↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
続 一章 取り戻した平穏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

652/657

1-3:再びの時計台

いつもご覧いただきありがとうございます。


 大きな冒険を経て取り戻した日常は案外慌ただしく、改めてあの戦いが夢だったのではないかと思うほどだった。

 学園での居場所確認が済んだ後あと、次にやったことは時の死神(トゥーンサーガ)・セルクスのエフェールム邸への引き渡しだ。


 昏倒している成人男性はアルブランドー邸では手に余る。妊婦が二人、その手助けのためにも雇ったお手伝いさんがそちらに忙しくなるのは好ましくはない。シグレに届けた手紙は即座に人を手配してくれて有難かった。パフォーマンスの上手い統治者(オルドワロズ)だ、シグレの執事であるカイラスがわざわざ紋章入りの馬車でやってきて、深々とツカサにお辞儀をした。


「預かっていただきありがとうございます。当家にてお預かりさせていただきます」


 野次馬をしているご近所さんの中、響き渡るような声で敢えて掛けてくれた声は、これから運ぶものが統治者(オルドワロズ)の客人であり、ツカサが一時的に預かっていただけだと示す言葉だ。統治者(オルドワロズ)の代理人がこうした恩義を言葉にすればこそ、隣人も迂闊に詮索ができなくなるというわけだ。統治者(オルドワロズ)が関わっているのなら、不敬罪などの罰はそこからやってくるのだ。ツカサはシグレの指示とカイラスの機転に素直に礼を示した。


「アルが何を書いたかわからないけど、よろしくお願いします」

「お任せください。とにかく重要な人物である、というのは把握しております」


 またざっくりとだが、あの短時間で書くには正しい内容に思えた。セルクスは未だ眠ったまま、騎士の手を借りて馬車へ運ばれ、そうしてアルブランドー邸を出て行った。たまには様子を見に行ってあげよう。目を覚ましたら連絡をすると言われ、ツカサは門の外まで馬車を見送りに出た。


「アル様は御無事なのですね?」


 不意にカイラスに問われ、ツカサは即座に頷いた。馬車に乗ろうと足をステップにかけながら、それでも尋ねずにはいられないといった様子の一言だった。ポーカーフェイスは変わらないがカイラスの心配が透けるような気がして、ツカサは微笑んだ。


「元気だよ。このホムロルルもアルから預かったんだ」


 すっかり肩に乗るようになった鷹を揺らせば、カイラスはほぅ、と興味深い様子で頷いた。


「それならば、よいのです。では、失礼いたします」

「うん、セルクスが起きたらよろしく」


 にこりと微笑み、カイラスは馬車に乗ってエフェールム邸へと戻っていった。馬車の背が見えなくなってからツカサは大きく息を吐いた。まずひとつ終わったと思いたい。


「なぁ、街を見て回りてぇな。何がどこにあるかわかってりゃ、オレ様だって一人で飛べらぁ」

「好きに見て回っていいんだよ? あ、寂しい? いたい!」

「ピェー! 口の減らねぇガキだぜお前はよぉ!」


 嘴でつつかれ無かったのはいいが翼を思いきり広げられ顔を叩かれる。これが意外と硬くて痛い。ツカサは理の属性でもなく、ホムロルルをこの世界の精霊へ紹介ができない。ヴァンが来た時に合わせて頼むつもりではいるが、ホムロルルだって大空を飛びたいだろう。せめてイーグリス周辺くらいは案内をするか。


「買い出しがないか聞いて、少し出ようか。大丈夫だろうけど街並みの変化もないか見ておきたいし」

「楽しみだぜ! ルフレンは行くのかよ?」

「時計台に登りたいから今回は留守番かな」


 そうかよ、とホムロルルはルフレンの厩の屋根の降り立った。鷹として生きるがよいと言われたので喋れる鷹ではあるのだろうが、分類は精霊より動物なのかもしれない。【鑑定眼】でそっと覗けばホムロルルの名と、新生の鷹、故郷には戻れないが生きることはできる、と記載があり、風の神獣、土地失いなどの記載を失っていた。本当に鷹として考えた方がいいのだろうか。


