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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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80:冒険者の歩き方

いつもご覧いただきありがとうございます!


 それぞれの力量を見ながらあっという間に六階層へ辿り着いた。


 ツカサはアルにダンジョンの話や資金繰りの話を聞き、()()()冒険者の行動を学ぶことが出来た。

 ラングもこれには勉強になるらしく、質問をしたりしていた。アルは嬉しそうに質問に答え、休憩時間は非常に賑やかだった。

 エレナは穏やかにそれを見守っていたが、質問を投げかければ経験や、そういう時にどうしたかを話してくれた。


「冒険者って、自由なだけじゃないんだね」

「そりゃあ、身一つで生きるんだ。いろんなことを考えなきゃならない」

「老後のこととかね」

「やめて、俺の懐が不安になる」

「食べ歩きは楽しいけれどねぇ」

「やめてってば!」


 エレナはくすくすと笑ってアルをからかった。

 

 さて、六階層まで一日で来たので、夕食を済ませて今日は休むことにした。

 ジュマと違い陽の昇り沈みがないのでラングの時計頼みになる。エレナは辞退したが他三人が勧めてテントで休ませた。

 流石に男性と女性では体力の基礎が違うのでこの後のために中で休んでもらった。

 ツカサはラングとアルとテント番を代わる代わるした。とはいえ、ツカサも寝るときは中には入らなかった。ラングがそう言いつけ、アルも否定しなかったことからそれがルールなのだろうと思った。

 

 翌日からは食材狙いの動きをすることになる。地図を見てミノスが湧く場所を確認する。


「ミノタウロスの劣化版って言うけど、俺の知っているミノタウロスってドルロフォニアしかいないんだよね」

「ドルロフォニアって上級のミノタウロスじゃん、やるね」

「前衛は私とアル、後衛にツカサとエレナで行く」

「だな、無理しないで魔法の方が良いかもしれない」

「魔法に賛成は賛成だけど、アルはどうしてそう思うの?」

魔獣の部屋(ビースト・ハウス)ってわかるか?」


 アルが地図をとんとんと叩きながら言う。少し広めの小部屋だ。前日の作戦会議でここを目指すと言っていた。

 ツカサは頷いてみせた。ゲームや小説で目にする、所謂モンスターハウスのことだろう。


「魔獣がいっぱい出てくる部屋ってことでしょ?」

「そう、全滅させるまで部屋から出れない。いつまで続くのかもわからないし、それが一昼夜になるかもしれないし、三日間かもしれない。そんな部屋なんだよ。まぁここはもう繰り返し使われてるからわかってるけど」

「待って、俺たちは普通に通路徘徊してるのを狩るんじゃないの?」


 ツカサは驚いて声を上げた。

 アルも驚いてラングを見た。

 ラングは顎を摩り、言った。


「話すのを忘れていた」


 ツカサは天井を仰いでアルは笑い、エレナは微笑を湛えていた。


「ラング、かなり最初に言ったと思うけど、ちゃんと説明して!言わなくてもわかるとか思わないで!」

「そうだったな」

「それで、どういうことなの!?説明!」

「モンスターハウス…、いや、魔獣の部屋(ビースト・ハウス)だったな。そこに入り、手っ取り早く食材を得る」

「ということ」

「アルは知ってたの?」

「いや、というよりは俺はそれで稼ぐと思ってたから」


 つまり、短期間で稼ぐにはよくある方法で、それはラングの故郷も似たり寄ったりだった、ということだ。


「説明が欲しい」

「すまん」

「ごめんごめん」


 ツカサを前に口々に心の籠らない謝罪をする男二人をエレナが笑った。


「やることが決まったなら動きましょうか」


 はいはい、と手を叩いて追い立てられ、全員で移動を開始する。その姿がまるで母親で、ツカサはつい笑ってしまった。

 パーティは不思議だ。家族ではないが、友人で、戦友で、仲間で、その全てが混ざり合った新しい関係のように思えた。学校の友人とも、両親とも親戚とも違う。不思議な居心地の良さがある。


