序章
欠けた月は美しいだろう?
誰かが言った。少年だ、綺麗な。
満ちた月よりも、ずっとずっと美しい。私はそう思うよ。
本当は丸い月。誰もが完璧だというそのカタチだけれど、本当に丸く見える時間は僅か。そんなものより、と。
あのまま時間が止まればいい。一瞬一瞬があんなに美しいのだから。
でも月は丸を目指して満ち、諦めたかのように欠けていく。その姿が彼を悲しませる。
あれは、欠けているが故ではないだろうか。
言葉を紡ぐ様が、何故だか悲しい。あんまり穏やかに笑うから。
満ちようとする必要などないと思う。同じく、それ以上欠ける必要も。変わる必要なんてないだろう?
その問いは問いではないだろう。少年の隣に立つ青年は、少年をじっと見つめる。
姿を変えようと足掻く様はあまりに哀れだ。きっと皆、ああはなりたくないだろう。
少年は下を見ている。青年は無表情に、少年を見ている。
だから変えてあげようと思う、理を。僕の手が届く範囲だけだけれど。
手をぎゅっと握りしめた少年は、慈愛に満ちた優しい視線を下に落とす。青年も下を向く。
きっと、欠けてこそ完璧になれる。幸せに、なれる。
少年は下を見ている。だから青年が下を睨みつけているのも、唇を噛み締めているのも気付かない。
幸せに、なってほしいから。いつだって美しくあってほしいから。
少年は青年を見上げない。いつも慈愛を下にだけ注ぐ。だから青年はいつも悲しげで、憎々しげだ。 不幸になってしまえ、そう心の中で叫びながら青年は下を見る。
今から楽しみだ。そうは思わないか?
顔も見ず、少年は問う。青年はだから、声だけで答えたのだ。
そうですね・・・とても。
きっと少年の理想こそが、彼らを壊すことだろう。