「ヴァンとシェイさんがくればわかるか、シェイさんは本質を見抜く眼らしいし」


 ツカサはルフレンと会話しているらしい鷹をそのままにして家の中へ入った。買い物を聞けばもしよろしければという前置きのあと、シュレーンからメモを差し出された。今晩の夕食はミルクシチューにするらしい。ミルクとトリニクの買い出しを依頼された。


「そういえば、俺、いつも空間収納に入れちゃうんだけど、そうじゃない時ってどうやって買い出しするの?」


 つい手軽にものを持てるので考えたことがなかったが、ツカサは気になって尋ねた。シュレーンは眼鏡の奥で目を細め、両腕で輪を作った時くらいの大きさの籠を差し出してきた。


「こうした籠にミルクを分けていただくための容器かお鍋を用意して、ミルク屋さんへ参ります。アルブランドー家では容器にしておりますわ。ミルクは温まると傷みやすいので購入は最後です。生ものも求める時は、とにかく時間との勝負です、旦那様」


 なるほど、この円柱の筒にミルクを分けてもらうのだ。ツカサは二リットルは入りそうな金属製の鈍色の筒をかぽりと開いた。何の変哲もない筒だ。


「やってみようかな、籠、使っていい?」

「もちろんでございます。ですが、ご無理はなさらないでください。傷んだものをエレナ様とモニカ様には差し上げられません。旦那様には魔法もあるのですから、冷やすなり、凍らせるなり、どうぞご遠慮なく、お使いになられてください」

「うん、わかった。ありがとう、シュレーン」


 礼を言えばシュレーンは嬉しそうに礼を返してきた。最終的には空間収納に入れる気はするが、買い物の雰囲気を感じられるだろう。行ってくるね、と声を掛け、皆からいってらっしゃいを受け、ツカサは外に出た。


 ホムロルルを肩に呼んで()()のイーグリス散策だ。家を出てまずは市場へ、家がイーグリスの南東なので、東通りの市場をいつも使う。シュレーンたちは東と南を使い分けているらしいが、南は少しだけ距離があるのだ。ホムロルルはきょろきょろとあちこちを見回し、ツカサはそんな鷹に人々の関心が集まっているのを感じた。あまり見ないもんな、とツカサは咳払いで笑いを誤魔化した。

 屋台で小腹を満たすための肉串を買う際、塩を振らないでもらってホムロルルの分も買った。串を差し出せば嘴でついばみ、人のように器用に引き抜いて食べた。


「ウメェ! いい場所だぜ、風が気持ちよくってよぉ、人が多くて賑やか、それであれだな、首都・レワーシェと違って治安がいいぜ」

「この場所を治めてる人を統治者(オルドワロズ)って呼ぶんだけど、さっきセルクスを迎えに来た人の主のことね。その人が結構治安に対して厳しいんだよ」

「王様ってやつなのか?」

「んー、この街ではそうかな」


 ひそひそと話しながら串を空け、屋台に返してまた歩き出した。雑貨屋を窓の外から覗き、品ぞろえに驚くホムロルルにイーグリスを紹介するように歩くのは楽しかった。このお店が美味しいんだよ、この雑貨屋さんの歯磨き粉がお気に入りで、冒険者ギルドはあっち、とツカサは初見の人へ()()を案内する楽しみを知った。


 首都・レワーシェの雰囲気が黄金と影であれば、イーグリスは白と光だ。いや、恐らくスカイという国がそうなのだろう。この大陸に足をつけた際、その入り口であったハーベル(フェネア)で感じた高い空と澄んだ空気に思いを馳せた。

 潮騒を感じた。


「次はどこに行くんだ?」


 楽しそうなホムロルルの声に引き戻され、ツカサは見上げていた空から街並みへ視線を戻した。


「時計台に行こう、確認したいんだ」

「あの高い建物か?」


 そう、とツカサはこの道の先にある時計台を同じように見上げた。人を避けながら足早に向かった。寄り道をし過ぎて少し時間が押していた。夕食の仕込みにだって時間が必要なのはわかる。ツカサはそれなりに急いだ。肩のホムロルルは軽く飛び立ち、ツカサの少し前を飛んでいた。街中を飛ぶ大きな茶色の鷹は珍しいのか皆がわぁ、と声を上げながら振り返るのは少し面白かった。


