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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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81:ビースト・ハウス

閲覧いただきありがとうございます!


 アルからの叱責とラングの謝罪があっても、落ち込んでいるツカサを労わる時間はない。

 戦場であれば自分がどのような気持ちでいても相手は待ってくれない。それは言葉の通じない魔獣であれば尚のことだ。

 

 気持ちの切り替え方が上手く行かない。

 いっそダンジョンのあとに「そういえば」と指摘してくれればいいものを。ツカサはストレスでばくばく言う心臓を大きな呼吸でどうにか収めようとする。

 扉を前にラングが改めて全員を見渡した。


「陣形は覚えているな?」

「ラングとアルが前衛、俺とエレナが後衛」

「そうだ。扉の前に陣取る形で立て。中央に行ったところで手が足りん」

「わかった」

「だが、魔法は思い切り放て。当てても構わん」

「いや、そこは構ってほしいんだけど!?」


 ラングの言葉とアルの反応に少しだけ笑う。先ほどより気が楽になった。


「では行くぞ。エレナは魔獣避けのランタンを消すな」

「わかったわ」


 ラングが大扉を開けて中へ入る。

 

 がらんとした空洞を、どういう原理か燃え続ける壁の松明が明るく照らしていた。

 今までのボス部屋や中ボス部屋とは違う。床にファンタジーな魔法陣があり薄く光っていた。

 

「扉を閉めるとあそこから魔獣がポップするんだ」


 アルがそう言いながら槍を手にした。

 気づけばラングも双剣を手に構えている。


「扉を閉めてくれ」

「わかった」


 言われ、ツカサは扉を閉めた。


 バタンと音がした瞬間、魔法陣の光が増した。

 パァっと光った次の瞬間には小さめのミノタウロス、ミノスが湧いていた。


「やるぞ」


 ラングの声でツカサは魔法を練り上げる。

 

「アイシクルランス!」


 鋭い螺旋を描いた氷柱は真っ直ぐにミノスの頭蓋を砕く。

 ドルロフォニア・ミノタウロスが脳天に一撃を喰らってもしばらく動いていたこともあり、こういった魔獣の体力を舐めてはかからない。


「おらぁ!ふっ飛べ!」


 アルは雄叫びを上げながら槍を突き出し、刺さったままの槍を回転させ内臓を痛めつけ、首を狙って切り上げたりとなかなか野蛮だ。

 道中に見せた流れのある動きではなく、力任せな動きだ。

 もしかしたらこれも敢えて見せているのかもしれない。よくよく見れば無理矢理動きを強制しているように見えた。


 ラングは静かに討伐をしている。

 双剣で腱を斬りつけ、自身が飛ばずとも首を差し出させるような形になっている。ラングはただ自分へ倒れ込むミノスの首を刈るだけで良い。


 魔獣避けのランタンが起動されているので真っ直ぐに向かってくる頭数はほとんどいないが、エレナはラングとアルに目もくれずツカサと自分の方に来たミノスだけを着実に燃やしていた。

 三十頭ほどのミノスはあっという間にせん滅された。正味十五分もかかっていない気がした。

 扉がガゴンと音を立てて開き、指を引っかけて開けば通路が見える。


 床に転がった肉や革袋を拾い歩く。

 【鑑定眼】を使えばミノスの肉、ミノスの乳、ミノスの角と出た。

 どうせ半日はリポップがしないのだ、癒しの泉エリアに戻り早速食事にしてしまうことにした。


 塩で味をつけただけのミノス肉がラングのフライパンの中でじうじうと良い音と匂いをさせている。肉を焼く匂いというのはたまらないものがある。

 ツカサはその横で簡易竈を出し、米を炊いた。これは絶対米と掻き込みたかった。


 そう時間を置かずに肉は焼け、ラングはミノス肉を入れた野菜スープも作ってくれた。

 いつものように配膳、米も肉もスープも行き渡った。


「いただきます」


 全員で手を合わせた。

 ツカサはがばっと肉を食べる。もちっとしたミノス肉は噛めば噛むほど肉汁が出て、脂が甘い。赤身にもしっかり味があって、微かな血の香りが肉を食べているのだとよくわからせる。表面に振られた岩塩が時折舌に当たり、肉の甘さを引き立てた。

 そこに米を掻き込むと完璧だった。ツカサは、っくぅ、と言葉にならない美味しさを噛み締めた。

 スープも塩味だが肉と野菜の甘みが溶けだしていてたまらない。しっかりと出汁になっていて、主食もスープも肉を楽しめた。

 追加で肉を焼いてたっぷりおかわりをしたし、全員がミノスに舌鼓を打った。


 今回手に入れた肉はブロック肉で十五個、他は牛乳と角だった。半分の割合で出るにしても、パーティが持ち歩く最低ラインの数量にも届かない。

 ツカサはある程度の量を確保したい気持ちがあったし、ラングも旅の道中の食事幅的に欲しいようだ。エレナも得意のチャイにミルクを入れたがり、かなり量を狩っても良いかもしれない。


