第20話 映えたい王子様、藤堂薫(6)
卵は白身を切るようにかき混ぜて、よく溶いておく。
温めたフライパンにバターを溶かし、卵液を流し入れる。
底が固まり、シート状になり始めたら、菜箸で円の直径を挟むようにして、一直線にきゅっと摘まみ、中央に寄せる。
固まっていない卵液が、固まった卵の上から溢れ、新しいシートになる。
次に、フライパンを時計回りに九十度、菜箸を反時計回りに九十度、くっつかないよう少し揺すりながら、それぞれ回転させる。新しい卵のシートを、順番に巻き込んでいくイメージ。
この工程が、ドレスのドレープのように、柔らかな曲線を生み出すのだ。
ドレープが良い感じになるまで、この回転を繰り返す。
「ショート動画で見たことあるやつです!」
薫が嬉しそうに小さく跳ねている。キッチンで跳ねるのはやめなさい。
ともあれ、渦を巻いた模様のオム――オムレツじゃないよな、これ……でも卵焼きでもないし――ええと、オム部分が出来上がった。
次は、これをお皿の上に丸く盛ったチキンライスにかぶせる工程。
チキンライスは一度、お椀に詰めてから平皿をかぶせ、ひっくり返すことで綺麗なドーム状に盛り付けられる。また、オムの部分をチキンライスの上に移す際は、菜箸がチキンライスのドームの頂上に来るよう意識すると、上手くいきやすい……気がする。
慎重に、オム部分の中心から菜箸を外せば、概ね完成。
「姫先輩、凄い……!」
「このままだと菜箸を抜いた穴が見えちゃうから、プチトマトで隠しちゃおう」
ヘタを取ったプチトマトをちょこんと乗っけて、完成。デミグラスソースなんかをオムライスの周りに注ぐとカッコいいんだけど、今日は省略する。
渦を巻いた模様がドレスのスカートみたいだから、ドレス・ド・オムライスというらしい。
おおー、と小さな歓声が上がった。いつの間にか、玲音と一輝先輩もキッチンカウンターの椅子に移動してきていた。
「今、ちょっと気になって調べてみたんだけれど、ドレス・ド・オムライスって1997年に生まれたそうだよ。埼玉県の洋食店『紅亭』が発祥なんだって」
玲音がスマホを見ながら言う。
「ドレス・ド・オムライスもタンポポオムライスも、どっちも令和に流行ったものって印象だったけれど、意外と昔からあるんだね……」
「インターネット、特にSNSの普及によるコンテンツの再発見なのかもしれないな。トップダウン型からボトムアップ型への変遷、膨大なデジタルアーカイブにいつでも触れられる現状が生み出す非前進的流行、いわゆるレトロマニア……」
一輝先輩は瞠目して腕を組み、何やら賢そうなことを言った。
「……レトロといえば喫茶店。姫ちゃん、近年、喫茶店プリンがバズっていたことだし、今から作ってみるのはどうだ。パフェとフルーツポンチも頼む」
どうして最後までクールでいられないのだろうか。
甘いものはまた今度です。
玲音がおずおずと湯気の上がる皿を指さした。
「ところで、このオムライスは……」
「あ、うん。玲音、食べていいよ」
「やった! いただきまーす!」
玲音が皿を引き寄せ、スプーン片手にオムライスに躍りかかった。
楽しそうで何よりです。
さて、次は薫の番。
薫は自分の頬を手でぺちぺちと叩いた。
「よろしくお願いしゃす! よしゃ!」
「気合いの入れ方が体育会系すぎる」
ともあれ、卵液をフライパンに流し入れ、フライパンと菜箸を使って、ドレープを作り上げていく。
……おお、初めてにしては上手だ。
「上手だよ、薫。フライパンを持ち上げて火から遠ざけると、固まる速度が落ちて、ちょっと余裕が出来るかも」
「うす!」
「あと力みすぎかも。菜箸は押しつけるんじゃなくて、位置を固定する感じ」
「うっす! しゃす!」
返事が体育会系すぎる。
焼き上がりは、初めて作ったにしてはかなり綺麗。やはり器用なのだろう。
薫はそーっとチキンライスの上にオム部分を移した。一仕事終えたように、ふう、と息を吐いて、菜箸を持ち上げ――。
「あっ」
と、悲しそうに声を上げた。
菜箸を外す際に、オム部分を破ってしまったらしい。
「破れちゃいました……」
「菜箸が卵にくっついちゃうからね。結構難しいんだよね……」
「では、それは私が食べよう。なに、次に成功すればいいだけだとも」
おお、一輝先輩が久しぶりにちゃんとしたイケメンムーブを見せている……。
「次に失敗したやつは僕が食べるよ! ……姫宮君? なんだい、そのジト目は」
玲音はもう駄目だ。イケメンには戻れそうにないですね。
よろしければ、
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