 地図を見ながら移動を続け、ツカサは冒険者と冒険者(ギルドラー)に尋ねた。


「ダンジョンの稼ぎ方っていろいろ種類あるんだ?」

「俺は目的地に辿り着くまでの魔獣を綺麗に狩っていく。そいで素材は全部拾うし、魔獣の部屋(ビースト・ハウス)で籠ってがっつり物を得る。あとは外の依頼だな」

「外の依頼って?」

「例えば、飼い猫探してくれとか、隊商の護衛だったりとか。時には貴族様のお屋敷で警護に当たったりだな」

「私はそういった依頼をメインでやっていた」


 猫を探すラングを想像して、アルと二人吹き出しそうになった。

 その前にじろりと視線を感じてぐっと喉で堪えた。

 

「う、うん、外専門って前言ってたもんなぁ。じゃあ、ラングのダンジョンでの稼ぎ方って?」

「護衛だな」

「ははぁ、なるほど。お貴族様の道楽に巻き込まれたか」

「そうだ。救援などで入ることが多かった」

「だったらラングがダンジョンでの稼ぎ方に疎いのは納得だ」


 アルはうむと頷いた。

 エレナはツカサにこそりと耳打ちをした。


「私は十年のブランクがあるし、ラングはそういった点で疎いし。ね?このためにパーティに入れたのだとわかるでしょう?」

「それがわかるエレナもすごいよ」

「年の功よ」

 

 エレナはふっ、と柔らかく微笑んで、もう一言囁いた。


「それだけ貴方は大事な弟子なのよ、ツカサ」


 教育にかける手間を惜しまない。時に突き放し、常に答えは言わない。常に考え続けることを強いる姿勢だが、環境だけは整えてくれる。

 ツカサはそっとラングを窺った。


「整えられたところで、身に着けられるかどうかは本人次第だ」

「あら、聞こえちゃってたのね」


 エレナがくすくすと笑ってランタンを掲げる。


「見えたわね」


 魔獣の部屋(ビースト・ハウス)の入り口が灯りの先に姿を現した。


 周囲を窺う。大きな扉があるだけで、所謂モンスター・ハウスに待機列はなかった。


 冒険者らしい稼ぎ方をする場所だと聞いたので、人がいると思っていた。

 それにミノスの肉も乳もボードに依頼があった。目的とする人も多いだろう。もしかして他にも狩場があるのだろうか?


「人いないんだね」

「ツカサ、情報収集を俺とラングに任せ過ぎだな。ラングは教えないのか?」

「教えたところで覚える気が、身に着ける気がなければ意味がない」

「さっきもそう言ってたけど、技術は盗め派なのか」


 アルはぽりぽりと頬を掻いてラングに尋ねた。


「ツカサに説明してもいいのか?教育方針とかち合わない?」

「取捨択一はそいつの権限だ」

「ひー厳しいね」


 目の前で繰り広げられる会話に、ツカサは首を傾げた。

 エレナは微笑んでその光景を眺めているだけだ。

 アルはツカサに魔獣避けのランタンへ魔力を補充させ、床に腰を下ろした。エレナも座り、ラングは壁に寄り掛かり通路の警戒を怠らない姿勢だ。

 ツカサは首を傾げながら同じように腰を下ろした。


「ツカサ、ラングに弟子入りしてるってことは、ある程度の難しさは覚悟で弟子入りしたと思ってるんだけど、どうだ?」

「うん、それはまぁ、最初に厳しいって言われたし、実際厳しいし」

「宿とか道中だけじゃなくて、常にラングが師匠として行動してるってことはわかってるか?」

「あぁ、それもわかってるよ。先を歩いて見せてくれてるなぁって思う」

「それなら、どうして学ぼうとしない?」


 学んでいるのに、アルは何を言っているのだろうか。

 ツカサは思わぬことを言われ当惑した。

 アルはうーんと唸った後、言葉を選びながら続けた。


「俺はパーティメンバーであって師匠じゃないから、情報収集にしてもやりたいようにやってる。ただ、マジェタの冒険者ギルドでラングがやった情報収集は明らかにツカサに見せるためだった、と俺は思う」

