地球侵略①
初めまして。足を運んでくれてありがとうございます。
本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。
内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
ゴールデンウィーク明け、日差しが柔らかい穏やかな土曜の午後。
その日は大学の講義がなかったため、優奈は黒柴のハルと一緒に散歩をしていた。
真夏とは違って、この時間から過ごしやすい気温と爽やかな風を感じながら散歩できるのはありがたい。
ハルも優しい風を受けながらニコニコ顔で優奈を何度か見上げ、飼い主の微笑みを感じて足取りが軽い。
自宅から近所の公園を通り抜けてから、近くの商店街を横切るハルお気に入りの散歩コース。 すると顔なじみの小学生の女子がタタタタタと駆け寄ってきた。
「優奈お姉ちゃんこんにちは! ハルくん元気?」
「うん元気だよ、さっきお昼寝から起きてさっそく散歩連れてけって」
ハルは近所の小学生女子シオリちゃんにかわいがられるのが好きだ。顔をむぎゅーっとこねまわされても幸せそうな顔でうっとりしている。もちろん乱暴ではなく優しく撫でるようにするものだから、ハルも満更ではない。
撫でられるのが好きな子で人懐っこく賢いため、近所の人たちからも愛される愛嬌のある黒柴だった。
「そうだハルくん用のおやつをママに買ってもらったの。今度もってくるね」
おやつという単語に反応したのかハルがうれしそうにぴょんぴょんしているのを見て、シオリちゃんまでうれしくてジャンプし始める。
あまりにも尊くて優しい時間に思わず優奈は微笑み、不思議と涙が滲んでくる。
それはあまりにも突然だった。
鼓膜が破れたと思えるほどの轟音と衝撃。
思わず反射的にハルとシオリちゃんを抱きしめながら衝撃に耐える、爆風のようなもの、多くの悲鳴。
立ち上る土煙が穏やかだった優しい風に流されていくと同時に、目の前で起きたことに理解が追いついていかない。
ガラスの破片で出血し倒れて呻く人々や、大きなコンクリート塊の下から流れ出る赤い液体。
片足が圧し潰された友人を見捨てて逃げる人、瓦礫に閉じ込めらて泣き叫ぶ人々。
そこには阿鼻叫喚の地獄がそこかしこに雑草のように生えだしている。
遠くのビルが半分から崩壊し地上に落ちる様が、やけにスローモーションのようにゆっくりと目に飛び込んできた。
「お、お姉ちゃんあれ!」
シオリちゃんが震える声を絞り出し、ホコリ塗れになりながら空を指差す。
無数の。空を埋め尽くさんばかりに金属製の球体のような、直方体のような、蠢く芋虫のような金属質の何かが浮かび、そこから何かが放出されている。
その正体を2人はすぐに知ることになる。
全高5m以上の巨大な金属製のカマキリとカニ、そしてトカゲが混ざったような無機質な存在。他にも複数の生物が混ざったような形態をしたものが、数えるのを諦めてしまほどの種類で地上へ降下していくのだった。
その金属昆虫モドキは、そのカマや鋏で通行人を捕まえると、容赦なく手足をちょきちょきと切り落とし始める。
あまりの非日常性に、優奈にはその状況が料理の下ごしらえをしているような感想を抱いた。
確実に人を殺すため、1人1人。
優奈はハルとシオリちゃんを連れて必死に逃げた。
ハルはこんな状況でも取り乱さず、歩速を合わせてついてきてくれておりシオリちゃんも恐怖と戦いながら泣きそうになるのを堪えてぎゅっと優奈の手を握っている。
隠れなきゃ。シオリちゃんを守らないと。せめて母親の元へ。
その思いが崩れ落ちそうな優奈の心をかろうじて繋ぎとめてくれる。本当は恐怖で叫びたいし逃げ出したい。
抱きしめるシオリちゃんの体温がそうさせてくれないし、そこで踏みとどまってくれている自分の心を少しだけ誇らしく思うことにした。
そう思わせてくれるのはリードから伝わるハルの溢れんばかりの生命力と、優奈を思う優しい視線。
優奈たちは崩れかけたビルの、瓦礫の隙間に身を隠した。崩れてはいてもこれ以上は広がりにくそうな瓦礫の陰に身を潜める以外の方法を思いつけなかった。
ハルはシオリが抱き着いても嫌がらずその頬や手を時折ぺろりと舐めて、まるで勇気づけてくれているようだ。優奈をそのつぶらな瞳でじっと見つめそして身体を摺り寄せる。
でもやはりハルは震えていた。震えていても、優奈を守ろうとしてくれていた。
瓦礫の隙間で通せんぼをして、2人を守ろうとしてくれている。
その健気さに優奈は涙を堪えきれずにいた。ハルの体温と優しい毛並みが生きている実感を与えてくれる。というよりも、現実に繋ぎとめてくれていると優奈の心に染みた。
優奈の両親は里親から養子縁組をして本当の両親になった優しい夫婦だった。そこへ近所で生まれたけど引取り先がない黒柴の子犬がやってきた。
優奈とハルは本当の兄弟のように仲良しになった。
ネグレクトで餓死しかかって児相に保護され、それからは施設、そして里親へ。
だからこそハルは友達であり兄弟。そんなハルが震えながら守ってくれている、しっかりしなくては。自分が二人を守るんだと、気合を入れる。
今だに遠くでは多くの悲鳴や爆発音、戦闘機の飛行音、とにかく大きな音が途切れることなく続いている。特に不気味なのはまるでアナウンスのような甲高い女性の無機質な声が時折繰り返されていること。
音質がひどいのか何を言っているのか聴きとれない。
東京でさえこの有様なのだから、恐らく世界中で同じことが起きているのではないか。優奈は湧き上がる絶望の重圧を何とか払いのけようと必死だった。
お読みいただきありがとうございました。
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