エピローグ 「また、同じ空の下で」
春の終わり。
夕方のプラネタリウムには、穏やかな時間が流れていた。
投影が終わり、来館者たちが少しずつ席を立っていく。
「本日はご来館ありがとうございました」
星宮透真はマイクを置き、小さく息を吐いた。
静かになったドームの天井を見上げる。
無数の星が映し出されていた場所は、今はただの白い天井に戻っている。
高校生の頃は想像もしていなかった。
自分がこうして毎日星の話をしているなんて。
☆
高校卒業後。
透真は昴と同じ大学を目指した。
天文学を学びたかった。
あの人の背中を追いかけたかった。
けれど結果は不合格だった。
悔しくなかったと言えば嘘になる。
それでも星を好きな気持ちは変わらなかった。
別の大学の理学部へ進学し、在学中に始めた博物館のアルバイトが転機になった。
展示解説。
イベント補助。
プラネタリウム運営。
気付けば仕事そのものが楽しくなっていた。
卒業後、そのまま博物館へ就職した。
そして今はプラネタリウムの解説担当をしている。
「星宮さん、お疲れ様です」
後輩スタッフが声をかける。
「お疲れ様」
透真も笑顔で返した。
昔より人と話すことに緊張しなくなった。
それでも星の話をしている時が一番楽しいのは、今も変わらない。
☆
更衣室で着替えを終え、ロッカーを閉めた時だった。
スマホが震える。
通知音。
何気なく画面を見る。
そして透真は目を丸くした。
高校時代の天文部グループ。
ずっと動いていなかったグループだった。
卒業後もしばらくは連絡があった。
でもそれぞれ忙しくなり、いつしか静かになっていた。
その通知の一番上に表示されていた名前を見て、透真は思わず笑う。
☆
和希
『みんな元気ー?』
変わってない。
本当に変わってない。
数秒後。
通知が増える。
夕花
『元気ー!』
紬
『久しぶりです』
裕翔
『生きてる』
伊織
『お久しぶりです』
薫
『元気』
昴
『元気』
琉衣
『元気です』
透真は吹き出した。
誰も変わっていない。
社会人になっても。
大学を卒業しても。
昔のままだった。
やがて話は自然と再会の流れになる。
和希
『久々に集まる?』
その提案に反対する人はいなかった。
☆
数日後。
久しぶりに全員で会う日。
透真は休日の朝、自宅で支度をしていた。
春らしい穏やかな天気だった。
シャツの袖を整えながらスマホを見る。
新しい通知が一件届いている。
琉衣
『一緒に行くから待ち合わせは駅前でね』
短い文章。
でもどこか琉衣らしかった。
透真は自然と笑う。
『了解』
そう返信すると、すぐに既読が付く。
相変わらず早い。
高校生の頃から変わらないな、と少し懐かしくなった。
スマホをポケットへしまい、出掛ける準備を続ける。
しばらくして再び通知音が鳴った。
琉衣
『まだ?』
透真は思わず吹き出した。
待ち合わせまでまだ十分以上ある。
『まだ』
返信すると、数秒後には返事が来る。
琉衣
『早めに出て』
『大丈夫だから』
『大丈夫じゃないので』
思わず笑ってしまう。
昔から心配性だった。
いや。
むしろ前より少しだけ増した気もする。
透真はスマホを見ながら肩を竦めた。
『もう出るよ』
『うん』
今度の返事はそれだけだった。
それなのに、なぜか少し嬉しくなる。
スマホをしまい、玄関へ向かう。
ふと窓の外を見ると、青空が広がっていた。
和希。
昴。
裕翔。
薫。
伊織。
夕花。
紬。
琉衣。
みんな今は別々の場所で生きている。
それぞれ違う道を歩いている。
それでも。
こうしてまた集まれる。
透真は静かに微笑んだ。
高校時代に見上げた空。
みんなで見た星空。
あの時間は終わった。
でも。
消えたわけじゃない。
「行こう」
小さく呟く。
そして玄関の扉を開いた。
春の風が頬を撫でる。
駅前へ向かう足取りは、少しだけ軽かった。
その先には、懐かしい仲間たちが待っている。
そしてきっと。
一番最初に見つけるのは、待ちきれずに早く来ている誰かだろう。
透真は小さく笑いながら歩き出した。
また、同じ空の下で会うために。
――Fin.
ここまで読んでいただきありがとうございました。
これにて、『星空より近い』完結となります。
透真をはじめとした天文部の青春を見守っていただきありがとうございます。




