82:別行動
さくさくと七階層へ降りた。
六階層のボス部屋はビースト・ハウスと似たり寄ったりのミノス詰め合わせのような部屋だった。
ここは前衛と魔法を駆使してあっという間に終わらせた。
ツカサは感覚が鈍るので短剣も使いたいと思うものの、対応できるかどうかが不安だった。
目の前に魔獣の圧を感じるとやはり怖いのだ。動けるか動けないかは命に関わるのでラングも無理に短剣を使えとは言わない。いつものように初見の魔獣にはラングが対応し、指示した時だけ短剣を使うことになる。
それはツカサが癒し手も担っているからこその対応でもあった。他に癒し手がいればツカサはもっと傷だらけになっていただろう。
七階層も石畳で通路の広い造りだった。
ギシギシと音を立てて見た目よりも素早い動きで走ってくる木の魔獣がいる。本来土に埋まっているだろう根っこは虫のようにわさわさ動いて襲ってくるので正直気持ち悪い。大きさは成人男性くらいだ。
葉の生い茂った頭部には明らかに果物が生っていてラングの雰囲気が嬉しそうになった。
どこからするのか、ギシャアアと鳴き声を上げて真正面から突っ込んでくるその木の枝を、ラングの双剣が払った。果実のついた枝を手に取り、ラングは一つ頷いてそれをツカサに投げた。
改めて走ってくる木を前に、アルへ尋ねた。
「殺し方は?」
「あぁいう木の魔獣は焼くに限る。核を潰そうとすると剣も槍も刺さるから、数が来たら面倒だ」
「核はどこに?」
「だいたい眉間だな、あそこ、木が割れたみたいになってるだろ、あれが口」
「なるほど、この辺りか」
言うが早いかラングは床を蹴り双剣の一本を投げて突き刺した。
木は眉間らしい場所に剣が刺さりふらついて、そのままばたりと倒れて灰になった。
地面には果実がいくつか転がっている。【鑑定眼】で見れば所謂オレンジやレモンだった。雑多にドロップするものなのか。
「ふむ、そちらはだめか」
「え、あ!」
ツカサに渡していた枝が灰になって消え、付いていた果実も灰になった。純粋なドロップ品でないと消えるらしい。
「核はあまり深い所にはないのだな」
「若干個体差はある」
アルの説明にラングは顎を撫でて少しだけ考え込み、振り返った。
「私はしばらくここで狩りを続ける。時間がかかりそうだからな、先へ行け」
「ダンジョンで単独行動なんて、危ないよ!」
「無理はしない」
ラングはツカサにあっさりと言い、すでに行動を決めているようだった。
エレナが肩を竦めてツカサの背中を叩いた。
「諦めなさい、この人、こうやって言い出したら譲らないでしょう」
「そうだけど」
「荷物の関係でツカサはこちらに貰うわよ。食材を貴方と分けて持っているのだから」
「もちろんだ」
「あー、これは決まりか?そしたら合流場所決めとこう」
「エレナもアルもなんでそんな、あっさり」
「パーティで分担して素材集めるのも、冒険者のあるある」
アルが両手を広げて笑ってみせた。それから地図を取り出しラングと何かを相談する。ツカサはそれをぼんやりと見ていた。
こんな危険な場所で単独行動など正気の沙汰とは思えなかった。けれど、冒険者たちは平然と受け入れ、対応する。
集団行動に慣れているツカサには理解が出来なかった。
「じゃあ、十一階層にあるここの癒しの泉エリアな。俺たち時計がないから、周回してちょくちょく離れると思う」
「あぁ、私はそこに着いたら動かずにいよう」
「そうしてくれ。採掘と通路と寄り道多いだろうから、いなくてもゆっくり待っててくれよな」
「わかった。頼んだぞ」
「あいよ」
いつの間にか話がついていた。
ラングはツカサを見遣ると声を掛けた。
「アルとエレナの言うことをよく聞くんだぞ」
「わ、わかってるよ」
ツカサの返事に一つ頷いてラングは横道に入っていく。頭の中に地図があるラングはそれを辿るだけで移動が出来る。
「じゃあ、初めての兄離れ、行きますか」
「兄離れって」
アルに揶揄われてツカサはムッとした。そのおかげで少し気持ちが切り替わった。
何度目か、エレナに笑いながら促され、ツカサたちはラングとは違う道を進んだ。
ボス部屋も問題なく越えた。
アルはツカサに、ラングがいないので自分が出来る全力で戦うようにとアドバイスをした。
ラングほど周囲が見られるわけではなく、いざという時に駆けつけられるかわからないから、と言われた。道中の戦闘や、実際に一緒に歩いて腕の良い冒険者であるアルがそう言うのだ。ラングの底の知れない強さを再認識した。
