【第5章】「星降る文化祭」 第1話 「星を飾る教室」
―第1話 「星を飾る教室」
十月。
夏の熱が少しずつ消えて、
空気が軽くなり始めた頃。
昼休み前のホームルーム。
教室はどこか落ち着かない空気に包まれていた。
「なあ、文化祭ってもう来月だよな?」
「後夜祭どうする?」
「浴衣着る?」
そんな声が、
あちこちから聞こえる。
透真は窓際の席で、
ぼんやり空を見ていた。
秋の空は高い。
雲が薄く流れていく。
その時。
教室の前扉が開いた。
「席着けー」
神代先生だった。
プリントの束を机に置く。
その瞬間。
教室の空気が変わる。
「文化祭の説明するぞ」
「「きたー!!」」
クラスが一気に騒がしくなる。
神代先生は慣れた様子で黒板に文字を書いた。
⸻
『文化祭 二日開催』
・一日目:一般公開
・二日目:校内公開+後夜祭
⸻
さらにその下へ。
⸻
『1年:クラス展示』
『2年:教室イベント』
『3年:屋台』
⸻
「部活動の発表もある。
吹奏楽、軽音、合唱、
文化部展示も例年通り」
透真が少しだけ反応する。
神代先生はその視線に気付いたように、
小さく笑った。
「天文部も展示やる予定だ」
「プラネタリウムですか?」
透真がすぐ聞く。
目がキラキラしている。
神代先生は少し目を細めた。
「候補な」
「やりたいです」
即答だった。
クラスが少し笑う。
薫が後ろの席から呆れた声を出す。
「透真、食い気味すぎ」
「だって楽しそうじゃん」
透真は本当に嬉しそうだった。
その顔を見て、
薫は少しだけ視線を逸らす。
神代先生は黒板を軽く叩いた。
「あと後夜祭は、
今年も浴衣参加可」
女子たちが一気にざわつく。
「え、どうする!?」
「絶対着たい!」
「写真撮ろー!」
透真だけ、
少し不思議そうな顔をした。
「浴衣……?」
その反応に、
夕花が思わず吹き出す。
「透真、
文化祭初心者すぎでしょ。
うちの高校の文化祭、後夜祭の時は
毎年浴衣参加OKなんだって、
結構有名だよ?」
「そうだったんだ!知らなかったー。
あ、でも浴衣着たことない……」
「絶対似合う」
ぽつりと紬が言った。
透真が振り返る。
「ほんと?」
「……うん」
紬は静かに頷いた。
夕花はなんだか落ち着かなくなって、
机に突っ伏した。
☆
放課後。
文化祭準備初日。
教室には段ボール、
画用紙、
ラメ、
絵の具、
星型の折り紙が広がっていた。
透真たちのクラスの展示テーマは――
『宇宙博覧会』
教室をいくつかのエリアに分け、
惑星紹介や星座神話、
天の川フォトスポットを作ることになっていた。
「星宮くん、
これ教えて!」
「土星って輪っか何で出来てるの?」
「木星って住める?」
質問が次々飛ぶ。
透真は楽しそうに答えていた。
「輪っかは氷とか岩石だよ」
「木星はガス惑星だから立てないかな」
「へええ〜!」
女子たちが感心する。
「星宮くんめっちゃ詳しい!」
「字綺麗!
そのPOPいい感じ!」
透真は少し照れながら笑った。
「好きだから」
その言い方があまりにも真っ直ぐで、
周りが少し静かになる。
夕花はその空気に、
なんとなくムスッとした。
「……褒められすぎ」
小さく呟く。
その隣で、
紬は静かに透真を見ていた。
透真が笑うたび、
周りの空気が変わる。
たぶん本人だけ気付いていない。
☆
「透真、
また喋りすぎ」
薫が呆れたように言う。
透真は振り返った。
「え?」
「解説長い」
「だって宇宙面白いし」
「はいはい」
そう言いながら、
薫は結局透真の作った展示パネルを読んでいる。
“火星にはかつて水が存在した可能性がある”
綺麗な字。
楽しそうな説明。
薫は少しだけ笑った。
……ほんと、
好きなんだな。
☆
「これ上につけたいんだけど」
透真が星型装飾を持って脚立へ登る。
「透真、
お前絶対危なっかしい」
薫が言った瞬間。
脚立が少し揺れた。
「うわっ」
「ちょ、危ない!」
夕花が慌てて脚立を押さえる。
透真は目を丸くした。
「ごめん」
「だから言ったじゃん!」
「ありがとう、夕花」
透真がふわっと笑う。
その瞬間。
夕花の顔が一気に赤くなった。
「っ……別に!」
慌てて顔を逸らす。
薫がその反応を見て、
ちょっと笑う。
☆
その後。
大きな装飾用の箱を運ぼうとして、
透真がふらついた。
「重……」
その時。
横からそっと手が伸びる。
「……持つ」
紬だった。
自然に半分持ち上げる。
「え、いいの?」
「うん」
二人で並んで歩く。
静かな廊下。
夕焼け。
透真が少し嬉しそうに笑った。
「優しいね、紬」
紬は一瞬止まった。
それから小さく視線を逸らす。
「……普通」
でも耳だけ少し赤かった。
☆
教室へ戻ると、
窓の外はもう薄暗くなっていた。
天井には、
作りかけの星。
黒い画用紙。
銀色のラメ。
未完成の宇宙。
透真はその景色を見上げて、
嬉しそうに笑った。
「なんか、
本当に宇宙っぽくなってきたね」
その横顔が、
夕暮れに溶ける。
薫も。
夕花も。
紬も。
少しだけ見惚れていた。
読んでいただきありがとうございます!
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いよいよ文化祭編が始まります!!
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