「だから、横で見てたよ」

「ならどうしてこのビースト・ハウスに列がないか、わからないのか?」

「どうしてって」


 人気がないとか、割に合わないとか、ツカサの中でいくつも理由を浮かべることは出来た。

 ラングが情報収集をしていた時に、どんな会話があっただろうか。


「リポップが遅いって話は、あった」

「そうだな、俺もそう聞いた。でだ、じゃあなぜここには他の冒険者がいなくて、ラングはここを選んだと思う?」

「なぜ…リポップが遅いから人気がない、から、他の冒険者がいない」

「それも理由の一つだな。他には?」

「…わからない」

「わかった、じゃあその理由はあとで話すとして、ラングがここを選んだ理由はわかるか?」

「いまいちわかってない」

「じゃあ、それも俺から説明するぞ」


 アルはいつになく真剣な顔でツカサに向き直った。


 説明はこうだ。


「ビースト・ハウスの中でこの部屋はリポップが遅い。せん滅をすると半日は湧かない。十一階層にリポップ間隔の短いビースト・ハウスがあって、そっちの方が回転が速いうえに、出現量とかを考えれば割に合うんだ」


 ツカサは他に良い場所があるのかと思ったが、まさしく十一階層にリポップが早めのビースト・ハウスがあるのだという。それはボードの前で話していた冒険者の会話を聞いていれば推察が出来ることだと言われた。

 ラングが黙ってボードを見上げているのはただ単に素材を確認している訳ではないのだ。


「耳は常に情報を得るように意識した方が良い。それから、ラングがここを選んだ理由は、ひとえにツカサのためだ」


 稼ぐのに多少の時間はかかっても、ビースト・ハウスの中の()を考え、ラングはここを選んだ。


 ツカサは何とも言えない気持ちになった。


 冒険者たちの会話からここのビースト・ハウスは三十頭もミノスが出てくれば終わるらしい。ラングはパーティの戦力を把握した上で選んだ訳だ。エレナやアルの実力から言えば十一階層でも十分に余裕はあった。

 不確定要素なのはツカサだったのだ。


「ツカサ、考えるのをやめるな、学ぼうとする姿勢を崩すな」


 アル自身、一人で冒険者をやって来たからこそ周囲を見聞きして情報を得る術を身に着けてきた。

 ツカサの環境が恵まれているからこそ、甘えるのは勿体ない気がしていた。

 モンスター・ハウスという言葉を知っていても、それがビースト・ハウスに置き換わっただけでボード前に居たツカサにはわからなかった。聞こえた言葉がなんなのかと考えることが出来れば、最初のやり取りもなかっただろう。


 ツカサはそれでも、やっている、考えている、と反論したい気持ちがあった。

 生来冒険者なんて職業がある場所にいるお前らと一緒にするなと言いたい気持ちもあった。

 もっとラングがきちんと言葉で説明をしてくれればと苛立つ気持ちもあった。


 叱られた子供のような態度で、ツカサは唇を噛んで押し黙った。


 その態度に苦笑を浮かべながらアルはラングを見上げた。


「あんたの教育方針に口出しまではしないが、万人が一を見せて十を理解するとは思わないでやってくれ。あんたとツカサは違うんだぞ」

「留意しよう」


 頷くラングに肩を竦め、アルはツカサの肩を叩いた。


「気を悪くしないでくれよ、ツカサ。ラングのように絶対的に守る力が俺には無いから、ツカサに少しでも生存率を上げてほしいんだ」

「…わかってる」

「そうか、ありがとうな。リーダー、少しだけ休憩してからにしないか?」

「だめだ」

「うーんスパルタ」


 スパルタという単語を使っているのか、変換の気遣いかはわからない。

 ラングはツカサに歩み寄ると通り過ぎながら声を掛けた。


「言葉が足らないことは改善をしよう。ツカサ、お前も考えることを止めるな、私を全てにするな」

「…わかった」


 まだ飲み込むことは出来ていない。

 ただ、このことでラングとの関係を悪化させるつもりもなかった。

 この人が口下手だということは、いやという程わかっていたのだから。


 ラングにはっきりと物を言うアルに少しだけ感謝と、苛立ちを覚えた。

 そして自分も()()()()()()そうでなくてはならないのだと思った。




書ける時に、書く…!

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