↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/12

第1話 天正八年の雪と、言えなかった三文字

はじめまして、またはお久しぶりです。余韻えいしゅんです。

前作「僕の机は君の机」を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。


本作は全12話、完結まで執筆済みです。毎日19時20分に更新します。

(初日のみ3話同時更新です)


※第1話〜第3話には、戦いや死の描写があります。苦手な方はご注意ください。


作者は外国出身のため、日本語や時代考証でおかしな点があるかもしれません。

誤字報告やご指摘、いつでも大歓迎です。

同じ趣味の方の感想やメッセージも、お気軽にどうぞ。

山頂の古い松林を北風が吠えながら通り抜け、天正八年の冬の骨を刺すような寒さを運んでいた。谷は真っ白な雪に覆われ、万物は静寂な喪服の下に埋もれていた。森の端に佇む粗末な木小屋の中、囲炉裏の揺らめく炎が、龍馬の無骨で風霜に耐えた顔を照らし出していた。彼はうつむき、自分の荒れた両手を静かに見つめていた。十年間、人を斬るために剣を握り続けたことでできた無数のタコは薄れつつあり、代わりに薪割りや畑仕事でできた新しい傷が刻まれていた。

龍馬はかつてさる大名家に仕えた侍大将であり、命令に従い殺戮を繰り返すよう訓練された血に飢えた暗殺者だった。彼はこの世界が鉄と血によってのみ維持されると信じていた。しかし、時代の腐敗や、権力のための無意味な虐殺の数々に、彼は自身の剣に身震いするほどの嫌悪感を抱くようになった。彼は脱走し、腐りかけた魂と血を流す傷を抱え、放浪の浪人となった。この飢えた村の門前で倒れた日、彼は目を閉じ、死を待っていた。しかし、彼は再び目を覚ました。

死の淵から彼を引き戻したのは、ユキだった。労咳という残酷な病に侵され、風に吹かれる枯れ枝のように痩せ細った小さな少女は、信じられないほど澄んでいて、奇妙なほど静かな瞳を持っていた。彼女は彼から漂う血の匂いを恐れず、彼が胸に固く抱きしめる刃こぼれした剣も気に留めなかった。彼女は粗末な布切れで彼の顔の泥を拭い、灰に埋めて焼いた里芋の半分を差し出した――それが、その凍える冬の日に彼女が持っていた唯一の食べ物だった。

その日以来、龍馬の中の血に飢えた獣は完全に死に絶えた。彼は剣を丁寧に包み、床下に隠し、もう二度と命を奪うためにその鋼の刃を振るわないと心に誓った。この両手は、ユキのそばにあるささやかな平穏を守るために使いたかったのだ。

彼らの生活はゆっくりと、素朴に過ぎていったが、その些細な日常の全てが龍馬の魂に深く刻み込まれた。ユキの愛の振る舞いは決して派手なものではなかったが、それは温かい雫のように浸透し、彼の胸の中にある千年の氷を溶かしていった。彼女は人に優しく接する方法を、残酷な運命を少しも恨むことなく、逞しく生きる方法を彼に教えた。

彼は彼女の毎朝の習慣を鮮明に覚えていた。龍馬が縁側で竹籠を編んでいるとき、ユキは静かに彼のそばに座っていた。わずかな米で昼飯に何を作るか考え込んでいるとき、彼女の人差し指は無意識のうちに木の床をトントンと叩くのだった。三つの規則正しく、ゆったりとしたその響きは、彼の心の中で平穏を示す道標の音となった。

夏、薪を背負って汗だくで山から下りてくると、ユキはいつも路地の入り口で待っていた。彼女は決して「疲れた?」とは聞かず、ただ微笑んで、竹の柄杓で掬った冷たい湧き水を彼の頬にそっと押し当てた。その急な冷たさに龍馬はいつも飛び上がり、まぶしい太陽の下で二人は弾けるように笑い合った。彼女はいつも背伸びをし、細い手で彼の襟のシワを丁寧に伸ばし、憂鬱を払い落とすかのように彼の胸を軽く叩くのだった。

しかし、龍馬にとって最も忘れられず、最も渇望した習慣は、凍てつく冬の夜に起きた。労咳の発作がユキを疲弊させると、彼女は囲炉裏のそばで膝を抱えて座り、苦しそうに息をした。無駄に慌てふためく代わりに、龍馬は歩み寄り、床に座り込み、主人の温もりを求める大きな犬のように、大人しく彼女の膝に顎を乗せた。そんな時、どんなに疲れていても、ユキの小さな手は彼の乱れた髪に指を絡ませ、うなじを優しく掻いてくれた。彼女の指先の少しざらついた感触は奇妙な安らぎをもたらし、修羅場を潜り抜けてきた男の殺意や警戒心を完全に消し去ってしまった。

