第25話:ここでなら、できる
村に戻る頃には、空気は明らかに変わっていた。
風は、一定の流れを保っている。
水も、止まらない。
完全ではないが。
“崩れない状態”が、維持されている。
「……本当に、持ってる」
村の男が、驚いたように呟く。
「さっきまでとは、全然違うぞ」
「畑も、持ち直してる……」
次々と、声が上がる。
不安ではない。
戸惑いと、安堵。
そして。
わずかな、期待。
私は、その様子を静かに見ていた。
胸の奥に、じんわりと何かが広がる。
それは。
王都で感じていたものとは、違う。
役割を果たした達成感ではない。
もっと、直接的な。
“届いた”という実感。
「……あんた」
声をかけられる。
振り返ると、最初に反発していた男が立っていた。
腕を組み、こちらを見る。
その目には、まだ警戒はある。
だが。
明らかに、変わっている。
「……やれるじゃねぇか」
短い言葉。
それだけ。
それだけだったが。
十分だった。
「……まだ途中よ」
私は静かに答える。
「これで終わりじゃない」
「分かってる」
男は、あっさりと頷く。
「でもよ」
少しだけ視線を外し。
そして、戻す。
「……助かった」
その言葉に。
私は、一瞬だけ言葉を失った。
それは。
初めて、向けられたものだった。
純粋な。
感謝。
「……そう」
私は、小さく頷く。
それ以上は、言わなかった。
言葉にすると。
何かが崩れそうだったから。
「……で、これからどうする」
カイルが横で言う。
私は、視線を上げる。
空を見る。
歪みは、まだ残っている。
だが。
確実に、弱まっている。
「……広げるわ」
私は答える。
「このやり方を、他の場所にも」
「この村だけじゃ足りないか」
「ええ」
私は頷く。
「全体で繋がないと、安定しない」
それが、分かった。
局所では意味がない。
面で支える必要がある。
「……範囲は?」
「この領全体」
はっきりと言う。
カイルが、わずかに目を細める。
「……本気か」
「ええ」
迷いはない。
やるしかないから。
「……面白い」
カイルが、小さく呟く。
そして。
少しだけ、口元を緩めた。
「いいだろう」
その声は。
これまでとは違っていた。
「全面的に協力する」
その一言で。
空気が、変わる。
村人たちも、ざわめく。
「領全体……?」
「そこまでやるのか」
驚きと。
戸惑い。
そして。
期待。
私は、まっすぐに立つ。
この場所で。
やることは、決まった。
「……やるわ」
静かに。
だが、はっきりと。
「全部、繋げる」
それが。
私の選択。
そして。
この場所での、役割。
違う。
役割ではない。
自分で決めたこと。
それが。
今の私。
王妃ではない。
誰かのための存在でもない。
けれど。
ここでなら。
「……できる」
小さく、呟く。
その言葉は。
確かな実感を持っていた。
私は、前を向く。
まだ、始まったばかりだ。
この地を。
この流れを。
すべて繋ぐための。
長い、再構築の道が。
第25話まで読んでいただきありがとうございます。
ここで第2章前半の一区切りとなります。
主人公は
・方法を見つけ
・結果を出し
・現場で認められ始めました。
ここからは、
「個人の対応」から
「領全体の再構築」へとスケールが広がっていきます。
そしてカイルとの関係も、
対立から“共闘”へと変わっていきます。
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