 時計台の入り口で入場料を支払い、階段を駆け上がった。相変わらずこの上に行くための筋肉が痛い。上まで行こうとする人の少なさも相変わらず、汗をかきながら、息を切らせながら上がっていくツカサは物珍しそうに眺められてしまった。

 上がりきり、膝に手を置いて息を整えた。顎を伝う汗を拭い、髪を掻き上げ、外に出た。


 涼しくて冷たい、乾燥した風が吹いた。サァっと両頬を包み流れていった風はツカサの汗を払った。時計台の手すりに身を投げ出すようにして両手をつき、顔を上げた。

 高くて青い空、全てを包むような広さ、ツカサの短い髪をさらっていく風は絶えず柔らかく吹き渡り、時に戻ってきた。


「いい風だぜ」


 人がいないのをいいことに堂々と降り立ち、ホムロルルが手すりを掴んだ。


「オレ様は鷹だけどよ、ここに満ちてる理の力はわかるぜ」


 向きを変えたホムロルルに倣い、ツカサも空と街並みを見渡した。西街はボロボロになってはおらず、隔てていた旧西門は取り壊し作業が進んでいた。ツカサの知っている街並みだった。


「いいな、オレ様たちが失って、ずっと恋焦がれてた風だ。きっと、今はもう大丈夫だろうけどよ」


 ホムロルルは戻ることができない。ツカサが今に確信を得たいのと同様にホムロルルもまた、故郷の今を想い、元通りになった理を、家族の無事を願うのだ。わからないからこそ、大丈夫だよ、とは言えなかった。


「いつか、見てくるよ。シャムロテスも、大虎さんも、牡鹿も、キスクも、景色を、俺が見てくる」


 震えた声で言うホムロルルの翼をそっと撫でた。あの場所へまた行けるかはわからない。時間軸がどうなっているのかもわからない。それでも、世界を越えたという事実はいまやツカサにとって、()()()()()確信だった。ホムロルルはツカサの肩へ移動すると少し濡れた嘴を寄せて、ピェ、と小さく鳴いた。


「そうだな、お前の言葉なら信じられるぜ、ツカサ」


 うん、とツカサはホムロルルの翼を撫で、あの戦いを知る戦友がここにいることに感謝した。暫く互いに無言で空を見上げていた。それから足音がしてツカサは懐中時計を開いた。


「しまった、買い出しをしないと。夕飯が遅くなっちゃうな」

「おっと、そりゃいけねぇな」


 踵を返して扉へ向かい、そこから出てきた人と鉢合わせしてしまった。


「おっと、失礼、おや?」


 互いに仰け反ってよろめきかけ、それぞれの腕を掴んで支え合い、顔を覗き込んでしまった。相手は目深く帽子を被っていて顔がよく見えなかったのだ。帽子から覗く髪は勿忘草の花のような色合いで鮮やかだった。ツカサは思わず笑ってしまった。


「なんていうか、いつも突然だね。フィル!」

「ツカサじゃないか!」


 固く握手を交わした。引き寄せられ、ぐっと抱きしめてくる友愛のハグが嬉しくてツカサも強く抱き返した。手を確かめるように撫でられ、なんだろうと思っていたら真面目な声で問われた。


「【身代わりの指輪】はどうしたんだ? しっかり吐いてもらうよ」


 ツカサはヒュッと息を呑んだ。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。

じわじわ続章進めていきますが、ひとつお知らせです。


このラノ2027で【処刑人【パニッシャー】と行く異世界冒険譚】が投票対象として載っています!

「続刊ほしい」「短編集」……など、こちらの投票で上位に食い込めば出版社様へのアピールにもなりますので、ぜひ、ご参加ください!

好きな作品をアピールする機会です、ご自身の好きの中に、可能であればパニ譚を入れていただけたら嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。