龍馬にとって、ユキは世界の全てだった。彼は自分が生まれ変わったのだと信じていた。

しかし、血の負債を抱える者を、運命は決して見逃してはくれなかった。

師走のある早朝、森の周りで獣の罠を確認していた時、元侍大将の鋭い直感が瞬時に異変を察知した。雪の上に残された乱れた馬の蹄の跡、無残に切り落とされた木の枝、そして風に乗って漂う微かな硫黄の匂い。国境沿いで略奪を働く脱走兵らしき反乱軍の残党が、谷からそう遠くない場所に野営していたのだ。彼らの次の標的は、間違いなくこの飢えた村だった。

龍馬の胸が締め付けられた。かつての直感が燃え上がったが、それは血の渇きでも、個人の名誉のために戦う欲望でもなかった。ただ、絶対的な恐怖が彼の胸を息苦しくさせていた。ユキを失う恐怖だ。

彼はすぐに家に戻り、密書をしたためた。かつての主家で使っていた軍の符丁を用いて、龍馬は反乱軍の正確な座標と兵数を記した。手紙を包み、隣村の年老いた木こりに託し、八里離れた領主の砦へ大至急届けるよう頼んだ。盗賊を包囲するための騎馬武者の援軍を急ぎ要請したのだ。

使いが出発した後、龍馬は時間を計算した。領主の軍は常に腰が重く、対応が遅い。援軍が到着するまでに少なくとも半日はかかるだろう。その間にも、盗賊はいつ谷になだれ込んでくるかわからない。もし今、村人全員を起こして逃げたとしても、厚い雪の中、体の弱い老人や子供たちは、開けた平原で盗賊の毒矢の格好の標的になってしまう。ユキも微熱があり、氷点下の寒さの中を遠くまで移動することはできなかった。

彼は時間を稼ぐため、単独で行動することを決意した。村へ続く唯一の峠道を塞ぎ、彼らを足止めするのに十分な混乱を引き起こせば、領主の援軍は間に合う。それは戦い慣れた男の頭の中では完璧な計画だったが、最も残酷な悲劇の始まりでもあった。

龍馬が床下から古い剣を引きずり出し、積もったホコリを払った時、ユキは縁側に座っていた。彼女は彼を見つめた。その瞳は、さざ波一つない秋の湖のように静かだった。龍馬は歩み寄り、自分では最も自然だと思える笑顔を作った。彼は彼女の前に片膝をつき、細い手を優しく叩いた。

「雪が激しくなりそうだ。食料も薬も尽きかけている。山の向こうの交易場まで行って、少し物資と交換してくる。夕方には戻るよ」

ユキはすぐには答えなかった。彼女の人差し指が着物の裾をトントントンと軽く三回叩いた。彼女は彼の目を深く覗き込んだ。それは龍馬が鞘を落としそうになるほど、心を見透かすような眼差しだった。しかし、彼女は優しく微笑んだ。立ち上がり、一番ぼろぼろの毛皮の外套を彼の肩に掛け、いつものように襟元を丁寧に直してくれた。

「とても寒いから。早く行って、早く帰ってきてね。夕ご飯、温めて待ってるから」

彼女の声は羽のように軽く、微かな動揺もなかった。龍馬はうなずき、彼女をきつく抱きしめ、背を向けて白い雪の中へと歩き出した。彼は彼女を騙せたと確信し、絶対的な平穏の殻を彼女のために守り抜いていると信じていた。彼が背を向けたその瞬間、最初で最後の涙がユキの頬を伝い落ちたことを、彼は知る由もなかった。

狭い峠での戦いは極めて熾烈を極めた。龍馬は殺すためではなく、守るために戦った。彼は自らの体を城壁とし、敵の武器を砕き、崖下へと投げ落とした。彼は追撃せず、貪欲に前進することもなかった。ただこの位置を死守すればよかったのだ。血まみれの二時間、元侍大将の圧倒的な力の前に、何十人もの盗賊が後退を余儀なくされた。

しかし、乱戦の最中、龍馬は背筋が凍るような事実に気がついた。雪の上の足跡だ。彼らは約二十人しかいない。しかし、彼が受けた密報では盗賊は五十人近くいるはずだった。彼らは総攻撃を仕掛けているわけではない。これは陽動だ!

