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泰皇国立皇統学院記 〜 一年目 秋 〜  作者: 都月 敬
2日目
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10/23

夕_食堂3


「炭、起きた!」


 その声を合図に。


「じゃあ、次は肉ですね。紅兎、お願いします」


 今回の影の主役、紅兎の出番となる。


「任せとけ! 口直しに、すごい肉をお見舞いするぜ!」

「……口直し、ってひどくないですか?」


 碧流を先頭に、全員ぞろぞろと裏口から外へ。

 炭に乗せられた金網の上には、すでに人数分の肉が並べられていた。


「あ、いい香り」


 肉が焼け、あふれ出た脂が焦げる匂いが鼻腔をくすぐる。


「これは、牛? 豚?」


 青華の問いに、紅兎は立てた人差し指を揺らしつつ。


「その二択になるのが、素人のあさかっささ」


 浅はかさ、な。


「これは、南で最もポピュラーな肉、羊!」


 胸を張る紅兎。しかし他四名は額を突き合わせて。


「羊って食べたことある?」

「ないです」

「くさいって聞いたことありますけど」

「え、どんなくさい?」


 こそこそと噂話を交わす面々を。


「こらこ〜ら、文句は食べてから言いたまえ!」


 無理やり、紅兎は焜炉の周りに呼び集める。

 そして取り出す、二つの筒状の器具。


「これが塩!」


 そう言いながら、掲げた筒の上端を、肉の上でぐりぐりひねる。

 すると、下から細かな白い粉がぱらぱらと。


「岩塩か」


 ほの赤い色合いから、その正体に気づいたのは青華。


「そう! 山の中で取れる塩だよ。孔族で使ってたんだけど、肉にはこれが一番! そして〜」


 もう一本の筒もぐりぐり。

 続いて出てきたのは、黒い粉。そして広がる、刺激的な芳香。


「あ、いい香り」

「こっちはなんですか?」

「胡椒! こんなの。」


 筒を開けて、胡椒と岩塩を見せてくれる。


「木の実? かな。確かに、食欲をそそる香りするね」

「この筒をひねると、下から砕けて出てくるんですね。便利だな」

「岩塩って綺麗ですね! 青華さん、知ってたんですか?」

「見るのは初めて。行軍の講義で聞いたことがある。塩は大切だから」


 ……う。

 青華の言葉に、一人呻く碧流。

 水と塩の現地調達は、遠征中の軍隊でも重要な問題。岩塩という存在は知っていたが、見た目までは知らなかった。これでは頭でっかちと言われても仕方がない。

 人知れず反省する碧流の脇で。


「焼けた! うん、うまい!」


 審査員に調味料を見せておいて、真っ先に食べ始める料理人。


「ちょっと! 何いきなり食べてんのよ。いただきま〜す」

「あ、いただきます!」


 次々と手がのびて、それぞれの肉が全員の口に収まっていく。


「美味し〜い。胡椒の香り、いいね」

「塩も、海の塩より少し柔らかな感じがします」


 思わず顔がほころぶ紫絡と碧流。

 対して、雪祈と青華は少し顔をしかめて。


「でも、これ、ちょっと、クセがありますね」

「……うん。」


 どうやら、気になる派とならない派がはっきりと分かれたようで。


「う〜ん、私は、胡椒でいい感じに消されてると思うけどなぁ」

「いや、消え切ってはいないだろう」

「切らせないよ! このクセがいいんじゃん! これだからお子ちゃまは〜」

「お子様じゃないです!」


 さすがにこれは好みの問題。さて、牛や豚に慣れている央香国民がどう思うか。


「も〜、仕方ないなぁ」


 ぼやきながらも、紅兎が次を取り出した。


「ミンチ?」

「つくね?」

「つみれ?」

「…………」


 それぞれが、見たものを自分の知っている言葉で表現する。


「ミンチは半分正解。つくねは鶏だから不正解。で、つみれ、って何?」

「魚をすり身にして丸めたものです」

「肉じゃないじゃん。不正解!」


 そこで、しげしげと眺めていた青華がようやく口を開いた。


「これ、何かで包んであるのか?」


 しかし紅兎の表情はさらに渋くなり。


「う〜ん、さらに半分、正解。包むんじゃなくて、詰めるの。ぎゅうぎゅう」

「詰める?」


 紅兎は話題のそれを網に転がすと、別途、白い紐のようなものを取り出した。


「何それ? それに詰めるの?」

「そう。羊の腸。詰めてあるのは、羊の挽き肉。塩やら胡椒やらで味付け済」


 新たな食材の登場に、またも額を寄せる審査員。


「腸って、内臓ですか?」

「内臓だね。それも、けっこう下の方の」

「出る寸前だな」

「深く考えない!」


 網の上で腸詰をころころと転がしていた紅兎から、鋭くツッコミが飛ぶ。


「ちゃんと洗ったし、よく乾かしたから、汚くもないし、臭くもない! 悔しかったら、食べてみろ!」


 特に悔しいことは何もなかったが、とりあえず差し出されたままかじりつく。

 パリッと弾ける音。広がる薫りと、溢れる肉汁。そして、染み渡る肉の旨み。


「うわ。美味し」


 紫絡の言葉に、嫌そうに鼻を近づけていた青華も、恐る恐る口に入れて。


「――――美味しい」

「パリッと感が気持ちいいし、クセもさっきより少ない気がします!」

「挽き肉にした分、味や香りが回りやすいんですかね」


 羊否定派も一気に賛同する。

 紅兎は自慢げにうむうむと頷いて。


「そうだろう、そうだろう。ま、半分、豚だしね」

「合挽きなんですか!?」


 意外な事実。それは、臭みも抑えられるはずだ。

 しかし、紅兎は悪びれもせず。


「羊は泰陽で買うと高いんだよ。だから豚と合わせてみた」

「なるほどね。でも、羊だけよりも肉汁も脂も多くなって、お酒にも合いそう」


 早くも喉を鳴らしている紫絡。

 食べやすくなり、コスト的にも下がるなら文句はない。羊肉は央香国ではほとんど食べられないし、腸詰という食べ方も珍しい。食わず嫌いも出るかもしれないが、どうせ屋台だ。嫌なら買わなきゃいい、ということで。


「いいんじゃないですかね、これも」


 紅兎が渾身のガッツポーズ。

 有力候補の二つ目ができた。


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