21、脱出
俺たちは一度呼吸を整えた後、再び走り出した。
……だが、なんであの人造人間は復活したんだ?俺と雄大の技で、体がバラバラになったはずなのに。
そんな疑問を抱きながら、俺たちは長と一戦を交えた場所まで辿り着いた。
あとは階段を上がり、外へ出るだけだ。そんな時、ふと後ろからガチャガチャという音が近づいてきた。
「……やっぱりか」
俺は振り返ってそう呟いた。
先ほどの人造人間が、またこちらに向かってきている。
「え!?倒せたんじゃないの?」
驚いた声を上げる雅楽代さんに、雄大が説明した。
「腕を落としても一時的に動きを止められるだけで、倒すことはできないんだ。俺と玲で体をバラバラにしたはずなんだけど、それでも倒し切れてはなかったみたいだな」
それを聞いて、雅楽代さんは絶句した。その後で、小さく呆れたように呟く。
「あの蛇男の方がまだマシじゃん……」
俺たちを見つけた人造人間は、こちらに向かって素早く向かってくる。それに気づいた雅楽代さんが、その人造人間を上回るスピードで矢を放ち、再び腕を撃ち落とした。
「とりあえず外に出よう。ここも直に危険になると、あの男も言っていた。みんな、走れるかい?」
雅楽代さんの言葉に、俺たちは揃って頷いた。
「うん、行こう」
そう言った雅楽代さんの後を追って、俺たちは走り出す。
長いこと走って体力を消耗した体で、長い階段を駆け上がるのはとてもキツかった。しかし、立ち止まるわけにはいかない。
階段の中腹あたりまで来た時、入り口が閉まっているのが見えた。案の定、近づいてみると、開かなくなっていた。
「……火花、頼めるか?」
荒い息を吐いている火花に、申し訳なく思いながらも俺はそう頼む。
火花も、自分がどれだけ疲れていようが、今この状況をなんとかできるのは自分だけだということを分かっているようだった。
「ああ、待っててくれ」
火花は入り口の扉に手をかざし、集中するように目を閉じる。
それから数秒後、ふらふらと人造人間が立ち上がるのが見えた。
……まずいな。またあいつが追ってくる。
不安になりながら、雅楽代さんにまた腕を撃ち落として動きを止めてもらおうと口を開きかけた時だった。
俺たちの耳に、ドォン!という爆発音が届いた。
どうやら、俺たちが今いる場所のすぐ近くにある部屋が爆破されたようだ。その爆発はそこだけにとどまらず、俺たちのいる真下の広い空間に仕掛けられた爆弾を、次々と起爆していく。
「火花!」
「あと、もう少し……!」
俺の叫びに、火花が額に汗を浮かべながら答える。
「……開いた!」
その火花の喜びの声と同時に、俺たちのいる階段の下の方が、爆発によって吹き飛ぶ。
「まずい!みんな早く!」
一番低いところにいた雅楽代さんが、俺たちのことを押し出す。ゆっくりと開いていく扉の僅かな隙間から、俺たちは順番に外へと出る。
その間も、階段は徐々に崩れていく。雅楽代さんの次に低い位置にいた俺が扉を通って外に出た頃には、すでに限界まで足場が崩れていた。
俺は外に出てから振り返る。そして目に入った光景に叫んだ。
「雅楽代さん!」
俺は咄嗟に、下へと落ちていく彼の手を伸ばす。
ギリギリのところで彼の手を掴むことができたが、俺一人では引き上げるのは難しそうだ。
「みんな!」
俺は振り返って助けを求めたが、誰も、こちらに来れるような状況ではなかった。
