最終話
「こんな丘上にいたのか、ちょっと探したぞ。……ああ、なるほど、ここからならあの別荘がよく見える」
「Bさん。おかえりなさい。あの女はちゃんと死にましたか?」
「……あ、Bさんて俺のことか、姫騎士が全く呼んでくれないから忘れてたよ。ああ、ちゃんと姫騎士は君が望むとおり苦しんでから死んだよ。どう? 聖女、気持ちは晴れた?」
「どうでしょう。あの憎らしい顔を見たくなくて、あなたに死に際のことをお願いしましたが、最後くらい自分で見ておくべきだったかもしれません。あと、私はもう聖女ではありませんよ」
「おや? この前まで神託を受けていなかったかい? 無視したから?」
「いえ、神様にこの復讐は上手くいくか聞いたら逃げられました。ついに見放されたんだと思います」
「答えられないことにはどうしようもないね。姫騎士に俺が捕まってもすぐ殺されないか答えてくれたのに、神様もルミさんを正しい道に戻すために頑張ったものだねぇ。まあ、この最後の作戦を実行するまでは、俺たちのやってきたことは人助けだし」
「助けた以上に困らせた人が多い気がしますが? それに、私たちは遺体の偽造という犯罪をしています。たとえ殺人鬼でなくとも犯罪者であることにかわりはありません」
「殺人鬼から犯罪者って、なんか弱いって言うか、格落ち感が否めないな。ルミさんは爆発魔にすると格好いいじゃん」
「犯罪者で結構です。私は結局、こういう形でしか復讐を果たせなかったのですから。それに、復讐は何も生まないというのは本当ですね。すべてが終わったのに……、いえ、終わってしまったから、心がぽっかりと空いているのでしょう」
「あれから六年。あなたは顔と名前を変えたとはいえ、十八歳の美しい女性となり、一児の母でもある。これからは日常に戻りますか?」
「戻るしかないでしょう。本当はこのまま地獄に落ちようかと思いましたが、あの人と残したあの子はまだ、私を必要としていますから」
「お子さんもそろそろ学園に入る歳だっけ? 男の子だからヤンチャじゃない?」
「確かに好奇心旺盛ではしゃぐことが好きですが、あの人に似て働き者ですよ。自らお店の手伝いをしているんです。それまで、幼いまま母となった私を支援してくれてありがとうございました」
「いえいえ~、これでも王宮で働く高給取りだからね。今は宿屋で働いているんだっけ? おかみさんがいい人でよかったね」
「はい。いかにも訳ありの私を受け入れてくれたいい人です。ああいう人こそ聖女に選ばれるべきでした」
「あっはっは! 流石の神様も遠い未来のことまでは視えないみたいだし、そういう意味ではルミさんは間違いなく聖人だった。運命は非情だったけど、君は一人の男を救ったことには間違いないんだし」
「Bさん、犯罪者の行動を正当化してはいけませんよ。私は罪を犯すことでしかあの人の魂を救えませんでしたから、悪い事をした人に慈悲はありません。
私はこれから、爆発によって多くの人を殺した罪を背負いながら、禁欲的に生きていきます。難病に罹れば延命もしません。すべては神からの罰として受け入れて過ごすつもりです。
あなたはこれからどうするのですか?」
「俺は仕事に復帰するよ。この爆発のせいで皮肉にも仕事は増えるようだし、有休を取っているとはいえ、早めに戻らないとおやっさんに怒られそうだ」
「では、これでお別れですね。そういえば“A”さんから伝言がありました。
“彼女に罰を与えてくれてありがとう”とのことです。どうやら公爵家が、姫騎士を本格的に利用する話が出ていたらしく、このままだと人殺しをするだけの人形と化していたかもしれないそうです」
「……そっちの方がいい気味だって、思えたかもしれない? なんとなく、複雑な顔をしているけど」
「いいえ。これ以上あの女に人を殺させてやるものか、と思っていただけです。
そろそろ要請を受けた王都の騎士団が動き出す頃です。誰かに見られる前にここを去りましょう」
「そうだな。そう簡単に捕まるつもりはないが、公爵家には俺の名前があるかもしれないし、あっけなくスパーン! とこの首が飛ぶかもしれない。
もし俺が死んだらさ、墓の前で祈りを捧げてくれよ。俺にとってはルミさん以上の聖女を知らないんだ」
「殺人鬼に祈られたら、あなたは地獄に落とされるかもしれませんよ? 神様は私の事を知っていますし」
「それでもいいさ。もし地獄行きだって宣告されたら、神様に言ってやりたいことがあるんだから」
「なんですか?」
「俺たち殺人鬼が一体何をしたっていうんですか! てね」
「ふふ……、あはははは! いいですねそれ! 殺人鬼を名乗っているのに、無実を主張するなんて。私も同じことを言いますから、Bさんは絶対に上手くやってくださいよ? そしたら私も上手くいきますから」
「ははは、さすがに自己責任で頼むよ。……と、この町の衛兵がやってきたな」
「それでは行きましょう。またいつか、どこかで出会えると信じて」
「この世かあの世か、またどこかで会えると信じて。じゃあな」
おわり。




