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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

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4-23:あたえるものは

いつもご覧いただきありがとうございます。

お待たせしております。1回目の原稿の校正作業に入りました、頑張ります。


 ようやくの再会。ツカサは心地よいラングの手のひらでぺちょりと身を任せ、転がり落ちた坂道で受けたダメージも、ラングの手刀のダメージもどうにか癒そうと大人しくしていた。ズキズキと痛い体は元々熱いらしいこの体の熱をさらに上げているようで、頭がぼうっとしてきた。


 こんな姿でもツカサであるとわかってくれたことが嬉しい。ラングの故郷にはそれらしいことを言って惑わせる魔物もいるらしいので、その類だと思われれば一刀両断であってもおかしくはなかった。つまり、ラングは今、ドルワフロにいるツカサがツカサではないと判じ、だからこそ黒いスライムのツカサという可能性も理解したのだろう。さすがだ。


『いったいどういうことなんだ。なぜそんな姿になっている』


 ラングの疑問はもっともだろう。ツカサはぺちょりと体を広げたままぼんやりとラングを見上げ、実は、と話そうとした。


『こ……り……めがみ……、か……だ……、……』


 ゲボッ、と血を吐きそうになった。引っぺがした喉が血を流しているような状態で、まだ多くの言葉を話せる状態ではなかった。手の中でぷるぷると震えるツカサにその体力がないことを察したのか、そっとラングがもう片方の手をツカサに被せた。温かい、気持ちいい。そうか、ラングは理の属性なのでこの体と波長が合うのかもしれない。このまま包まれていたい。


『即座に話せないのはわかった。いい、時間を掛けよう』


 有難い。このまま少しだけ眠りたいな、と自分を甘やかそうとしたところで、全身がぞわりぷるるっと震えた。突然ラングが素早く動いて、ツカサは指の隙間から外を見た。にたぁっと笑ったヴァーレクスが上段からタルワールを振り下ろしていた。しまった、忘れていた。


 何やってんの! やめてよ!


 叫びが届くことはなく、ツカサはラングの速さに体が飛び散らないように糸くずの腕でしがみつくので精一杯だった。剣を抜いていないラングはそれを純粋に距離で回避した。上段から圧倒的な速さで振り下ろされた剣戟を敢えて大きく跳んで躱し、その先でもう一度地面を蹴って跳び、片腕で器用に木の節を掴んでぐんと登り、枝に乗り上げた。先ほどまでラングが居た場所をヴァーレクスが大きな半円を描いて斬り払っており、枯れ葉がぶわりと舞い散っていた。鋭い振り抜きと強い踏み込みで波状にそれが舞い上がり、はらはらと落ちていく枯れ葉の間からヴァーレクスのぎらついた目がラングをしかと追っていた。


『何者だ。ツカサが狙われているというよりは、私だな?』


 そのとおりです。

 ツカサがぷにっと頷けば、ラングから舌打ちが零れた。


『構っている場合ではないんだが、あの足の長さ、追いつかれるだろうな』


 枝の上にいるラングを見上げ、ヴァーレクスは楽しそうに笑い、少し離れた。降りてくるのを待ってやるぞ、という意思表示だ。ツカサはラングの指をぎゅっと掴んで首を横に振るようにぷるぷる震えた。ラングはそれに小さく首を傾げたものの、下で腕を広げて待っているヴァーレクスに小さく溜息をついた。


『すぐ終わる、ここに居ろ』


 だめだって! あれは一応仲間なの! 置かないで! セルクスはどこ!? セルクス!


 木の枝に置かれそうになったツカサは必死にしがみつき、引っ張られても離れなかった。ラングはそこに何か訴えたいことがあるのはわかるらしく、じっと考え込んだ。それから、下でタルワールを手に待っている男を見遣った。


『諦める気はなさそうだぞ。仕方のない』


 ラングはツカサを服の合わせにぐいっと突っ込んだ。草原の民のような衣服の合わせ、右側からぐっと突っ込まれたツカサはそこに内ポケットがあることに気づいた。この服、こんな構造があったのか。じゃなくて、とツカサはラングの服を内側から掴んで訴えた。ずきりと体が痛み、内ポケットの中でぺちょりとなってしまい、糸くずの腕から力が抜ける。それはそうだ、マントもない体で衝撃を逃がすこともできず、最終的に鋭い手刀を受けて頬、いや、あばらを打たれたようなものだ。皮膚があれば血まみれ、骨があればヒビが入っていただろう。喉もじんじんと痛く、人の呼吸を思い出したからこそ熱くて痛い。血を呑む込むような不快感も喉の奥にあった。