龍馬の全身の血が凍りついた。彼は弧を描くような一撃を放ち、目の前の三人の盗賊を吹き飛ばすと、防御を放棄して背を向け、狂ったように谷の方向へ走り出した。顔を打ち据える木の枝も、凍てつく空気で焼け付くような肺の痛みも無視して、死に物狂いで走った。戦闘に気を取られ、背後を完全に無防備にしてしまっていたのだ。

「援軍は…援軍は何をしている!お前たちはどこにいるんだ?!」彼は絶望の中で吠えた。彼は変わった。すべて正しいことをしたはずだ。領主に急を知らせ、傲慢に敵を殲滅しようとはせず、ただ守りたいだけだったのに。なぜ天はこれほどまでに残酷なのか?

龍馬がよろめきながら村の入り口に辿り着いた時、目の前の光景に彼の魂は砕け散った。黒煙が空に立ち上り、藁葺き屋根の家々が激しく燃えていた。そして、村の中央にある一番広い広場に、ユキが立っていた。

今朝はドアの外に出ることもできないほど弱っていた病の少女が、今はそのぼろぼろの体で村人や子供たちを守るために、倉庫の扉の前に立ちはだかっていた。彼女の全身は血にまみれていた。折れた槍の半分を杖代わりにして、その瞳は静かだが恐ろしいほどの強い意志を宿し、包囲網を狭める反乱軍の残党を睨みつけていた。

「これ以上近づかないで!援軍がもうすぐ来るわ!あの人が…あの人がもうすぐ帰ってくる!」彼女の言葉は嗄れ、震えていたが、一歩も引くことはなかった。

龍馬は心臓を無数の針で貫かれたように感じた。涙が溢れ出し、顔の血と混ざり合った。彼は叫んだ。静寂な夕暮れの空気を切り裂くような、引き裂かれた声で。「ユキ!」

聞き慣れた声に、ユキは振り返った。血まみれでありながらも無事に立っている龍馬の姿を見た瞬間、彼女の全ての防御、張り詰めていた気丈さが突然崩れ落ちた。痛みの皺を和らげるような、究極の安堵の笑みが彼女の唇に咲いた。彼女の手は無意識に折れた槍を手放した。

絶対的な安心から生まれたその致命的な隙を突き、木陰に隠れていた盗賊の頭が飛び出した。長い鋼の槍が風を切って飛び、ユキの細い背中へと真っ直ぐに向けられた。

「やめろ!」

龍馬は雪を蹴立て、野獣の速さで身を躍らせた。彼は剣を投げ捨て、両手を伸ばした。攻撃を弾くつもりも、敵を斬るつもりもなかった。ただ、自らの巨大な体で彼女を包み込みたかったのだ。彼は飛び込み、ユキを抱き寄せるように体を折り曲げ、彼女の頭を自分の頑丈な胸にうずめさせ、迫り来る槍へと背を向けた。

ザクッ。

冷たく、虚ろな音が響き渡った。

時間が凍りついたかのように思えた。すべての動きが止まった。鋭い槍の穂先が革の鎧を突き抜け、龍馬の脇腹と左肺を貫いた。彼は咆哮し、彼女を抱いていた腕を慌てて離すと、激しく震える槍の柄をタコだらけの両手で強く握りしめた。彼は野獣のような力で、自らの胸の中で刃を食い止め、ユキにあと半寸たりとも近づかせまいと決意した。掌から血が噴き出し、雪の上にポタポタと滴り落ちた。盗賊の頭は歯を食いしばり、二人を押し潰そうと渾身の力で押し込んできた。

ユキの瞳はパニックで砕け散った。彼の背後に隠れるために後ろへ下がるどころか、病弱な少女は狂気の沙汰に出た。自ら前に飛び出し、龍馬をきつく抱きしめたのだ。ユキは最後の生命力を振り絞って彼を引き倒し、盗賊の力強い突きをかわそうと、自らの胸を差し出して彼を貫く槍の穂先を受け入れた。彼女の決死の引き戻しにより、盗賊はバランスを崩して転倒した。

その時、崖の上から深く雄大な角笛の音が響き渡った。雷鳴のような馬の蹄の音が雪を砕いた。領主の騎馬武者たちが到着したのだ。吹雪の中で家紋を染め抜いた旗がはためいていた。恐怖に駆られた盗賊たちは武器を捨て、パニックになって逃げ出した。援軍は到着し、彼らは手順通りに任務を遂行した。ただ、彼らはほんの一呼吸だけ遅かった。その一呼吸が、龍馬の全世界を奪い去った。

