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婚約破棄されたら国が壊れたので、元王妃候補の私が世界を再設計します ~外された瞬間、流れが崩壊しました~  作者: 東雲 透


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第5話:聖女では、足りない

 翌朝。


 目を覚ました瞬間、私は違和感に気づいた。


 静かすぎる。


 鳥の声が、聞こえない。


 王都の朝は、いつも決まったリズムで始まる。

 遠くで鳴る鐘の音。

 行き交う人々の気配。

 そして、窓の外から届く微かな風の音。


 それが。


 今日は、ない。


 私はゆっくりと身体を起こし、窓へと向かう。


 カーテンを開ける。


 光はある。

 空も晴れている。


 けれど。


「……動いていない」


 街が、どこか鈍い。


 人は歩いている。

 煙も上がっている。


 それなのに。


 すべてが、わずかに“遅れている”ような感覚。


 流れが、淀んでいる。


 私はしばらくその光景を見つめたあと、静かにカーテンを閉じた。


「ミリア」


 呼ぶと、すぐに扉の外から返事があった。


「はい」


「入って」


 扉が開き、彼女が一礼して入ってくる。


 いつも通りの動作。

 けれど、ほんのわずかに、動きが硬い。


「……何かあった?」


 私がそう問うと、ミリアは一瞬だけ視線を逸らした。


 そして。


「王宮内で、少々……混乱が」


「具体的に」


 間を置かずに促す。


 曖昧な報告は、意味がない。


「聖女様による加護の儀式が、昨日行われました」


「ええ」


 当然、知っている。


 婚約破棄の“正当性”を示すための儀式。


「その結果……想定よりも効果が弱いとの報告が」


 私は、わずかに目を細めた。


「どの程度?」


「詳細はまだ……ですが、風の流れが安定せず、一部地域で作物への影響が懸念されていると」


「……なるほど」


 やはり。


 仮説が、裏付けられていく。


 私は椅子に腰を下ろし、指先を組む。


「聖女様は、何と?」


「……成功している、と」


 ミリアは慎重に言葉を選びながら答える。


「ただ、調整に時間がかかるとのことです」


「調整」


 その言葉に、わずかな違和感を覚える。


 本来、加護は“調整するもの”ではない。


 成立するか、しないか。


 そのどちらかだ。


 中途半端な状態は、むしろ危険だとされている。


「王太子殿下は?」


「聖女様を全面的に支持されております」


 即答。


 迷いはない。


 それが、余計に不自然だった。


「……そう」


 私は視線を落とす。


 思考を整理する。


 仮説は、ほぼ固まりつつある。


 婚約。


 それは。


 単なる形式ではない。


 王太子と王妃候補。


 その関係性そのものが。


 この国の“循環”の一部。


 加護の流れを成立させる、条件。


 だから。


 私が切り離されたことで。


 その循環が、途切れた。


 そして。


 聖女では、それを補えない。


「……足りていないのね」


 自然と、言葉がこぼれる。


 ミリアが小さく首を傾げる。


「何が、でございましょうか」


「いいえ」


 私は軽く首を振る。


 まだ、確定ではない。


 だが。


 もし、この仮説が正しいなら。


 問題は、非常に大きい。


 そして。


 誰も、それに気づいていない。


 気づいているのは、おそらく。


 私だけ。


 ──なぜ?


 その疑問が、浮かぶ。


 なぜ私は、この異常に気づけるのか。


 なぜ他の者は、気づかないのか。


 答えは、ひとつしかない。


 私は。


 この仕組みの中に、いた。


 それも。


 “中心に近い場所”に。


 だからこそ。


 切り離された今も、その影響を感じ取れる。


「ミリア」


「はい」


「辺境行きの準備を、前倒しにできるかしら」


 彼女は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。


「予定では三日後と伺っておりますが……」


「それを、今日中に」


「本日中、でございますか?」


「ええ」


 私は静かに頷く。


 ここにいても、得られる情報は限られている。


 それに。


 この場所は。


 すでに、私の居場所ではない。


「……承知いたしました」


 ミリアは深く一礼する。


 その動きは、先ほどよりも迷いがなかった。


 指示が明確であれば、彼女は強い。


 それは、私も同じだった。


 ……いや。


 “同じだった”。


 過去形。


 今の私は。


 まだ、自分がどう動くべきか。


 完全には、定まっていない。


 けれど。


 ひとつだけ、確かなことがある。


 このままでは、いけない。


 何もしなければ。


 この異常は、広がる。


 そして。


 取り返しのつかない事態になる。


 その前に。


 確かめなければならない。


 自分の仮説を。


 そして。


 自分が、何者なのかを。


「……準備を進めて」


「はい」


 ミリアが部屋を出ていく。


 再び、静寂。


 私は、ゆっくりと立ち上がる。


 窓へと向かう。


 カーテンを開く。


 外の空気は、やはりどこか重い。


 流れが、歪んでいる。


 それでも。


 人々は、日常を続けている。


 気づかないまま。


 崩れ始めていることに。


「……間に合うかしら」


 小さく、呟く。


 答えは、まだない。


 けれど。


 動かなければ、何も変わらない。


 私は、窓を閉める。


 その音が、妙に大きく響いた。

第5話まで読んでいただきありがとうございます。


ここで「外の異常」と「主人公の仮説」が少しずつ繋がり始めました。


まだ確信ではありませんが、

読者の方にも「やっぱりおかしい」と感じてもらえる段階を意識しています。


次の第6話では、この異常がさらに広がり、

“偶然ではない”ことがはっきりしてきます。


もし少しでも続きが気になったら、

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