 とん、とラングが地面に降り立った。ヴァーレクスはゆっくりと足を下げてやや広い場所まで誘導すると、腕を持ち上げ、上段にタルワールを構えた。ラングは双剣を抜きながら、すぅ、はぁ、といつもの呼吸を入れて整え、ゆったりと構えた。隙だらけのように見えるが、隙のない構え。けれどそこに微かな闘気を感じるのか、ヴァーレクスは眉を顰めた。こうして内ポケットにいるツカサにもラングからゆらりと感じるものがあり、そこに未熟さを覚えた。【ラング】の技術はいつ大成したのだろう。

 ふっとそれが消えた。呼吸を続け、ツカサの触れている人の気配が消えてゆく。なるほど、時間が掛かるだけでできることはできるのだ。


『どうした、掛かってこないのか?』


 こてりと傾げた首で問いたいことはわかるのだろう。ヴァーレクスがにまりと笑う気配がした。戦ってほしくはないが、戦うのなら見たい、とツカサは懸命に気配を探った。

 先制はヴァーレクス、地面を蹴った脚力で離れていた距離を一気に詰めてきた。ラングは自身の足の長さとヴァーレクスの長さを既に把握しており、前進を選んだ。ツカサ自身も地下闘技場で同じ方法を選んだのであれは正解だったのだろう。

 ヴァーレクスが左足を踏み込み、やや右側へ振り下ろした剣戟は途中で意味合いを変えた。ラングの挙動を眺め、その足先がヴァーレクスの左側へ向いているのを見た瞬間、タルワールに添えていた左手を離した。振り下ろした勢いのまま右手を後ろ側へ振り抜いて回転、ヴァーレクスは自身の左を抜けるラングの首を狙って回転斬りを披露した。

 しかしラングもまた反射神経に長けている戦士だ。やや斜め下から一閃を描いてきたタルワールに対し、切っ先を上に向けた左手の双剣の面をシールドに添え、衝撃を逃しながら剣を逸らした。タルワールをいなした双剣をラングは左に大きく振るう。回転し、足の軸が既に捻られているヴァーレクスの脇腹は無防備なように思えた。だが、ヴァーレクスは背筋と腹筋を駆使し、タルワールの柄頭を上に向け、左手を添え、膂力を使って力任せにラングの剣を弾いた。それは腕力のあるヴァーレクスだからできた技法だった。


 弾かれたラングは距離を取り、双剣を振って手に馴染ませた。びりびりとした振動が手のひらに残っていたのだろう。それは剣戟を鈍らせるのだ。力をいなし、逸らす。その技術はやはり【ラング】の方が高い。その証拠にシールドの造形も利用してヴァーレクスの剣を掻い潜った。


 お互いに距離を測っていた。ヴァーレクスは二歩、ラングは三歩半と絶妙に自身の間合いだ。すぅ、はぁ、とラングが音もなく呼吸を整える。ツカサはそれをラングの胸元で感じ取り、再び激しい打ち合いに繋がることを予想した。

 だが、当然、そんなことをしている場合ではない。


『止めよ! そこまでだ!』


 白い蛇の杖を掲げたセルクスが牡鹿に跨りようやく辿り着き、両者の間に入り込んだ。ラングは牡鹿の姿に舌打ちを、ヴァーレクスは水を差されて興が削がれたと言いたげに盛大な溜息をつき、タルワールを収めた。それを見て、内ポケットでツカサがもぞもぞしたこともあり、ラングも双剣を収めた。


『何者だ。なぜ牡鹿がいる。あの黒い泉に落ちたはずだが』

『なぜならば、我は理の女神様の願いを叶えるために飛び込んだのだ。そしてここに居る』


 ピシリと決めポーズを取る牡鹿の上、セルクスが携えていた杖がするりと蛇の姿に戻り、ラングへ身を伸ばした。その蛇には見覚えがあるらしく、ラングは小さくシールドを傾げた。


