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【第9章】第4話「文化祭一日目」


朝。


校門前には、

すでに長い列ができていた。


保護者。


近隣住民。


高校見学へ来た中学生。


文化祭パンフレットを手にした人たちが、

開門を待っている。


「うわ……もうこんな人いる」


透真が目を丸くした。


その横で、

裕翔が笑う。


「文化祭だぞ?

そりゃいるだろ」


二人とも、

クラスTシャツに半被姿だった。


まだ朝なのに、

学校全体が妙に明るい。


廊下には装飾。


色とりどりの看板。


遠くから、

吹奏楽部の音合わせも聞こえてくる。


今日だけは、

学校全部がお祭りみたいだった。



「いらっしゃいませー!」


一般公開開始直後。


透真たちのクラスの縁日は、

一気に人で埋まった。


射的。


ヨーヨー釣り。


輪投げ。


小さい子どもたちが、

楽しそうに走り回っている。


「お兄ちゃん!

これ取れないー!」


「どれどれ?」


透真がしゃがみ込む。


目線を合わせて、

優しく輪投げのコツを教える。


その横で、

裕翔がラムネ箱を抱えながら笑った。


「お前ほんと、

こういうの向いてるよな」


「そう?」


「そう」


透真本人は、

やっぱり分かっていない。


でも。


透真がいるだけで、

教室の空気が柔らかくなる。


子どもたちも。


クラスメイトも。


自然と笑顔になる。


「透真ー!

ラムネ追加!」


「はーい!」


呼ばれれば、

すぐそっちへ行く。


笑って。


動いて。


気付けば、

教室の真ん中にいる。


裕翔はその姿を見ながら、

小さく笑った。


昔からそうだった。


透真の周りだけ、

なんとなく人が集まる。



「透真先輩」


気付けば、

琉衣が横に立っていた。


透真:

「え、琉衣くん」


琉衣:

「こんにちは」


裕翔:

「お前また来てんの?」


裕翔が呆れたように言う。


琉衣は涼しい顔だった。


「休憩です」


「絶対違う」


「失礼ですね」


でもそのまま動かない。


透真が苦笑する。


「展示大丈夫?」


「今はクラスメイトがいるので、

僕の当番は終わりました」


つまり問題ないらしい。


「そっか」


透真はそれ以上深く考えない。


その自然さに、

裕翔が小さく吹き出した。


「もう普通に居るな」


「居ますよ」


琉衣は当然みたいに答えた。



校舎を歩けば、

どこも賑やかだった。


軽音部ライブ。


吹奏楽部コンサート。


模擬店の匂い。


お化け屋敷から聞こえる悲鳴。


走り回る生徒。


笑い声。


文化祭独特の、

少し浮ついた空気。


透真はそれを全部楽しそうに見ていた。


「やっぱ文化祭好きだなあ」


ぽつりと零れる。


裕翔が笑った。


「毎年言ってそう」


「言うかも」


本気で答える。



昼過ぎ。


天文部展示前には、

長い列ができていた。


『天文部プラネタリウム』


去年より、

明らかに人が多い。


「最後尾こちらです」


琉衣が列整理をしている。


去年。


迷子だった中学生。


今年は、

完全に運営側だった。


「琉衣くんー、

次案内できる?」


教室から透真が顔を出す。


「はい、大丈夫です!」


その声が、

少し嬉しそうだった。



暗い教室。


照明が落ちる。


静かな空気。


数秒後。


天井いっぱいに、

星空が広がった。


小さな歓声が漏れる。


透真は投影機前へ立った。


「本日は、

天文部プラネタリウムへようこそ」


去年より、

ずっと落ち着いた声だった。


「今日は、

秋の星座を紹介します」


星空がゆっくり動き始める。


「こちらがペガスス座。

秋の四辺形って呼ばれていて――」


話し始めた瞬間。


空気が変わる。


星を語る時だけ、

透真の目は少し違った。


夢中で。


真っ直ぐで。


好きが全部出ている。


聞いている側まで、

自然と楽しくなる声。


最前列の子どもが、

目を輝かせていた。


保護者たちも、

静かに聞き入っている。


琉衣は教室後方から、

その横顔を見ていた。


去年と同じだった。


迷子だった自分へ、

優しく笑ってくれた先輩。


星を話す時だけ、

少し違う顔になる人。


あの時からずっと、

目が離せなかった。



投影終了後。


「ありがとうございました」


拍手が起こる。


来場者たちが、

笑顔で教室を出ていく。


「すごかった!」


「星綺麗だったー!」


「また来たい!」


そんな声が、

次々聞こえてくる。


透真は少し照れながら笑った。


「ありがとうございます」


その瞬間。


「透真先輩!」


「さっきのお兄ちゃん!」


「質問していい!?」


気付けば、

透真の周りへ人が集まっていた。


子どもたち。


来場者。


後輩。


クラスメイト。


みんな自然に、

透真へ話しかけている。


透真本人は、

いつも通りだった。


ただ、

楽しそうに答えているだけ。


でも。


その姿に、

人が惹かれていく。



教室後方。


和希がその光景を見ながら、

小さく笑った。


「ほんと、

人集まるよね」


昴は静かに頷く。


「ああ」


去年は、

緊張で台本を握りしめていた。


解説前、

何度も深呼吸していた一年生。


でも今は違う。


透真がいることで、

この教室の空気がまとまる。


自然に、

人が笑う。


和希がふっと目を細めた。


「来年、

俺らいなくても大丈夫そうだね」


冗談っぽい声。


でも。


昴は少し黙ったあと、

静かに返す。


「……そうだな」


その言葉には、

少しだけ寂しさが混じっていた。



教室後方。


神代先生は腕を組みながら、

静かにその景色を見ていた。


去年。


透真は、

まだ守られる側だった。


和希や昴の後ろで、

夢中に星を語っていた一年生。


でも今は違う。


人が集まる。


空気の中心になる。


後輩がついてくる。


天文部自体が、

自然と透真を軸に回り始めている。


それを、

本人だけが知らない。


神代先生は、

小さく目を細めた。


時間は、

静かに流れていく。



夕方。


窓の外が、

少しずつオレンジ色へ染まっていく。


校内放送から、

軽音部ライブ終了のアナウンス。


遠くから、

まだ笑い声が聞こえる。


文化祭一日目は、

もうすぐ終わる。


「楽しかったー!」


透真が椅子へ座り込みながら笑った。


額には少し汗。


でも表情は、

満足そうだった。


その姿を見ながら、

和希がふっと笑う。


「まだ一日目だけどね」


「え、もう十分楽しいです」


本気で言う。


昴はそんな透真を見ながら、

窓の外へ視線を向けた。


夕焼けの空。


去年と同じ景色。


でも。


きっと来年は、

少し違って見える。

読んでいただきありがとうございます!

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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