第28話:均衡が崩れる前
空は、静かだった。
風も、水も。
表面上は、安定している。
だが。
「……おかしい」
私は、小さく呟く。
違和感が、消えない。
むしろ。
強くなっている。
「どこだ」
カイルがすぐに反応する。
「……分からない」
私は首を振る。
だが。
確実にある。
流れの中に。
微細な“ズレ”。
それが。
少しずつ、積み重なっている。
「……安定してるように見える」
ミリアが言う。
「ええ」
私は頷く。
「見えるだけ」
それが問題だった。
整っている。
だが。
“自然に整っている”のではない。
無理やり、均されている。
そんな感覚。
「……圧がある」
私は、空を見上げる。
見えない何かが。
上から押さえつけているような。
そんな、重さ。
「……嫌な感じだな」
カイルが低く言う。
彼も感じている。
この違和感。
「……支点を確認する」
私は、すぐに動く。
近くの支点へ向かう。
あの窪地。
最初に見つけた場所。
そこに、異常はないか。
確認する。
そして。
手を触れた瞬間。
「……っ!」
息が止まる。
流れが。
強すぎる。
安定しているはずの場所で。
逆に。
過剰に“固定”されている。
「……何これ」
思わず、声が漏れる。
自然じゃない。
こんな流れは。
本来、ありえない。
「どうした」
カイルが近づく。
「……固定されてる」
私は言う。
「流れが、止められてる」
「止められてる?」
「ええ」
私は、ゆっくりと立ち上がる。
「支えられてるんじゃない。縛られてる」
その違いは、大きい。
本来の支点は。
流れを“通す”もの。
だが、今は違う。
流れを“抑え込んでいる”。
「……誰かがやってるのか」
カイルの声が、さらに低くなる。
「……分からない」
私は首を振る。
だが。
確実に言えることがある。
「これは、私じゃない」
私のやり方ではない。
もっと強引で。
もっと一方的な。
そんな力。
「……外からの干渉か」
カイルが呟く。
私は、ゆっくりと頷く。
「たぶん」
そして。
理解する。
この違和感の正体を。
「……バランスが崩れる」
小さく、呟く。
「何?」
「均衡よ」
私は、はっきりと言う。
「今は無理やり安定してる。でも、このままだと」
一度、言葉を切る。
その先は。
あまりにも明確だった。
「……一気に崩れる」
静寂。
風が、止まる。
その瞬間。
「……来るぞ」
カイルが、低く言う。
私は、空を見上げる。
歪みが。
動く。
今までとは違う。
明確な“意図”を持って。
そして。
「……っ!」
次の瞬間。
遠くで。
大きな音が響いた。
地面が、揺れる。
「……どこだ!」
カイルが叫ぶ。
私は、すぐに方向を見定める。
「……東側の村」
あそこは。
さっき繋いだばかりの場所。
まだ、安定していない。
「……間に合うか」
カイルが問う。
私は、ほんの一瞬だけ考える。
距離。
時間。
状況。
そして。
「……行くしかない」
それが、答えだった。
間に合うかどうかじゃない。
行くしかない。
私は、走り出す。
風が、再び乱れる。
水の流れが、揺れる。
さっきまでの安定が。
一気に崩れ始める。
そして。
確信する。
これは。
ただの異常じゃない。
“壊されている”。
その事実が。
冷たく、胸の奥に落ちた。
第28話まで読んでいただきありがとうございます。
ここで「崩壊の前触れ」を描きました。
今までの安定は、
実は“無理やり押さえつけられていたもの”だった、
という構造が見えてきています。
次はいよいよ、
大きな転換点となる回です。
ここまで積み上げてきたものが、
どうなるのか。
ぜひ続きも読んでいただけたら嬉しいです。