力を使い果たしぐったりとしている火花と、01を庇うように抱きしめている02、そして、みんなを守るように、長との間で手を広げている雄大。
どうやら一足先に外へ出ていた長が、俺たちを待ち伏せていたようだ。
……どうしたら……。
ただ雅楽代さんの手を離すことがないように、必死に手に力を込め続ける俺の耳に、長と雄大の会話が届く。
「澪を離せ!」
「だから、言っているだろう?01を渡せば、こちらのお嬢さんは返してやると」
その長の言葉の、俺はバッと振り返る。さっき澪の姿が見つからないと思ったら、どうやら人質に取られていたようだ。彼女の姿を探す俺の目に、小さな蛇に首を絞められている澪の姿が映る。
「っ、澪!」
「……どうやら、なにか大変なことになってるみたいだね」
俺がそう叫んだのを聞いて、雅楽代さんが弱った声を上げた。
「……澪ちゃんを助けに行ってあげてくれ」
彼はそう言うと、俺の手を握っていた自分の手から、力を抜いた。
途端にガクンと重くなり、俺の力では彼のことを掴んでいられなくなってしまう。
俺の手から離れ、真っ逆さまに落ちていく彼に、俺は叫ぶ。
「雅楽代さん!!」
下を見下ろして、俺は絶望の表情を浮かべた。
あんなに俺たちによくしてくれた人が、俺の目の前で消えてしまった。守れなかった。
所長はどれだけ悲しむだろうか。俺たちだって……。
思わず涙が溢れる。そんな時、ふと誰かの声が聞こえた。
「離れてろ」
俺は咄嗟に顔を上げ、辺りを見回すが、誰もいない。幻聴だったのかとキョトンとする俺に、今度は別の誰かの慌てた声が聞こえてきた。
「玲くん、どいて〜!」
「うわぁ!?」
その声と間髪入れずに、俺の体に誰かが倒れ込んでくる。
「え?う」
「ちょっと静かに」
俺の体に倒れ込んだその誰かは、パッと起き上がるとすぐに弓を構え、長のいる方へと矢を放った。
澪の首を絞める小さな蛇はその矢に撃ち落とされ、澪が解放される。
「雅楽代さん!どうして!」
俺は一度引っ込んだ涙を再び流しながら、彼に尋ねた。
「ふふ、それはね……」
雅楽代さんはしゃがみ込むと、自分の影から顔を出す龍の頭のようなものを撫でながら言った。
「この子が助けてくれたんだ。……よしよ〜し、いい子だね〜」
見覚えのあるその龍に言葉を失っている俺に、後ろから現れた人物が声をかける。
「おい」
驚いて顔を上げると、そこには龍の主である、影の使い手がいた。
「お前はあっちだ。さっさと行け」
彼がそう言って指を差した方向に俺はハッとし、その方向へと向かう。
……雅楽代さんのことは、影の使い手に任せておけば平気だろう。
俺は走り出し、みんなの元へと向かう。
解放された澪は、火花が助けたようで、二人はぐったりしながら並んで地面に座っていた。
「遅れてごめん」
俺はみんなにそう謝った。
「いや、それよりも、俺たちこそお前の方に加勢にいけなくてすまなかった。雅楽代さんは、助かったみたいだな」
雄大がそう言いながら、チラリと横目で雅楽代さんたちの方を見た。
俺は雄大に頷くと、火花の方に声をかける。
「火花。澪を助けてくれて、ありがとう」
火花はその言葉に少し顔を上げ、僅かに微笑んだ。
その様子を見てから、俺は長を見上げる。
「……どうやらここで、決着をつけるしかないみたいだな」
俺の言葉に、雄大も頷く。
俺は長を睨みながら、自分のブローチを握りしめた。
「ありがとう、瑞貴」
陽向は瑞貴にそう言った。
