第22層 軍団結成に向けて
酒の残る頭を抱えて、俺はゆっくりと起き上がる.
流石に昨夜は飲み過ぎたため、今日は休暇とすることをメーリィとの別れ際に決めた。
テンション高かった彼女は、駄々をこねたが(俺の家に泊めなかったことも含めて)どうせあの子はまだ起きても居ないだろう。
俺はとりあえずベッドから這い出て、外に出て体を動かす。
日が出てだいぶん立っては居たが、皆が活動を始めたくらいの時間だ。
そして家に戻って湯を沸かし、体を拭いてから朝食にする。
コーヒーと買い置きのパンを食べつつ、昨日、メーリィが言った言葉を思い出す.
「センパイっ!!わたしたちの軍団、作りましょ!!」
その言葉を思い出す.ズシリとくる言葉だった。
冒険者になりたての頃、夢見ない日はなかった。
「F級初の軍団」
今、俺はその夢を叶えることができる立ち位置にいた。
軍団の結成申請に必要なのは
・6名以上の冒険者メンバー
・8階層以下の協会依頼をこなすこと。
この2つの条件だけである。
これが公式な条件であり、あり大抵にいうなら「F級は軍団は作れない」ということだ。
そして非公式な条件で「同格付帯でなければならない」というのが存在する。
過去、俺はD級E級の馴染みの冒険者と一緒に、軍団を立ち上げようとしたことがある。
しかし申請しても不備があるの一点張りで、受け取ってもらえなかった。
そんな苦い記憶と共に俺は軍団結成を諦めたが、あの時と違って今の俺にはコネがある。
条件を超えれる『力』もある。
今こそ諦めていた夢を追う時なのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は手に持ったカップのコーヒーに口をつける。
考え事の間に冷えて不味くなったコーヒーを、一気に飲み干して立ち上がる.
まずは仲間だ。当てはある。
とりあえず今日は次の迷宮探索に同行してくれる奴に会いにいかなければ。
それと…気が重いがどうしても会って説得せねばならない奴がいた。
おれは少し気が重くなったが、出かける準備を始めた。
この殺伐とした迷宮都市の市場のなかにあるとある一軒の店を訪れる。
その店はかれこれ老舗らしく、年季の入った店構えをしている。この街には相応しくはない色とりどりの花々が咲き飾られた花屋さんであった。
俺は店の前で花の手入れをしている、40代くらいの清楚な女性に声をかける。
「こんにちは、お久しぶりです」
「あ、はーい、いらっしゃ・・・」
女性は花の手入れから手を離し、こちらを振り返って俺をみた瞬間、動きが止まり両目を見開く。
「あ、あ、……シ、シズクちゃん。シズクちゃん!!すぐ来て!!」
女性はすごい大声で店内に向かって誰かを呼んだ後、すぐに俺に駆け寄って俺の手を取り、
「い、生きてたんだね!!シズクちゃんが死んだって…」
目に涙を浮かべて女性は嬉しそうに笑う。
ああ、そうか。まだ俺が生きてることを知らない人も多いんだった。
41階層から戻ってこっち、知り合いとあまり会っていない。噂が流れて信じてる者もたくさんいるだろう。
「ええ、なんとか生きてます。すいません。いろいろあってまだ生きてることを報告して回ってないんです」
本当に喜んでくれる女性を見て、俺はちょっと照れ臭くなる。
生きていることを本当に喜んでくれる店の店主の女性と話していると、店の奥から
「どうしたんです?なにかあり・・・」
そう言いながら出てきた人物も俺を見て動きが止まり、
「アジェンド…さん?な、なんで…?」
そう言って呆然として持っていた花の鉢を落とす。
ガシャーンという大きな音がしたがシズクと呼ばれた人物は驚き動かない。
「よう。まぁ…なんだ。実はなんとか生きて帰ってこれたんだ」
そう言うとシズクは目から涙が溢れだし
「あ、あ、あアジェンドさんっ!!!なんで?この間、迷宮に行った知人がアジェンドさんは41階層で亡くなったって教えてくれて…。でも信じられなくて。よかった。ほんっとによかったぁ」
シズクはそう言って両手を広げて俺に抱き着こうとする。
俺はそれを手で制し、
「ま、まて、シズク。ここで抱き着くのは簡便だ。人目がありすぎる」
そう言うと、抱き着こうとしたシズクも我に返ったようにストップし、
「あ、そうですね。さすがにここじゃ…」
そう言って涙、鼻水でぐしゃぐしゃのまま冷静に周りを見渡し照れて答えるシズク。
もう一度、俺をしっかり見て、涙を流しながら喜ぶ。
「ほんとに…生きてるんですね。嬉しい‥‥こんなにうれしいことはないですよ」
そう言ってまた顔面をくしゃくしゃにして喜ぶ。
俺はそんなシズクの顔を見ながら
「もっと早く報告に来れればよかったんだが、ちょっとバタバタしててな。悪かったよ」
そう言ってなだめる。
シズクは何度もよかった…。よかった…とつぶやき手で涙をぬぐっていた。
「ところで、明日以降にメーリィと一緒に迷宮に潜るんだが、部隊として一緒にきてくれないか?」
メーリィの名が出ると
「彼女も!!彼女も生きているのですかっ!?」
シズクはさらに驚き、顔を上げてぐっと前に出る。
俺は少しびっくりしてたじろぎ一歩後退する。
「あ、ああ。彼女と一緒に帰ってきたんだ。だから元気だよ」
シズクはまた涙ぐみ、目尻の涙を指で拭いつつ
「そうですか…よかった。ボクだけ置いて2人が逝っちゃったと思って…、ずっと悲しかったんです…。ほんと…よかった…」
そんなシズクを見て俺は微笑んで肩を叩いてやり
「悪かったよ。そんなに心配させてさ。それで迷宮探索の同行、お願いできるか?」
もう一度お願いする。
シズクは半泣きで真面目な表情を作って
「ええ、喜んで。冒険者としての活動は久々ですが、お力になれるようにがんばります!」
そう言ってニコリと笑い、ガッツポーズを取った。