冷たい鋼の刃が二つの心臓を貫き、二つの命を一つの塊として縫い留めた。彼らの血脈は、同じ残酷な槍の上で悲痛に混ざり合った。

二人は白い雪の上に崩れ落ちた。先ほどの非現実的なまでの冷静さとは裏腹に、ユキは今、極度の痛みに苛まれていた。涙が溢れ出し、彼女の凍える手は、指の隙間から溢れ出す血も構わず、龍馬の穴だらけの傷口を必死に押さえた。

「龍馬…ばか…」彼女の声は途切れ途切れで、冷たい空気を飲み込むたびにヒューヒューと鳴った。「どうして…かばったりしたの…だめじゃない…」

「ユキ…ユキ!」龍馬は慌てて彼女を抱き寄せた。かつて瞬きもせずに敵の首を切り落とした両手は、今や無惨なほどに震えていた。「俺を見ろ!目を閉じるな!目を閉じちゃだめだ!」

口の端から血を流しながらも、彼は砕けた声で、子供のように哀願しながら呟き続けた。「くそっ…帰るって言っただろう!帰ってきたぞ!温かい着物も買ってきた…今…今すぐ火を熾してやる!火だ…そうだろう、寒いんだろう?俺を見ろ、ユキ!頼むから…」

彼の目にある狂おしいほどの後悔を見て、ユキはふと泣くのをやめた。胸を切り裂くような痛みの中、彼女は手を伸ばし、彼の頬の血を拭った。

「だめよ…」彼女は息を吐き、一番輝く笑顔を無理に作った。その笑顔は、死にゆく女の最も偉大な嘘だった。彼女は彼を責めることなく待ち続けるように微笑み、ただ彼の最後の罪悪感を和らげるためだけだった。「自分を責めないで…あなたは本当にばかね…私…大丈夫だから…」

彼女の震える指が着物の懐を手探りし、小さな竹の札を取り出して彼の手の中に押し込んだ。

「夕ご飯…温めてあるわ…」彼女の声は細くなり、雪風の中に消えていった。「私…信じてたもの…あなたが帰ってくるって」

彼女の手はゆっくりとだらりと下がり、雪の上に長い跡を描いた。彼女の目は永遠に閉じられた。

龍馬はパニックになりながら、彼女の硬直していく指をこじ開けた。血に染まった竹札の表面には、彼が根気よく教えた下手な字がはっきりと浮かび上がっていた。彼の心臓は、槍に貫かれていたものの、今ここで本当に砕け散った。彼女は知っていたのだ。彼女はいつもすべてを知っていた。彼女は彼の不器用な嘘を無邪気に信じていたわけではなかった。彼女が沈黙していたのは、男のプライドを理解し、彼が安心して戦えるように自らの命を懸けてくれたからだ。

「俺は嘘をついたんだ、ユキ!」彼はすっかり冷たくなった彼女の首筋に顔を埋め、血の泡に咽びながら悲痛に泣き叫んだ。「薬なんて買いに行ってない!俺はクソ野郎だ!思い上がった馬鹿野郎だ!なぜ…わかっていたのに夕飯の支度なんかしたんだ?!なぜ俺を信じたんだ?!」

彼は雪を殴りつけ、骸に向かって、青空に向かって、自分自身に向かって叫んだ。「起きて俺を罵ってくれ!俺を殴れよ、ユキ!俺のせいだ…俺のせいだ…」

周囲では、騎馬武者たちが灰を踏みにじって盗賊を追跡していたが、龍馬の耳にはもう何も聞こえなかった。彼はユキの冷たい首に顔を埋め、その胸は激しい痙攣で引き攣っていた。彼は生涯をかけて剣を振るい、他人の安全を背負ってきたというのに、心に想う女にきちんとした名分を与えることすら一度もできなかった。彼は彼女が教えてくれた教訓を忘れていたのだ。今この瞬間、自分を必要としている人を大切にし、そばにいることの重要性を。

彼は顔を跳ね上げ、口を大きく開け、臆病にもずっと隠し続けてきた言葉を口にするため、最後の酸素を振り絞ろうとした。

「ユキ…俺は…愛し…」

ゴフッ。

濃い黒血の塊が逆流し、喉を塞いだ。言葉は血まみれのゴボゴボという嗚咽に砕け散った。浪人の青ざめた唇は震え、極度のパニックの中で絶え間なく動き続けた。彼は雪を掻きむしり、首に青筋を立てて、ボロボロになった胸から無理やり声を出そうとしたが、一生隠し続けた三つの言葉は固く詰まり、永遠に外に出ることはできなかった。死者の聴覚はすでに閉じられていた。