「この子が助けてくれてなかったら、俺は今頃真っ逆さまに落ちて落下死するか、爆発に巻き込まれて死んでるかのどっちかだったと思う」
陽向はそう言うと、彼によく懐いているように見える龍の頭を撫でた。
「……お前が死んだら、龍弥さんは悲しむからな」
「でも君は喜ぶだろう?僕のことは嫌いなはずだ」
瑞貴の言葉に、陽向は面白がるように言った。しかし瑞貴の表情は真面目で、座り込んだままの陽向にしゃがんで目線を合わせると、こう言った。
「……俺は確かにお前のことが好きではない。ただ、死んで欲しいほど嫌いだと思ったこともない」
その言葉に、陽向は驚いたように目を見開いた。
「お前は俺にできた、初めての友達だったからな」
そう言って僅かに口角を上げた瑞貴に、陽向はポカンと口を開けた後、困ったように笑った。
「はぁ、たくさん揶揄ってやろうと思ったのに、そんなこと言われたら何も言えないよ。……まぁ、一個訂正があるとすれば……」
陽向は立ち上がると、瑞貴に手を差し伸べる。
「僕はまだ君のことを、友達だって思ってる。きっと、龍弥さんも」
だが、瑞貴は差し伸べられた手を取らず、自分で立ち上がってしまった。
この行動が意味するのはきっと、自分は違うと、もう友達だとは思っていないと、そういうことなのだろうと陽向は思った。
(あの日、道を違えてから、僕たちはバラバラになってしまった。僕も龍弥さんも、いつでも君が戻ってくることを待っている。たとえ君の手が汚れているのだとしても、それは君のせいではないことを知っているから)
陽向は瑞貴を見る。そして、どこか悲しげな表情を浮かべた。
(それでも君が僕たちの元へと戻ってきてくれないのは、君自身が、自分のことを許せないからだ。自分にはもうあの頃のように、僕たちと並ぶ資格がないと思っているから)
陽向はため息を吐いた。全く、困ったやつだと言うように。
そのため息に、瑞貴は不満そうな顔をした。
「なんだそのため息は」
「別に〜?」
そんな言葉を交わした直後、二人はふと下から、何かが近づいてきている気配を感じた。
二人は顔を見合わせると、扉から距離をとって様子を伺う。
(近づいてきている。こちらに向かって)
二人はそう思いながら、警戒する。そしてその正体が見えた時、陽向は思わず声に出した。
「嘘でしょ……!?」
「お前ら、気をつけろ!」
後方で長の相手をしている相談所の相談員たちに、瑞貴が声をかける。
二人は後ろに下がって、敵との衝突を避ける。
現れたのはまた、さっきの人造人間。
「体バラバラになっても爆発に巻き込まれても倒れないとか、ヤバすぎるでしょ!?」
陽向が目の前の人造人間を指差して言った。
「あいつらは蛇の相手をしている。こいつは俺たちで相手をするぞ」
瑞貴の言葉に、陽向は頷く。
「今度こそ、やれる大人だってこと見せつけないとね!」
時は、俺がみんなと合流してからすぐの頃に遡る。
俺は長の出方を待っていた。
澪は元からだが、火花の方はもう戦えない。01と02はおそらく戦えないというわけではないが、長に取られる可能性を考えると、出てこない方が安全だろう。
……となると、また俺と雄大で戦うしかないのか?
長は一向に動きを見せない。かといって、こちらから迂闊に手を出すのも危険だ。
いつ襲ってきても反撃できるように、手の中で火の玉を用意する。
「二人とも!」
ふとそう声をかけられて、俺たちは振り返る。
……いつの間に!?
