プロローグ
冷たい外気を顔に浴びながら、俺は色々なことを思い出している。泣くべきなのかと思ったが、涙は出なかった。
足元を風が吹き抜ける。三月の晴れ空はどこまでも水色に澄み渡っていた。
気付けば握り締めたままだった受験票を見やる。汗で紙端は歪み、糊付けされた顔写真の中に自分がいる。数センチに過ぎない小さな写真でも、陥没した鼻の骨や、肥大した爬虫類のような眼球の異様さが分かる。氏名欄には「刻夜皓輝」と書かれていた。
俺を嫌悪してやまない祖母の顔が過る。あなたなんかいなければいいのよ、と真っ向から存在を否定してきたのは彼女が初めてだった。頭ごなしに怒鳴っては反駁を許さない。そんな彼女が苦手だった。
手を離すと、紙きれはひらひらと舞い落ちていった。見えなくなると何だかほっとした。自分の人生を手放せたような気がした。
もうあれは不要なのだ。あの紙に書かれた俺の受験番号は、先ほど合格発表で張り出された紙の中になかった。初めからそうなるべくしてなった。
結局のところ、何が悪かったのか自分でも見当がつかない。普通の顔で生まれなかったことだろうか。祖母のようにはっきりと口に出す者から、やんわりと遠慮や同情を込めて俺を遠ざける者まで、時に寄り添ってくれる人もいなかった訳ではないが、そうされるほど余計に自分が異質で不幸な存在に思えた。そして俺はいつも、何もかも自分のせいなのだと信じるしかなかった。
心のどこかで、俺は自分の思い込みが不条理なものだと分かっている。全て自分が悪いことにして片付けるのも、実は環境を変えるための然るべき人間的努力を欠いた、ただの怠慢なのかもしれない。でも、もうどうしようもないのだ。誰も味方なんていないし、もう俺は自分の人生を続けたくないのだ。
そうして今日、俺は学校の屋上に立った。
受験に落ちたのはいい口実になった。自分の中で区切りがついた。背中を押された。どうしてもっと早くこうしていなかったのだろうということだけが悔やまれる。
頭では分かっていたのに、自分で認めたくなかった。それだけが、俺の十五年の全てだった。
普段人の立ち入らない、屋上の柵は錆びてぼろぼろだった。その外側に立てば妙に風が強く感じられる。体が浮いてしまいそうで、思わず俺は後ろ手で柵を握りしめた。
眼下に広がるのは砂利が敷かれた駐車場で、遥か遠くには生徒が登下校するアスファルトの舗装路が続く。道に沿って植えられた並木は冬枯れ、花壇は土ばかりの寂しい風景。いつも見ているはずのものも、視点を変えるだけで随分違って見えるものだ。
そんなものを眺めていて、ふと俺は己の脚が震えていることに気付いた。小刻みに、かたかたと。死ぬのが怖いなんて今更。惜しむほどでもない癖に。
大丈夫だ。俺は自分に言い聞かせる。大丈夫。父さんと母さんにはあいつがいる。もう俺など必要ないのだ──。
鉄の柵から手が離れる。風を受け、身体が宙に浮いた。後ろから誰かの声が聞こえた。