それでは行こうか、キサラ。
猫にマタタビ、キサラに鬼ごっこ。
結果だけを言えば、あっさりと黒幕は捕まったわ。
黒幕は、ヴィレイム辺境伯の弟で、爵位や領主の座を狙っての犯行だった。
捕まえた盗賊共に対して、私自らの手腕に因る尋問から、文字通りに「芋づる式」に関わった人物が分かり、見事に黒幕まで繋がっていた。
因みに、立ち会ったソーマとヴィレイム辺境伯から送られた文官は、私の拷問込みの尋問に青い顔をしていたわ。
最初だから緩いかなぁ~と思ったけど、これで、その反応なのは私もビックリしたわ。
……まあ、それでも1週間は掛かり、私は友人の形見としてレイチェルに拘束され動けずにいた。
私としては、ソーマと共に協力して黒幕を捕縛したいと望んだけど、レイチェルが離してくれなかったわ。
私は、この世界の少なくとも地上でなら「上」から数えた方が早い「強者」だと思うけど……
そして、今日は、意味合いとしては「あたい」やレイチェルにとっては、両親に対する「通夜」とも言える、私とソーマへの「お別れ会」が開催されているわ。
……実は、かなりソーマが出来る男みたいで、黒幕逮捕に大きく貢献を果たした。
ヴィレイム辺境伯は自陣に取り込みたかったけど断わられた為に、こうして「お別れ会」を開催して印象を良くしようと考えたみたいね。
そして、私とソーマはベランダに出て夜風に当たって涼んでいる中で、ソーマが話し掛けて来たわ。
「なあ、キサラ。」
「何、ソーマ。」
「キサラ、お前は誰だ?」
「何をいきなり言っているの、ソーマ。」
「キサラという名前は『お前』の名前だろうし、身体も『お前』のだろう。だが、中身が違う!」
「ソーマ……」
「もう一度言う。お前は誰だ?」
「ふむ。」
「……え!?」
私は、ソーマが警戒して「私」を見ていたにも関わらず、異空間収納から愛刀を抜き身で振るい、ソーマの首筋に切っ先を触れた事で、ソーマは今の状態に気付いた。
「何処から?」
「……先ず、最初の違和感は、その武器だ。そんな武器は、この人生で一度も見た事が無い。」
「……そう。」
「次に……」
「まだ有るの!」
「ああ。次に、その匂いだ。」
「匂い?」
「ああ。レイチェル夫人が聞かないから、他の者も聞けないみたいだが、そんな良い匂いを出す身体を洗う物なんて、見た事も聞いた事も無い。」
「迂闊だったわ。まさか、その様な所から私をう……
ちょっと待て! ソーマの『この人生』とは、どういう意味で言ったの! 答えなさい!」
私の愛刀の切っ先からは、赤い水が滴り始めていた。
「……俺は、……転生者だ。此処とは違う異世界から今までの記憶を持って、この世界の者として生まれた。」
愛読していた書物にも有ったわ、こんな「テンプレ」は。
「前世の人生で所属していた国の名は?」
「……日本だ。」
私は、愛刀を振るい使い捨ての布で汚れを落として異空間収納に仕舞った。
「まさか、同じ世界の者と出会うとは数奇なものね。」
「……と、言う事は、お前も日本人なのか!」
「確かに、私が最も関わるのは日本人だけど、ちょっと違うと言えるわね。……鬼術、目印。」
「……ぐ。何をした?」
「一瞬とはいえ、苦痛を与えてしまった事には謝罪するけど、単なる『目印』よ。詳しい事は、今ではなく、明日、落ち着いて話し合いましょう。
言っておくけど、その『目印』は、効果が1週間は続くわ。
だから、私からは逃げられないわよ。」
「……分かった。」
「この都市にも、冒険者ギルドやらが有るらしいから、そこで話し合いましょう。」
ソーマとの話は、此処で終わり、今日の「お別れ会」も、終了して私は部屋の戻り寝間着に着替えてベッドに入り、明日からの冒険に胸が膨らむ中、就寝した。
……ソーマの「魂」は、綺麗だった。
翌日、レイチェルとマリナに惜しまれながら、領主館を後にしたのだけど、レイチェルに、入浴後の「匂い」について、何故、聞かないのかと尋ねると、「もしかしたら、メリナの形見かもしれなかったから諦めていたわ。」という返答が返ってきた。
……まあ、女神との約束で、販売は禁止で、自分だけか、その時に一緒に居る信頼する者達限定で、使う事が許された物だから。
因みに、中身は自動補充されるわ。
「それでは行きましょう、ソーマ。」
「分かった。」
そう!
実は、私とソーマは一緒に冒険者ギルドに行く事にした。
何故なら、昨夜、ソーマは私に対して危険を感じて脱走を試みたけど……
「私相手に、『鬼ごっこ』なんて、100年早いわ!」
2、3回遊んだら諦めた様ね。
そして、私達は冒険者ギルドに到着して、中に入り私は冒険者登録をした。
用意された書類に「名前」等を記入して、数多くの愛読書に描かれていた属性と魔力量を図る水晶球に、水色の光を出した後、一瞬で粉砕したわ。
……そうでしょうね。確かに、身体は、この世界の者かもしれないけど、魂は別物だから。
そして、その後は普通にギルドカードを発行され、規則等の説明を受けた。
安心して欲しいわ。
……私は、規則を守る事も「守らせる事」も得意よ。
冒険者には、ランク制を採用していて、最低ランクが「G」から始まり、最高が「S」だけど、「S」は「化け物」とか「人外」とか呼ばれる存在な為に、現実的な目標としては、「A」が最高ランクになるわ。
更に、冒険者同士の諍いについても聞いた。
説明が終わると、受付嬢が「少し待っててくださいね。」と席を外したけど、その時に、声を掛けてくる者が現れた。
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