第2章~俺の買った奴隷が「仕事はできるがちょっと世話焼き過ぎるタイプ」だった件について(あんまり悪い気はしないけど)その1
マサユキ
王族にも繋がる貴族の家の末息子
妾腹で末子ということもあり、継承権はなく、その代わり特に縛りもなく自由な身分
現在は家を出て、与えられた資産を元に交易商の仕事をしている
頭は切れるが性格は大らかでのんびりなところがある
貴族の家暮らしよりも、現在の気ままな生活が気に入っている
エミリア
エルフ王国の中級貴族の娘
貴族の子女の義務として、士官として軍務に就き、捕虜となった
それをマサユキが奴隷として買い取り、屋敷にやって来る
翌朝。
結局昨夜は夜半近くまで作業に手間取っちまった。
特に初めての商品の発注は需要の予測にすごく頭を悩ませる。
とはいえ、エミリアがサンドを用意してくれたおかげで、空きっ腹に悩まされずに済んだだけでも有難かった。
朝もエミリアが起こしに来て、そのまま朝の給仕まで務めてくれていた。
秘書役は期待していたが、こんなところまでやってくれるとは。
もしかしたら、ばあやの差し金かな?
まあいい、今日は食事の後、さっそく出発だ。
エミリアと一緒の馬車に乗り、窓から留守を守るばあやとジョゼに。
「それじゃ、行ってくる。留守を頼む」
「かしこまりました」
「お任せ下さい」
そう答える二人に頷いて、出発。
そこはかとなく、ばあやの微笑み方に意味ありげな感じも少し感じた気もするが……いくらなんでも気のせいだろ。
まあ、いいか。
心地よく揺れる車内で腰を落ち着けたところで。
「エミリア、昨日はさっそく初日から助かった。よく気が付く秘書というのはやっぱりありがたみを感じるね」
「そう仰っていただけて嬉しいです」
「とは言うものの……普通、秘書であそこまではしてくれないもんだと思うんだが……どうしてあそこまでしてくれたんだ?」
「そうでしょうか? 主人の身辺を整えるのが仕事なのですから、もちろん体調面も気にかけて当然だと思いますが」
「まあ、そう言われればそうかもしれないが……今までそこまでしてくれるようなメイドっていなかったからね。物心着く前から側で仕えてくれていた、ばあや以外には」
「そうだったのですか?」
「まあな。ちなみに、今朝の給仕はばあやにでも言われた?」
「あ、はい、そうです。メイド長様に、今後は朝の起こしからご主人様の生活をしっかりと見るようにと……」
「え、今日だけじゃないの?」
さっきのばあやのあの笑みはそういうことだったのか……。
それにしても、エミリアはここに来てたったの丸一日だというのに、もうそんな仕事を任される程にばあやの信用を得たというのは、やはりただ者ではない。
「はい、これからはご主人様がこうして出張される時も私が一緒にお付きしますし、私にその役目を任せてしまった方がいいでしょう、ということで!」
なんというか、エミリアの背中からやる気のオーラが満々と……。
「ですので! 私、出張中もずっとお側で健康管理しっかりしますから!」
「あ、いや……そこまではしなくてもいいんだが……」
「いけません! ご主人様、昨日見ただけでもタダでさえ生活不規則気味っぽいですし、しばらくは移動また移動の日々になりますから、疲労もたまるでしょうし、生活面をきちんとしないと、持たないですよ」
「いや、まあ……それは確かにその通りだとは思うが……」
「でも、私がしっかりとサポートしますから! いろいろと頼って下さいね!」
「あ、ああ……わかった……」
「はい! お任せ下さいね♪」
嬉々としたにこにこ顔で頷くエミリア。
ホントに、どうしてそこまでやる気たっぷりなんだろうな?