『無事だったのか』

『やぁー、お待たせ。とりあえずねぇ、この人もあの人も牡鹿も敵じゃないからさぁ、話そうー? ツカサも弱ってるしねぇ』

『……これは本当にツカサなのか』

『そうだよぉ、お嬢がぁ……理の女神様がお体を貸してるんだぁ』


 ラングの内ポケットから取り出されたツカサは息も絶え絶えだ。内ポケットとはいえ、もう振り回されるのはだめだ、コーヒーカップのアトラクションに乗って回し過ぎた時のように少しでも揺らされたら吐きそうだった。セルクスはひょいと蛇をヴァーレクスへ差し向け、蛇は器用にヴァーレクスへ飛びつくとその衣服の中に無理矢理入り込んだ。ひやりとしたのか、ヴァーレクスは再び背を丸めて耐えていた。もはや説明はないが通訳だろう。

 セルクスは牡鹿をラングのそばへ誘導し、手を差し出した。逆の手にはマール・ネルがいて、フゥゥ、と心配されてしまった。


『すまないな、私には止められなかった。しかし、随分と無茶をしたものだ。牡鹿の足であればどうにか間に合ったかもしれないというのに……』

『蛇は敵ではないというが、お前は誰だ』

『あぁ、そうだったな。私はセルクス、君とツカサに権能を分けている時の死神というものだ。今はただの人だがね』


 確かめるようにラングが手のひらのツカサを見遣った。ツカサはそれにぺちょ、と頷いた。セルクスは手を差し出し続けていた。


『ツカサを渡したまえ、すぐに返すとも』


 セルクスの声に微かな緊張があり、ラングはツカサをそちらへころりと転がした。ラングの手に糸くずの腕を伸ばし、ツカサは寄せてくれた指にしがみつくのはやめなかった。魔力や理についてそんなに違うのだろうかと考えていたが、まったく違う。理の属性の肉体を借りたからこそラングのそばは体が楽なのだ。灼熱の砂漠の中でオアシスに居るような、冷風を感じているような感覚だった。

 セルクスはツカサの背中に手のひらを置いた。


『酷い怪我になってしまったな。……目の前にある無限と思えるものとて、有限なのだと忘れるな』


 パキパキと金属に細かいヒビが入るような音がした。ツカサはぼんやりとセルクスを眺め、見守っていた。セルクスからふうわりと輝きが放たれた。細かい金粉がふわりと風に吹かれてひゅるりと線を描く。それがゆっくりとツカサに注ぎ込まれ、光が沁み込んでいく。さらさら降り注いだ金粉が終わり、全てがツカサの中に入り光った後、体が楽になっていた。ツカサは糸くずの腕で自身を支え、起き上がった。


『これでよいだろう。しかし、あのような無茶はこれきりにしておくのだぞ』

『う……ん、あり……と』


 まだ掠れているし喉は痛いし、到底ツカサの声とは言えないが、皆に聞こえる声が出たということが嬉しかった。セルクスからラングの手に戻ったところで、ラングはヴァーレクスをじっと探っていた。どうかしたのかと問えば、ラングはふと尋ねた。


『黒いものに襲われた時、私を助けた戦士か? 衣服が大きく変わっていて気づくのが遅くなったが、礼を言うべきだろうな?』


 蛇から通訳を受けたヴァーレクスはふん、と鼻を鳴らしただけで肯定も否定もしなかった。先ほど襲い掛かられたこともあり少し考えた様子だったが、ラングは滑らかな動作で胸に手を当て、頭は下げずに礼を示した。言葉がないのは言語が通じないことを考慮してか、それとも襲い掛かって来たのだから半減だぞ、ということか。どちらでもいい、一先ず合流はできたし、戦闘も少しあったが防いだ。


 さて、ではどうしようかというところだ。このままドルワフロに行っても、ツカサが持つ【変換】を奪われでもしたら詰む。ツカサの体を持ったまま殺されても詰む。そうした話を共有し、改めて作戦をたてねばならないだろう。掠れた声で途切れ途切れの声を出しながら、頭の中でそういうことを考えればセルクスが受信機のようにそれを受け取り、声にしてくれた。


『キスクはどこにいる。ポーツィリフに探してくると約束している』


 想定通り、ラングはキスクを探すためにユキヒョウの足跡を辿って来たらしい。ツカサはぷるんと胸を張った。首を傾げられはしたがラングは深く追及はしてこなかった。まだ思うように話せないツカサに代わり、セルクスが説明をしてくれた。


『今は首都・レワーシェでショウリとともに戦いに備えていて、ユキヒョウもそこにいる。トルクィーロも、ルシリュたちと行動をともにしているので今頃再会しているだろう』


 ふむ、とラングは顎に手を添えて思案した。それから言った言葉にツカサは、あぁ、ラングだな、と思った。


『本当にお前が時の死神なる神だとするのならば、証拠が欲しい』


 ツカサがヒールを使うのを見ていたからこそ、セルクスの先ほどの行為が治癒魔法に思えたのだ。ツカサは分け与えられたものを知っているが、ラングには見えないからこその疑いだった。セルクスは懐かしいものを眺めるように目を細め、マール・ネルをラングへ差し出した。


