第7層 『相棒と踊れ』
特殊システム解放
『相棒と踊れ』起動?
▶YES NO
俺は目をパチパチさせて自分の目がおかしいのかと擦ってみる。
だがそれは消えることはなかった。
特殊システム。
そういえばS級が、消える前にそんなことを言ってた気がする。
名称は違う気がするが‥もしかしたら…生きて帰れるかもしれない。
俺は振り返ってメーリィの手を取り力強く握る。
「メーリィ、俺を信じて最後までついて来てくれるか?」
そう真剣に彼女に問いかけた。
彼女はそんな俺の顔を驚いた顔で見た後、何故か頬を赤らめて
「はい、アジェンドさんとなら何処へでも」
そう言ってはにかんで微笑む。
…後に聞いたところによるとこの時、最後を覚悟したと彼女は言っていた。
俺はその答えを聞き、大きく頷き。
「特殊システム、発動!『相棒と踊れ』!」
そう叫ぶと視界の文字が切り替わる.
特殊システム起動
相棒選択
▶︎メーリィ・カドマエ
『相棒と踊れ』発動
モード『短期集中型』
その瞬間、明らかに身体が軽くなった。
疲労感はあるがまだ序の口と感じる。
スタミナが底上げされた感覚だった。
それだけじゃない、身体のキレもいい。
なんだか、能力上昇系の魔法を受けた時に似ているが、段違いに上昇率が違っている気がする。
「…な、なにこれ!!」
目の前のメーリィが驚きの声を上げた。
彼女も同じ間隔に捉われているのが分かる。
先ほどまで青くなっていた顔色に生気が漲り、活力が溢れているのがわかる.露出された肌も張りと色気が戻り…一層煽情的な…はっ!!
俺はけしからん胸元に釘付けになるのをを振り払うために首を振る。
その時、
背後から追いついた先頭の鎌昆虫が襲いかかって来た。
「せ、せんぱい!!」
メーリィが慌てて叫ぶ.
だが俺はしっかりと冷静だった。だいぶ前から【魔物感知】で鎌昆虫との距離は測っている。
奴らの動きが遅過ぎて、うっかりメーリィの胸元に引き寄せられたが、それでもまだ余裕があった。
突進するように突出してきた鎌昆虫に俺は左のバックブローの要領で魔法大楯ごとぶん回した。
盾がすごい勢いで魔物の頭部にぶち当たり、ベチャリという音を立てて鎌昆虫の頭部は砕けてしまう。
俺はメーリィに
「メーリィ、右腕を‥」
そう声をかける前に彼女は俺の右腕に飛びつき
【治癒】をかけていた。
見る見る治癒されていく右腕。
裂傷も骨折も見る影もなくなっていく。
痛みは残っているが全然問題ないレベルで回復した。
「よし!!」
右腕を動かして見て、問題ないのを確認して
腰に差していた予備の小剣をメーリィに投げて渡す。
「サポート頼む」
「了解しました」
俺は今、彼女をものすごく身近に感じる。
まるで魂を分けたもう一人の自分のようだった。
たったこれだけの会話で俺たちはすべてを分かり合えた。
かれこれ彼女とは迷宮探索を共にしてきたがこの感覚は初めてのことだった。
メーリィがすごく幸せそうに屈託なく微笑み
「いま、初めて先輩と深く繋がってる感じがしますぅ♡」
その言葉に俺はずっこけかける。
と、とんでもないことを言い出しやがった!!
「お、お前ね。表現に気をつけろよ」
正面からは、先ほどまで手も足も出なかった魔物が群をなして迫っている。
「えー、だってぇ、すっごく感じるんですよぅ。センパイだってそうでしょう?」
俺はなにも言わずに正面を見据えて
「とりあえず、今ほどお前を頼もしいと思ったことはないってのは認めるよ」
そう笑って腰の剣に手をかけて魔物に向かって走り出す。
今の俺ならこの剣の持ち主だった男の剣技を体現できるかもしれない。
俺はイメージする。あの時、感動したすさまじい剣技を。
そしてその軌跡を辿るように剣を抜き、魔物の身体に滑らせた。
鎌昆虫の身体が、まるで薄布を切ったような感覚で、スルリと剣が走り抜け、真っ二つになる。
「ちっ」
俺は眉をしかめて舌打ちをした。
さすがに同じようにはいかないか…。
気を落とさずにそのまま剣を振り、一匹、2匹と次々と魔物を斬り捨てる。
4匹目を斬り捨てた時、塵と消える鎌昆虫の身体を目くらましに使った豚鬼タイプがでかいこん棒を振り上げて襲い掛かってくる。
俺はまだ反撃の態勢を取っていなかった。その必要は感じなかった。
なぜならその隙をカバーするように俺の脇をすり抜けてメーリィが、低い姿勢で駆け出し豚鬼の腹に剣を突き立てる、
そのままアッパーのようなモーションで剣を引き上げて豚鬼の腹を引き裂いて止めを刺す。
俺たちは一瞬、視線だけを通わせると次の獲物へと斬りかかっていった。
最後の最後の一匹をメーリィが処理して
この通路に突っ込んできた魔物たちはいなくなっていた。
さすがに息が上がっていたが余力は残っている。
俺は自分の手を見る。
これが特殊システムの力…。
よくわからないが、圧倒的に基本能力が上がっているのが分かる。
未だ俺の視界の右隅には
『相棒と踊れ』
モード『短期集中型』起動中
相棒
▶メーリィ・カドマエ
の文字が見えていた。
腰の携帯袋から朱い薬瓶を取り出す。
これは疲労を回復する効果のある薬瓶だった。その瓶の中身を飲み干し
「少し休もう。魔物の鳴き声も聞こえなくなってきた。『魔物暴走』もおちついたのかもしれない」
俺はもう一本、薬瓶をだして、メーリィに渡そうと振り返ると彼女が勢いよく抱き付いてきた。
「せんぱいっ。この状態ってなんなんですか??もうなんか・・・たまりません♡」
その言葉に少し頭痛がして頭を抑えた‥‥。
感覚的に言いたいことはわかるが…こいつ言ってることがとりあえず間違っている…。
彼女も今のこの感覚を持て余していることを伝えたいのだろうが、上手く表現できていなかった。
まぁ…分からなくもない。
俺も現状の状態を上手く表現できずにいる。
「とりあえずこれを飲みなさい」
そう言って薬瓶を渡そうとしたがメーリィは首を振って
「さっきせんぱいが飲んでくれたんで、おなかいっぱいですぅ。それだけでし・あ・わ・せ♡」
彼女はうっとりしながら抱きついた腕にさらに力を込める。…胸が当たってるぞ。
メーリィは幸せそうに笑っている。
俺はその状況にさらに頭を抱える。
どういう事態かはわからないが、この特殊システムの効果は
1、身体能力の飛躍的上昇
たぶん、能力上昇系の魔法などではない。
2、対象との精神的接続
意思の疎通が感覚的に強くなる。
3、身体的効果の共有。
回復などの効果がお互いに作用するようだ。
今のところそれくらいしか分からない。
気になるのはこの
モード『短期集中型』
と書かれていることだ。
もしかしたらこのシステムには時間制限があるのかもしれない。
そうなら切れる前に出口を見つけねば。
俺は休憩は諦めて、抱き着いて離れないメーリィの頭をに手を置きぐりぐりかき回しながら、通路に視線を送り
「時間がない。出口を探すぞ」
そう言うと彼女はパっと顔を上げて
「はいっ!!一緒に帰りましょう!!」
そう言って力強く頷いた。