声に出せない無力感は地獄の業火となり、彼の最後の理性を焼き尽くした。血の泡が煮えたぎる息を吐きながら、彼は天を仰いで咆哮した。その懇願は英雄のように堂々としたものではなく、心臓の最後の鼓動のたびに血を流すように、途切れ途切れに発せられた。

「お天道様…神々よ…ゴフッ…もし本当にいるのなら…もう一度だけ命をくれ!この魂を賭ける…彼女を返してくれ!俺が彼女を守る…この言葉を自分の口で言って…彼女に…頷かせて、俺の妻にするんだ…」

二つの命の血が一つに混ざり合い、大地へと滴り落ちた。血の誓いが終わったまさにその瞬間、降りしきる雪の中で雷鳴が轟いた。

突然、戦場のすべての音が消え失せた。北風が鳴り止んだ。宙を舞う雪の結晶が空中で完全に凍りついたように止まった。空間が引き裂かれ、無限の世界の恐ろしいほどの静寂が広がった。

残酷な槍の柄の下で混ざり合う血だまりから、燃え盛る赤い光が噴き出した。血の雫が空中に浮かび上がり、炎のような古代文字を編み出し、契約書のようにうねった。同時に、性別のない、冷酷で威厳に満ちた神(カミ)の声が、薄れゆく龍馬の脳裏に直接響き渡った。

「傲慢な定命の者よ。己の不滅の魂を使い、輪廻の秩序と取引しようというのか?」

龍馬は口を開くことができず、ただ血の文字を睨みつけ、ありったけの恨みと執念をその視線に込めた。見えない声が再び響いた。それは重く虚ろで、すべてを自動的に法へと縛り付ける、残酷で不可逆な裁きのようだった。

「契約は受理された。一つではない、九度の輪廻を授けよう。お前の記憶は呪われ、過去の曖昧な破片とこの苦痛を永遠に抱えながら彼女を探し続けることになる。だが、その代償をよく聞け。もし九度の人生を使い果たしても失敗し、彼女を守れず、自発的な同意の頷きを得られなければ…彼女の魂は永遠に破壊され、贖うための来世は存在しなくなる」

威厳ある声は一拍置き、そして突然、人間のちっぽけさを見透かした上位存在の嘲笑と憐憫を帯びた深い残響を響かせた。

「しかし、輪廻の世界は万里に広がり、生ける者は紅塵の砂の数ほどいる。毎回の人生で何十億もの人間がすれ違う。容姿も性格も変わってしまった彼女を、お前のような継ぎ接ぎの記憶を持つ砕けた魂がどうやって見つけ出すというのか?一つ恩恵を与えよう。それは同時に呪いでもあるがな…」

燃え盛る赤い古代文字がうねり、眩い一滴の血に収束して、龍馬の血を流す胸の真正面に浮かび上がった。

「お前に『苦悶の羅針盤』を授けよう。今後の人生において、その運命の魂がお前の生命の半径をよぎるたび、お前の心臓は自動的に一つ脈打つ。突然の痙攣が、今お前が抱えている絶大な哀れみと息詰まるような恨みを伴ってやってくる。それこそが、広大な人の海の中で彼女を識別する唯一の兆候だ。その苦痛そのものを使って、希望を見つけ出すがいい」

燃え盛る赤い古代文字は突然二筋の光に砕け散り、龍馬とユキの額に真っ直ぐに突き刺さり、血を流す呪印として刻み込まれて肉へと沈んでいった。

「ゲームの始まりだ」

生死の契約は正式に打ち付けられた。空間が震え、時間は再びその残酷な流れを取り戻した。馬のいななきと武器がぶつかり合う音が、再び彼の鼓膜を叩いた。

龍馬の目は霞んだ。彼が見た最後の光景は、舞い落ちる白い雪の結晶がユキのまつ毛に止まり、冷たく静かに佇む姿だった。放浪の浪人の血を流す唇は、悲惨でありながらも果てしなく確固たる笑みの形に歪んだ。少なくとも、彼女を見つける方法は手に入れたのだ。彼は最後の息を引き取り、彼女の胸の上に完全に崩れ落ちた。残酷な輪廻の輪が回り始め、執念に満ちた魂を何世紀にもわたる生死の賭けへと投げ込み、霞む浮世ですれ違う者たちの悲喜劇の幕が開けた。


九度の輪廻、その始まりの物語でした。

本日はこのあと、第2話・第3話も続けて更新します。


続きが気になりましたら、ブックマークや★評価で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。