俺は振り返った先で見た光景に驚く。小さな蛇が数匹、澪と火花の元へと向かっていた。
火花はもう意識がないようで、代わりに助けを求めたのは、戦う力を持たない澪だ。
二人を助けるために、俺は蛇に向かって火の玉を放とうとした。しかしその直前で、頭に鈍い衝撃が走る。
そのまま地面を転がった後、俺は火の玉を敵に投げつけた。
チッ、殴られた……。目を離すべきじゃなかった。
立ち上がりながら、俺はそう思った。俺が投げた火の玉は、どうやらかわされてしまったようだ。
「あの大蛇はどうしたんだよ」
俺は長に尋ねる。それに対して、彼は困ったように言った。
「あれは後ろにいるお二人さんに破壊されてしまってね。しばらくは使えないのだ」
後ろにいるお二人さんとは、雅楽代さんたちのことだろう。だが、大蛇が使えないからとはいえ油断ならない。なにせ今の俺たちは、守るべきものが多すぎる。
澪、火花、01、02。この四人を守りながら、雄大と二人で長を倒さなくてはならない。しかも、長を殺すわけにもいかないのだ。
どうすれば。悩む俺たちに、02が声をかける。
「二人とも!澪さんと火花さんは、わたしたちに任せてください!」
その言葉に、俺は少し落ち着いた。それならば、ある程度は長の相手に集中できる。俺は02に頷く。
「澪!水はまだあるか!」
俺は今度は澪に尋ねた。その言葉にハッとした澪が、慌てて返す。
「あ、あるわ!」
澪の水があれば、敵の怪我も治療することができる。
石の使い手の時のように、気を失うが死なないほどの一撃を与えた後で、澪が治療をしてくれれば。
俺は雄大と顔を見合わせ、お互いに頷いた。
やるべきことが定まった。あとは実行するだけ。
俺は火の玉を連続で放っていく。雄大も、風の斬撃を飛ばしていく。
……どうやらまだあの小さい蛇は生きてるみたいだな。
攻撃が小さな蛇で防がれてしまったのを見て、俺はそう思った。
やっぱり大きな一撃を放った方がいい。まだそれだけの力も残ってる。ただ……。
思い出すのはさっきの雄大との合体技。威力は十分だった。しかし俺たちでは制御しきれないため、他のみんなを巻き込んでしまう危険がある。
何か別の方法を考えた方がいいが、一体どうすれば……。
そんな時、俺たちの耳にある声が届いた。
「お前ら、気をつけろ!」
影の使い手の声だ。その声が聞こえた直後、施設の入り口の扉から、先ほどの人造人間が現れる。
まだ生きてるのか、あいつ……!
だが、向こうは二人が相手をしてくれるだろう。やっぱり俺たちは、長の相手に集中しなくては。
この炎を使って、相手を気絶させられるような、大きな一撃を……。
俺は拳を握りしめながら考える。そんな俺に、雄大が声をかけてきた。
「悩むな。お前が考えてること、俺も手伝ってやるから」
肩にポンと手を置きながら、彼は言った。
「考えてる暇はねぇ。一刻も早く、こいつを倒さねぇと」
「……ああ」
俺の頭の中には、ある案が思い浮かんでいた。
俺が相談所で初めて受けた依頼の時、犯人を倒した一撃。
あれがどの程度通用するかは分からない。ただ、合体技を行うのが難しいこの状況では、あの攻撃が一番威力を出せる技だ。
巨大な火の玉を、相手に思いっきりぶつける。ただその過程で俺は無防備になるため、敵の攻撃をあまり避けられなくなる。
「雄大、俺を手伝ってくれるか?」
俺がそう声をかけると、彼は頷いてくれた。
「じゃあ、俺に向かってくる攻撃を捌いてくれ。俺はその間、攻撃の準備のために無防備になる」
「なるほどな。任せろ」
そう言ってくれた雄大に頷き、俺は火の玉を用意する。
ぼうっと手のひらに灯った炎を、徐々に大きくしていく。
俺に向かってくる蛇を、雄大が一人で相手してくれている。
あの時よりも、もっと大きく。俺の中にある炎を全て使うくらいに。
俺は手元にある熱がどんどん大きくなっていくのを感じながら、力を注ぎ続ける。
体がだんだんと冷えていく。こんなに近くに熱があるのに、指先が冷たくなっている。
それでもまだ足りないと、俺は力を注ぎ続けた。
……もう、いいだろうか。
俺がそう思って目を開くと、そこには今まで見たことないほどの大きな球体の炎があった。
さすがにこれはまずいと思ったのか、小さな蛇による攻撃が激しくなっている。
それを相手する雄大に目配せをしてから、俺は長に向かって火の玉を向ける。一瞬、長の顔に恐怖が浮かんだ。
これで、この戦いを全て終わらせてみせる……!
俺はそう思いながら、長に向けて火の玉を投げつけた。
先週は忘れてました。ごめんなさい。
来週もお休みになると思います。




