七話
「あーあ、見事に崩れ落ちちゃって。郊外の名所も、こうして瓦礫と化したら実に滑稽だな。
衛兵は全滅……お、見つけた。この爆発で生きていたのは君だけのようだし、悪運はいいようだね」
「き、さま……なぜ、生きて」
「逃げなった殺人鬼は地下室で生き埋めになっているはず? そうだな、普通ならそうだ。だが、俺はこうして生きている。ということは、あの地下室だけは生き埋めにならないよう誰かが計算して爆破したってことだな」
「いつ、だれが爆弾をしかけた」
「瓦礫に身体が埋もれたまま話すの辛くない? 全身血まみれじゃん。関節も外れて折れてるっぽいし、内臓は無事なのかな? それに興奮して痛みを忘れているようだね」
「答えろ!」
「おー元気だねぇ。そんじゃ、冥途の土産に答え合わせといきますか。それまでに死なないようにねっと思ったけど、君はしぶとそうだし大丈夫かな?
それで、いつ仕掛けたかと言われたら、そりゃあ、俺が地下室で時間稼ぎをしている間に決まっているだろう。誰が爆弾を仕掛けたのかという質問に対しては、姫騎士を最も恨んでいるやつ、と答えておこう」
「誰だ、誰が私を恨んでいた。殺した三人の家族か? どこかで生きているルーカスの復讐か! そうだとしたら絶対に許さないからな!」
「一つ、とある男の昔話をしよう。君が姫騎士を始めるきっかけがあったように、殺人鬼だって始めるきっかけがあったんだ。それを聞けば犯人が誰かも分かる。だけど――」
「なんだ! さっさと犯人を教えろ!」
「君は絶対に聞いたことを後悔する。それでもいいなら話してあげるよ」
「……チッ、構わん。話せ」
「あっそ。じゃあとある男について短い昔話をしよう。
男はただの平民だった。ギャンブル好きの父親の借金を地道に返済しつつ、血が半分だけ繋がった幼い妹を養うため、朝も昼も夜も働き続けていたんだ。
とある日、ついにクソみたいな父親が死に、借金も残りわずか。だが、その男の心は狂っていた。もっと金がいる。妹を養うため、この程度では全く足りない。狂ったように働き続ける男を止めるため、職場の上司は男に、神殿で祈り心を休めることを提案した。最初は渋っていたようだが、出張費扱いでお金が出ると聞けば喜んで参加したんだ。
だが、そこで男は見てしまった」
「……何を見たのだ」
「信者がお布施として神殿に渡す献金だよ。金額はまちまち、だけど大人数のお布施の額は相当なもの。神殿は善人の集まりだから、警備が薄いんだよね、だから男は、夜に神殿に忍び込んだ」
「まさか、その男は私が最初に捕らえた――」
「まあまあ、ちょっと待ちなって。姫騎士の登場はまだ先だよ」
「なに? ではこの男は何度も忍び込んでいたのか?」
「男の目的はお金を手に入れること、だけど、困っている人を助けるために、神は聖女に神託を与えたわけだ」
「ルミは、二人は以前から出会っていたのか」
「そういうこと。聖女は忍び込んだ男とばったり出くわしてしまったが、神の言葉を信じて真摯に話を一晩中聞き、自らの貯金のほとんどを渡したそうだ。
心優しき聖女に心酔した男は、必ず貰ったお金を返すために、改心して健康に気を使い始めた。安息日は礼拝に行って返済の進捗を聖女と話し、……しばらくして二人の心は惹かれていった」
「……なに? まさか二人は恋仲になったとでも言うつもりか?」
「そのまさかさ! 信じられないよね? いつから関係を持ったのかは知らないけど、姫騎士が男を捕まえた当時、男は二十三歳、聖女は未成年で十二歳。深夜に出会っていたのなら、聖女が襲われていると、君が勘違いしてもおかしくはない。
法的にも彼らの関係は罰の対象だからね、聖女を救うという意味では、君が男を捕まえること自体、何も悪くなかった」
「だが、男を殺したから、私は恨まれた……」
「あ、結論を先に言われちゃったか。まあ、そういうこと。というわけで、この爆破事件の犯人は誰でしょう?」
「聖女、ルミ。まさか、あの子が? 男を殺した後も私を慕ってくれていたじゃないか! しばらくして命を落とし、私は涙を流したというのに! 別荘を吹き飛ばし、私を殺したいほど憎んでいたのか!
なあ、ルミは今どこにいる! 話がしたい、あの子と話をして――」
「君の正義を押し付けるのか? 馬鹿らしい。取次ぎはしないよ」
「貴様! 殺人鬼如きが私の言う事を聞けないの――ゴフッ」
「あーあ、無茶するから命を縮めるんだよ。話すのも苦しいだろ」
「ま、だ、私はルミに……」
「まだ話したいことはいっぱいあったけど、時間切れみたいだね。意識も朦朧としているみたいだし、残念だ。
それじゃあ最後、姫騎士に一つ質問をしよう」
「殺人、鬼、ごとき、が」
「俺たち殺人鬼が一体何をしたというんだ?」
「…………」
「……回答はなし、か。安らかに眠れ、正義の姫騎士」
会話が混同しないよう行間を気持ち開けていますが、読み辛かったりしますか?
次回最終話なので今更ですけど