そんなラングと分かれて進んだ先、九階層に到着して思わず声が漏れた。
「うわぁ!すごい!」
「これは圧巻!」
「変わってないわねぇ」
ツカサの眼前にはきらきらと輝く岩肌が遠くまで続いていた。
この階層に魔獣はおらず、純粋に採掘場所になっているのだという。冒険者よりも鉱員と呼んだ方が正しい人々が、一心不乱にピッケルを振っている。
通常、ダンジョンの壁は焦げ付きはしても壊れない。今目の前で砕けているのが何かと疑問を抱けば、わからないとアルから返ってきた。
ただ、ここはダンジョンだ。近くで休憩していた人に声を掛ければ、削った壁は時間は掛かるがまた戻るのだという。逆に採掘を行なわなくては塞がれてしまうのだそうだ。
そして鉱員だと思っていた人は正しく鉱員だったらしく、依頼を受けて掘るのが仕事らしい。護衛の冒険者と九、十階層まで行き転移石に記録する。そして荷物持ちの冒険者と再度来て採掘、アイテムバッグをいっぱいにしたらまた帰る。
「空いている場所とかあるのか?縄張り争いはしたくないんだ」
「賢明だな、地図あるかい?」
「悪いな」
「いいさ、こっちだって余計な争いはしたくねぇ。聞いてもらえるだけマシってもんだ」
アルは地図を差し出し印をつけてもらった。ツカサはそのやり取りを見ていたが、アルに小突かれて気づいたように銀貨を支払い、こそりと尋ねてみた。鉱員は悪いねと言いながら答えてくれた。
「なんかあったの?」
「二ヵ月くらい前かな、大規模なクランを組んだパーティがあってな。人集めにばら撒いた資金を回収しとけっつって、メインパーティの傘下が鉱石を掘ってる。あいつらここで作業するのは初めてだっていうのに、好き勝手場所を取りやがるから最初は大変だったんだ」
ツカサ、アル、エレナが顔を見合わせた。
アルにはジュマの件も話してあるので思い当たったのだろう。
「それ、どうなったの?」
「まだ帰ってきてねぇさ、なんせ十七階だって広いからな。ボス部屋に行くだけで二ヶ月かかるって話だ。今頃ボス部屋前とかだろうよ」
「そんなに広いの?ボス部屋は中身はわかってるの?」
「おいおい、なんだ?どうしたよ坊主」
「悪い、王都のダンジョンは初めて来たんだ。いろいろ確認したい。詳細が話せる責任者はいるか?礼はするよ」
さらに質問を重ねるツカサを制止してアルが口を挟み、銀貨を五枚ポーチから取り出して鉱員に差し出した。
「繋いでくれるならこれでどうだ?」
「良いパーティだな、ついてこいよ」
銀貨を受け取った鉱員は立ち上がると三人を差し招いた。
キン、キン、ガン、ガン、音があちらこちらから響く。バッグを持ってきてくれ、とか、まだここは再生していなかったな、とか。今までのダンジョンとは違う音がする。
そう時間をかけずに鉱員は足を止め、パイプをふかした女性に声を掛けた。
「マジョリナ、お客さんだ」
「あぁ?なんだお前ら」
先ほどまで採掘をしていたのだろう、汗ばんだ肌にキラキラと鉱石の粉が散っていた。タンクトップのような服に下は安全に採掘をするためのズボン。一つに結んだ髪の毛は紫で瞳は赤、現場責任者のマジョリナは本人が宝石のような色合いの女性だった。
案内をしてくれた鉱員は軽く手を上げ仕事に戻っていった。それを見送り、女性、マジョリナへ向き直った。
「休憩中に悪い、至急確認したいことがあるんだ」
そこまで言ってアルはツカサを振り返った。
ジュマの実情を見たのはツカサなので、説明と質問は任せた、ということだろう。
「二ヵ月前に、クランを組んで入ったパーティは何が目的?ボスの種類は知っているの?踏破はしたの?」
「なんだ、矢継ぎ早にあれこれ質問しやがって、テメェ様は誰なんだ」
「ごめん、【異邦の旅人】っていうパーティのツカサだ、よろしく」
「【異邦の旅人】、聞いたことのある名前だな、思い出せねぇけど」
「それで、マジョリナさん、頼む、状況を教えてほしい」
ツカサの様子が必死だったからかマジョリナはおかしなものを見る目で上から下まで観察してきた。
ぷはぁ、と大きな口を開けて煙を吐いた後、膝に肘を乗せヤンキーのようにツカサを睨み上げた。
「ツカサさんよ、アンタ、礼は出来るんだろうな?」
ツカサは腰につけたポーチから金貨とポットを取り出した。
「お金と温かいお茶、どっちがいい?」
ぽかんとした後マジョリナは盛大に笑いだし、両方を要求した。
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