タイトル未定2026/10/12 20:08
リビングの壁掛け時計は、既に夜の十時を回っていた。
マスターは、台所のテーブル席に座っていた。
テーブルには、缶ビールとマスターの携帯と小さな包みが置いてあった。
小さな包みの上には「N」と「R」のアルファベットが付いた、キーホルダーが置いてあった。
マスターは包みから出したものの、キーホールダーを、手にすることはなかった。
缶ビールを飲んで、携帯を手にして大門のラインを開いた。
マスター
『無事に免許が、取れました』
大門
『おめでとう!お祝いどうしようかな?何が良い?』
大門が送ったラインは、先ほど気がついたばかりだったので、返事は送っていない。
大門なりに、キーホールダーを選んだのだろう。
車を購入した時、車のキーに付けるためのキーホールダー。
アルファベットの「N」と「R」は、七海と流花の頭文字を取ったものだと、すぐわかる。
マスターは椅子から立ち上がり、冷蔵庫から二本目の缶ビールを出した。
再び椅子に座ると、缶ビールを勢いよく飲みだした。
マスターは診療所の仕事を休み、自動車学校の受付事務員の吉田ひろ子と一緒に試験場に行った。
無事に免許を取った後、ひろ子が離婚をした事実を聞いたマスターは、ひろ子にキスをした。
その後もひろ子の側にずっといて、なんの迷いもなくホテルに行き、お互いの肌を触れ合った後ベッドの中で、ライン交換をしていた。
缶ビールを飲んでいるとラインの着信音が鳴り、マスターは携帯を手にした。
ラインは、先程別れたばかりのひろ子だった。
ひろ子
『今日は、お疲れ様でした。おやすみなさい』
マスターは、携帯を閉じた。
……何故、こんなことになってしまったんだろう。離婚をして、一人ぼっちになった吉田さんに同情をして、彼女を抱いたのか?それとも、流花に会えなくて寂しかったから?……。
マスターは、自問自答を繰り返していた。
……吉田さんと一緒に、免許を取りに行ったのが間違いだった。いや、自動車学校に入校した事が、全ての始まりだった。
こんなことになるなら、免許なんて取らなければ良かった……。
自分の弱さを、強く思い知らされる。
マスターは今さらのように、激しく後悔をしていた。




