第2章~俺の買った奴隷が「仕事はできるがちょっと世話焼き過ぎるタイプ」だった件について(あんまり悪い気はしないけど)その2
登場人物
マサユキ
王族にも繋がる貴族の家の末息子
妾腹で末子ということもあり、継承権はなく、その代わり特に縛りもなく自由な身分
現在は家を出て、与えられた資産を元に交易商の仕事をしている
頭は切れるが性格は大らかでのんびりなところがある
貴族の家暮らしよりも、現在の気ままな生活が気に入っている
エミリア
エルフ王国の中級貴族の娘
貴族の子女の義務として、士官として軍務に就き、捕虜となった
それをマサユキが奴隷として買い取り、屋敷にやって来る
俺のそこはかとない不安は、さっそくその日の夜から的中した。
初日は夕方までほぼ移動で、目的地に着いたらすぐに宿に入って。
で、チェックインなどの手続きはエミリアに任せ、俺は移動中に確認しきれなかった明日の商談の資料を読み込んでいた。
明日は朝から早いし、食事と風呂を済ませたらなるべく早く休んでおきたかったので、今のうちにこういうことは済ませられるだけは済ませておきたかったのだ。
そして、資料の内容をだいたい頭の中に入れたところで。
「ご主人様、そろそろお部屋の方へ参りましょう。他の者たちもそれぞれ部屋を割り当てておきました」
エミリアが呼びに来た。
「お、ご苦労さん。で、どこの部屋かい?」
「はい、一緒に参りましょう。お荷物はお持ちしますね」
そう言って、「あ、ちょっと待て」と言う間もなく、広げていた資料も、着替えなどの入ったトランクも、さっさとエミリアが持ってしまった。
「さ、こちらです」
エミリアが俺を促して、部屋に案内してくれる。
う~ん、本当に何事もテキパキと無駄がないなぁ。
むしろ、俺の方が彼女にケツを蹴っ飛ばされて動かされてる感すらあるくらいだ。
思わず苦笑しながら、エミリアの後に付いていくと。
「今夜はこちらのお部屋になります」
通された部屋は、めちゃくちゃ広いスイートルーム。
「おいおい、俺適当に一人部屋でいいって言ったやん」
「そうなのですが、宿の方が気を遣われたみたいで……」
「そうは言っても、差額もあるだろう?」
「それが……差額無しなんです。今日はまだ空いているからと」
「そうなのか? それならまあいいが……。それじゃあ、とりあえず早めに夕飯食べに行こうか」
「あ、それでしたら、ご主人様はここでこのままゆっくりとおくつろぎください。今から私が材料を買ってきて、すぐにお作りしますので。小一時間くらいお時間頂ければ!」
「いや、何もわざわざここに来てまで作らなくても……。エミリアだって疲れてるだろう?」
「いけません。お昼も外食でしたし、外食ばかりでは食事が偏ってしまいますから」
「それで、馬車の中で俺の好きな食べ物とか、根掘り葉掘り聞いてたのか」
「そういうことです」
「じゃあ、任せていいのかな?」
「はい、お任せ下さい。では、食材の方確保に行ってきますね」
エミリアはそう言って部屋から出て行こうとする。
あ、そうだ。
「エミリア、ちょっといい?」
「はい、なんでしょうか?」
「おまえ、荷物は? 部屋持ってかなくていいのか?」
何気にエミリアの荷物がこの部屋の隅に置かれている。
それを置いたまま行こうとしていたので、せっかくだからエミリアが買い物行ってる間に部屋に持ってってやろうと思ったのだ。
そのくらい、俺がしてやっても罰は当たらない。
そう思って声をかけた言葉に対して、エミリアは一瞬きょとんとして、その後ちょっと決まりが悪そうな顔になった。
「あ、あの……ご主人様? じ、実は……」
「うん」
「私とこの部屋で、一緒……なんです……」
「な ん だ と !?」
「あの……ご主人様は私が一緒ではお嫌でしょうか……?」
いや、好む好まぬとかそういう問題じゃないと思うぞ!
そう突っ込んでおきたかったが、エミリアが半分泣きそうな顔をするもんだから……。
「あのな、別に嫌というわけじゃないんだがな……」
「じゃあ、よろしいんですね!」
今度はすかさず笑顔でたたみかけてくる。
「あ、いや……おまえは、こういうのマズくないのか? ほら、いろいろとさ……」
「いえ、何も!」
ニッコリ笑顔で速攻否定されては、俺もそれ以上二の句が継げず。
「では、そういうことでよろしいですね! では、行ってきます!」
パタン。
足取りも軽やかに鼻歌歌いながら、エミリアは買い出しに出て行った。
……めっちゃ押し切られてるやん、俺。
ご主人様の威厳も何もあったもんじゃない。
まあ、部屋にベッドも2つあるし、入浴だけ先にさせてもらって、さっさと寝てしまえば、とりあえずはそんなに問題も起きないか。
それにしても、どうして宿のオヤジは俺とエミリアを同じ部屋にしたんだろう?
気を遣われたって言うけど……どういう気の回され方をしたのやら。
う~ん……。
次回投稿は8/1(水)12:00の予定。
夕食後、ゆっくりと一日の疲れを癒すマサユキの元に、エミリアがやって来て……。