 そこで一つ相談が持ちかけられた。


「十一階層に行くか?」


 残ったスープをお茶代わりに飲みつつ、ラングが聞いた。エレナは胸焼けがするのでハーブティーだ。

 そうだなぁ、と言ったのはアルだ。


「地図はあるし、いざという時のために十五階層までは調べてあるけど、どうする?」

「こんなに美味しい肉だし、欲しいよね」

「はは!ツカサって胃袋と欲求が直結してるよな!」

「いいじゃん!成長期なんだよ!」


 美味しい食事のおかげか、戦闘前のわだかまりもなくなっていた。そのことに人知れずほっと息を吐いた。


「十一階層までのルートはどうなの?その辺をよく相談してからにしましょう。もし相談で半日潰れるなら、明日またあのビースト・ハウスに寄ってから下を目指すのもありでしょう?さくさく決まればその通りに動けばいいわ」

「だね」

「七階層の果実も忘れるな」

「植物系の魔獣だったな、これはエレナとツカサがいれば大丈夫だろ」

「八階層から下は?」

「八階層は七とあんまり変わらない、植物系の魔獣が徘徊していて…、あ、しまった。九、十階層の準備がぬるいな」


 がさがさと追加の地図を並べてアルは悔しそうな顔をする。 

 こういうのを見ていると、確かにツカサには情報が少ない。聞くことは出来ても答えることは出来ない。ようやくまともに反省が出来た。

 

「七階層までしかわかってなくて」

「おう、いいって。パーティだからな」


 素直にそう言えばアルが笑ってくれた。


 成長のために小言を言いはしても普段のあれこれはやれる人がやれば良い。料理が出来ないアルがラングやエレナに頼り、風呂をツカサに甘えているのと同じことだった。

 後々気づくことが多いラングの背中と、隣に歩いてあれこれ補足をしてくれるアルのコンビはツカサの成長を著しく促した。

 いざとなればエレナという緩衝材も居てくれることが心強い。


「九階層、十階層は鉱石が採れるみたいなんだよ」

「あ、俺初めてかも。サイダルじゃダンジョンに入ってないから、鉱石ドロップする魔獣は初めてだ」

「うん?いや、採掘だぞ」

「え?討伐じゃないの?」


 二人で首を傾げた。


「要するに、魔獣からドロップするパターンと、実際にピッケルを振るう採掘のパターンがあるのだろう」

「あ、なるほど。違うんだね?」

「ははぁ、サイダルってところは魔獣からドロップだったのか」

「うーん、だとするとそうだね、ピッケルないの惜しいなぁ」


 ゲームでよく見る採取シーンを思い浮かべ、ツカサはうずうずした。

 

「ピッケルなしで採ることもできるわよ」


 エレナが穏やかに微笑んで言った。


「こういう場所では街付きの冒険者やクランが顔を利かせていることが多いから、採掘場所は選ばないといけないけれど。魔法で岩を砕けば良いのよ」

「エレナって結構過激だよな」

「ふふ、今ある手段で一番有用なものを提案しているだけよ?」

「でも砕いて大丈夫なのかな?洞窟とかだと崩落したりするじゃん」

「大丈夫、ここはダンジョンだもの。天井が落ちたとか、端が見えたという話は聞かないわよ」


 それなら安心できる。


「ふむ、道理で宝飾店が多かったわけだ」

「特産の一つなのよ」

「エレナ、教えてくれてもいいのに」

「あら、初見の楽しみは初見だけでしか味わえないものよ?」


 言われてみればそうだ。

 ここに来るまでエレナが問われたことにしか答えないのは、そうした感動を奪わないためでもあったのか。ツカサはありがとうと笑った。


「せっかくだ、通り道なのだから採掘も楽しんでいくか」

「いいね、ここでギルドに卸さなくたって原石の類は売れるところには売れる」

「アルの思考回路って金儲けだけは回転速いよね」

「褒めてるんだよな?それ」


 言いながらヘッドロックをかけてくるアルの腕を叩き、ギブを出す。

 

 改めて階層の説明と方針を決めた。


 道中の魔獣は狩っていくのでランタンは消す。

 果実系は一度倒してみて、ラングが満足するまで狩る。

 採掘エリアでは採掘をする。

 十一階層でビースト・ハウスを周回する。

 帰り道も目に付く魔獣は狩っていく。


 相談にあまり時間は掛からなかった。

 全員の確認と同意が取れたところでラングが立ち上がった。


「行くぞ」


 荷物をまとめてツカサたちも立ち上がる。

 癒しの泉エリアを出るところで他のパーティとすれ違い、会釈をした。

 背後で「なんかいいにおい」という声を聞いて、これから干し肉を齧る彼らに内心で謝っておいた。





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