「なあ、エミリア」
「はい」
「随分やる気に満ちてるようだけど、どうしてなんだ? 何か理由でもあるのかい?」
「え? 自分の職務に熱心なのはいけませんか?」
「そういうことじゃないんだが、そこまで熱心になれるのは、単にそれだけではない気がしたんだ」
「あ~……そういうことですか……。確かに、理由はあるかもしれませんね、そう言われてみると」
「どういう理由?」
「やっぱり……感謝……でしょうか? 私、ご主人様にとても感謝しているんです」
「……感謝? きみたちを奴隷として買った俺に感謝か? なかなか面白いことを言う」
思わず自嘲気味に笑ってしまう。
奴隷にされて感謝なんて、あり得るはずがないだろうが。
そう思っていた。
「冗談や皮肉でいっているのではありませんよ。実際、私達はご主人様に拾われていなければ、今頃は夜伽の玩具にされるのを待つばかりの運命だったのですから。もちろん、覚悟はしておりましたが……」
「それは単に、俺がそういうのを好まないだけの話だ。礼には及ばない。それに、俺は純粋に有能な部隊長であったきみの能力を欲しがったに過ぎない。そもそも、奴隷なんて買うつもりなんかなかった。ただ、普通に探していてもなかなか捕まらない人材が、この時ばかりは条件とお金次第で即捕まる……ということだったから、その好機を逃す手はなかっただけさ」
「あの……ひとつ、伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ」
「ご主人様は奴隷を買うことや奴隷女を夜伽の玩具にすることを好まれないのは、何か理由があるのでしょうか?」
鋭い質問だった。
見てくれは小娘だが、さすがに洞察力も大したものだ。
「それは……実を言えば、俺も奴隷女の子供だからさ」
「…………」
「俺の母親は、元々は東方諸侯連邦の城主の娘で、以前、我が国との戦い、住んでいた城が降伏開城した際に捕虜になったんだ。俺の父親は当時、その戦いに従軍していて、捕まったその娘を気に入って、買い取り奴隷にした。そのまま戦後、妻にするつもりでな」
「それ自体は、決して珍しいことではありませんね」
「確かにな……。だが、当時、母親には婚約者がいた。母親は操を立てたかったが、父は母を手に入れるために、直ちに夜伽を命じ、母親も多少抵抗はしたようだったが、結局は操を奪われてしまった。そして、程なく母の胎内に宿ったのが俺だ」
「そうだったのですね……」
「それと前後する頃、その婚約者は戦いに敗れて捕らえられ、処刑されたそうだ。結局、そのまま俺の母親は、戦争が終わった後、側室として迎えられた。最初、強引にモノにされた以外は大切に扱われ、今では幸せに暮らしてはいるが、当時は死んでしまいたいくらいに悲しかったと、子供の時からよく母親には聞かされている。その時の母親の陰った微笑みが子供心に焼き付いてるんだ」
「それで、私達のことを同じように扱わなかったのですね」
「そういう事情で、奴隷という制度自体に嫌悪感もあったのでね、そもそも奴隷を買おうなんて考えたこともなかった。今回、必要に迫られる形できみを買うことになったが、形式と身分はどうあれ、私は他の使用人と同じように扱うことに決めている。きみが連れていた部下達もそうだ」
「そういう事情がお有りだとしても、私達への丁重な扱いには感謝しているんです。ですから、ご主人様のために私、頑張りたいんです!」
真っ直ぐで澄んだ瞳。
こう、直接的な好意を、それも女の子から示されることに俺は慣れていない。
その勢いに気圧されながら。
「ま、まあ、その熱意はよく分かった。そういうことなら、よろしく頼むよ。あんまり、肩に力を入れすぎない程度にな……」
「はいっ! 頑張りますので、よろしくご指導下さい!」
キラキラと輝くような笑顔で、エミリアはそう言ったのだった。
さて、この旅行、どうなることやら……。
悪いことではないとは思うが、ちょっと……不安だ……。
「それで……あの、さっそくですけど、食べ物の好みとか、お教え頂けないでしょうか……?」
「ん? そうだなぁ……」
あんまり好き嫌いある方じゃないから、その辺あんまり気にしなくていいと思うんだけど、熱心に仕事に向かう姿勢は俺も大いに買いたいところなので、素直に質問に答えることにした。
次回投稿は7/29(日)12:00予定。
最初の目的地の宿に到着。
そこで、ちょっとした問題が……?