『今、力を使うわけにはいかない。彼女のことは知っているだろう、ここまでどうしていたのか、教えてもらいたまえ』


 その白銀の杖はツカサが首都・レワーシェで会話する際に常に持っていたものだ。偽物だとするのならばあまりにも精巧、ラングは手のひらにいるツカサの頷きを経てからマール・ネルを手にした。ラングがマール・ネルを持つのはこれが初めてだな、とツカサは感慨深い気持ちで見上げた。


 暫し、ラングは沈黙した。マール・ネルのフゥゥ、という柔らかな声が今までにあったことを語っているような気がした。マール・ネルを持っていれば言葉として聞こえるものが聞こえないのは、選ばれていないのだと痛感し、やはり少し寂しかった。会話が終わってラングがシールドを上げた。


『なるほど。把握した』


 ラングはセルクスにマール・ネルを返そうとして拒否された。


『私はただの人の身だ。マール・ネルを持っていることは少なからず影響がある。ツカサへ持たせてくれ』


 このツカサに? とラングの言いたい気持ちはわかる。ツカサは糸くずの腕でマール・ネルに触れて空間収納へしまい込んだ。空間収納があることは理解したらしく質問はなかった。ラングはヴァーレクスへシールドを向けてこてりと首を傾げた。


『いろいろと言いたいことはあるんだが、ツカサが転がり落ちたのはお前のせいらしいな?』


 ハッ、とツカサは再会の喜びで忘れていた怒りを思い出した。

 そう、そうなんだよ!

 ツカサは糸くずの腕で文句を訴え、ヴァーレクスは面倒そうな気配を察知したらしく眉を顰めた。


「ぶつかってくるのが悪いんですよ」


 少しは反省しなよ! 本当に死ぬところだったんだから!


『落ち着きなさい。いずれ罰が当たる。いや、必ず受けさせる。それよりも今後のことを話そうではないか』


 その前に一発、ラングに殴ってもらいたいな。


『時間が惜しいのだ。理の属性であるラングが近いことで、彼女と君は同化の速度が上がっているし、私は姿を保つのも厳しい。消耗を減らすため、同化を防ぐため、【時失いの石】を持つアルと合流せねばならん。ツカサは今すぐラングから【命の女神の欠片】を受け取りなさい』


 セルクスの焦燥の滲む声に振り上げていた糸くずの腕を下ろした。


『姿を保つのも難しい、とはどういうことだ』


 ラングが問えば、セルクスは深呼吸の後、目を瞑った。


『説明が面倒だ、神かどうかもこれでわからせるとしよう』


 ふうわりとセルクスの衣服が揺らめき、しゅるりと大きさが変わった。細い手足、幼い顔、牡鹿の上に跨っていた成人男性は少年に姿を変えた。ぐらついて牡鹿の首に抱き着き、こほんと咳払いがあってから言い訳が出てきた。


『仕方あるまい、大きな体を作っていると息切れがするのだ。子供ならば必要な力が少なく、まだマシなのだよ』


 年齢にして中学生に入るかどうかくらいの年齢だ。すまし顔がマセているように思えてツカサは少しだけ笑った。いや、そんな笑えるような状況ではないのだが。

 ラングはというと、さすがにその光景には人知を超えたものを感じ取り疑いが晴れたのか、肩を竦めてツカサを見遣った。ツカサはそれに苦笑を返すようにプルンと震えた。

 再びの咳払い、注目を集めてからセルクスはとんでもないことを言った。


『ツカサが瀕死になるなど予想外の出来事だったのでね、力を使ってしまった。しかし使ったものは取り返せない、力は零れていくばかり。私にも時間がないのだ。だが、もっと時間がないのはツカサに他ならないのだぞ? そのままだと三日もすればその体から出られなくなるだろう』


 え、やば、とツカサから小さな声が出た。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


ここから2、3話で動いていきますよ。


1巻書影

挿絵(By みてみん)


2巻書影

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
あと三日!?このあとどういう経緯で新終章一話につながるんだ……! それにしてもヴァーレクスはいつの初対面でも気持ち悪がられているのが面白くて笑ってしまいます。ツカサメインで関わっているときはツンデレ師…
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