「うに?」
思わず地元の食材を思い出す碧流。しかし雪祈にはそれが何かわからなかったようだ。気にしないよう、碧流が先を促し、雪祈が食材の説明を開始する。
「これは、栗という木の実です」
「木の実? ってことは、これ、木に生るの?」
そのトゲトゲした物体に、恐る恐る指を伸ばす紫絡。
「痛っ。かなり本気なヤツだね、こいつ」
「あ、痛いですよ。触る時は頑丈な手袋をしないと」
そう言いながらも、素手でそのトゲの一つを掴んだ雪祈は、器用にトゲの間に包丁を入れていく。そこから二つに割ると、中からは硬そうな実が三つほど。
出てきた実を、またも紫絡が軽くつついてみる。
「硬い。これ、食べられるの?」
「これはまだ殻です。もう一度剥きます」
今度は殻の平たいところに爪を立てて、パキリと。
器用に殻を割って、中から出てきた実の薄皮を剥いで。
「これを食べます。火が通ってると、ホクホクとして上品な甘みがあります。茹でたのが、これです」
別容器に入った、茹で済みの栗を出す。手際がいい。
「それと、もう一つ。こっちはおいもです。泰陽で取れるのと違って、これもかなり甘みがあります」
次に取り出したのは、見覚えのない形のいも。赤みがかっていて、長く大きい。
馴染みがあるのは、もっと茶色くて、丸い。甘みもそれほどではないのだが。
紫絡がこれも軽くつついてみて。
「へぇ〜。おいもなのに、甘いんだ」
「このまま蒸して食べても美味しいくらい甘いです。で、茹でて潰して、味を加えたのが、これです」
続いて取り出した容器には、黄色い何かがたっぷりと。
「泥?」
「泥じゃないです! 青華さん、ひどいです!」
悪気はないと思う。青華は思ったままを口に出しているだけだ。それもダメだとは思うけど。
「茹でたら、黄色くなるの?」
「赤いのは皮だけなんです。中身はもともと黄色いんですよ。これにさっきの栗を入れます」
栗をいもへ投入。実を潰さないよう、少しの間練り上げる。
「そうしたら、あとは一口大に丸めるだけです」
栗を中心にいもごと一掬いし、濡れ布巾に乗せると、キュッと強めに一絞り。
布巾から出して小皿に乗せる。
「これで、できあがりです。柏 (ハク) では、きんとんと呼んでいます。縁起のいい食べ物なんですよ」
人数分作り、全員の目の前へ。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきま〜す」
手にベタつくのかと思ったが、案外それほどでもなく、口の中でも滑らかに溶けていく。
「おいも、なんですよね、これ。でもすごく甘いです。で、中からほっくりとしたものが」
「うん、甘い。この、中の栗の上品な甘さ、ってのがわかる。これ好きかも」
紫絡、絶賛。
「これ、西柏 (サイハク) では一般的なお菓子?」
青華に訊かれた雪祈は、なぜか小さく首を傾げて。
「お菓子、なんでしょうか。こんなに甘いんですけど、実は料理の一つとして登場するんですよね」
「え? これ、おかずなの?」
「肉の隣にいるのは嫌だなぁ」
「いや、ごはんのお供、ってわけではないんですけど。とにかく、一般的な料理ではありますよ。栗もおいももこの時期に取れるものですから、収穫祭っぽさもばっちりです!」
慌ててフォローに走る雪祈。
実務派の紫絡が、さらに疑問点をまとめ上げていく。
「これ、調理は大丈夫? 茹でたり、潰したり、けっこうたいへんそうだけど」
「全部、事前にまとめてやっておけるので、問題はないです。熱々を食べるものでもないですし。その場では、丸めるだけくらいでいいんじゃないでしょうか」
調理の時間や手間も問題なし。雪祈の前日までの準備はけっこう大変そうだが、それも折り込み済みの提案だと思って、ここは甘えてしまおう。
「央香国では見かけないですし、西柏国で一般的なら方向性にもぴったりです。一個では少し物足りない気がするので、二、三個単位で売った方がいいかもしれませんね」
これは甘味の立派な商品候補としていいだろう。