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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

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4-18:神様の話

いつもご覧いただきありがとうございます。


 魔力は空になるまで使用して、魔力総量を増やす、というのは、ラノベでも漫画でもよくある話だ。

 それがなぜそうなのかと考えたこともあるのだが、ツカサには答えがない。ツカサは今まで本当の意味で枯渇したのはイーグリステリア戦の一回だけだ。あの時、ラングのくれたお守りも、マントに溜めてあった魔力も、全てを使い切って手当てし、生き延びた。

 あの後、確かにぐっと魔力総量が増える感覚はあった。


 そこまで考えて思い至ったのは防衛本能だ。魔力を使い切ることで魔導士は死ぬ。だからその前に体を休めようと睡魔が襲い掛かり、空腹になる。自らを休ませての回復と、外からエネルギーを得ることで魔力に換えるのだろう。同じ危機に陥らないよう、もっと多くの魔力を、と求めることが総量の増加に繋がるのではないだろうか。

 あながち間違いでもない気がした。実際、広場で思い切り魔法を使わせてもらったことで、じわじわ戻っているキスクの魔力は総量を大きく増やしたようだった。これでまたもっと魔法が使えるな、とツカサはぽよんと震えて悪い笑みを浮かべた。


 しかし、あの眼はなんなのか。今回、実際に空に浮かびはしなかったが気をつけるべきものは増えた。

 濃霧に包まれて逃げた広場。あれはどこまで人々に見えていたのだろう。眼は何を目的としているのだろう。確信にも近い予想はあれど、誰かにそうであると肯定されなければ不安は続く。そして【迷宮の加護】の力の全容がわからない。

 ツカサはパンの欠片を持ったまま、じっと考え込んでいた。


「先生? 食べないのか? 調子悪いか?」


 口いっぱいにパンとハムを頬張ったキスクに覗き込まれ、ううん、考え事してた、とツカサは体を震わせ、パンを黒いスライムの体に沈めていく。本人はぱくりと齧ったつもりなのだが、食事の方法はスライムだ。とぷりとパンやハムの欠片が消えていくのは不思議なものに見えるらしい。この世界にも魔獣がいるのではと問えば、それは動物よりももっと凶暴なものであって、そんな変な生きものはいないと言われた。解せぬ。


 一頻り食事を済ませ、切り取られた時のまま進むことも戻ることもない不思議な室内でツカサはセルクスと会話した。議題は眼と【迷宮の加護】のことからだ。セルクスはリガーヴァルの言葉で答えた。


「あぁ、予想は正しい」


 特に回りくどいことも言われずに肯定され、拍子抜けした。

 空に浮かぶ眼は狂った命司る女神・スフィアキリスであること、探しているのは【理の女神(この世界)】であり、自身が砕いた【次代の命の女神の欠片】であること。ツカサはぷにっと首を傾げた。


 待って、命の女神が命の女神、後輩を砕いたの?


「そうだとも。人の命に触れればこそ、感情や思考をするようになるのも神だと言っただろう。代替わり、取って代わられる、それは自身が死ぬことだと理解するのも道理だ」


 そもそも、俺、神様がどういう感じで世代交代するのかとか、イメージがわからないんだよね。セルクスが里出身っていうのもよくわからないんだよ。神様って唯一無二のもの、っていうイメージでいるからさ、そもそも里って何っていう。


「世襲制がなぜなのか、ということかね」


 そう、と再び頷く。セルクスは少し考えた後、まぁ、いいだろう、とソファに座り直した。制約に触れて怪我をしないでほしいと釘を刺せばセルクスは、今は人なのでね、と卑怯なことを言った。しかしそれは諸刃の剣だ。今の状態でセルクスが致命傷を負えば死ぬ。時の死神(トゥーンサーガ)の権能はツカサとラングに渡したまま、その引き継ぎ方法も知らないので、二人が離れ離れになれば命を(いざな)えなくなってしまう。

 セルクスは穏やかな笑みを浮かべてツカサを膝に乗せた。キスクは蛇を服の中に入れたまま机に突っ伏して眠り、ヴァーレクスは向かいのソファで悠々と、ユキヒョウは牡鹿を押さえ込んで毛繕いをしている空間でのことだ。


「我が里は、本当にただの里なのだ。一年中穏やかな気候で緑は当然ながら、中には金銀の葉や瑞々しい果物や木の実をつける木々があり、クリスタルのような岩は絶えず綺麗な水を溢れさせ、渇きを癒す。我が里だけではなく、私の故郷を有する世界は神になるものが生まれるための、揺り籠なのだ」


 きょとん、としてしまった。まるで生まれながらの神はいないと言われたかのようだ。セルクスはそれに対してそうだと首肯した。


 ツカサにとっての神とは、生まれ落ちたその瞬間から役割を理解していて、力を扱え、人を導くことができる存在だ。神なのだからそうであるべきではないのか。

 だが、セルクスは違うと言った。


「完璧なものなど存在しないのだ。不完全だからこそ、足りないものを求め、補い合うのだ。そこに権能があり、力はあれど、人と同じだ」


 全ての理の神(クリアヴァクス)は理を司る神である。だが、時は担わない。

 セルクスの友だという刻の神(クロノス)は時を司る神である。だが、命は担わない。

 セルクスの役割だという時の神(トゥーンサーガ)は命の時を司る神である。だが、円環は担わない。

 運ばれ(いざな)われたものを受けとる、命司る女神は命の円環を司る神である。だが、世界は担わない。

 世界を創り、生まれさせる権能を司るのは全ての理の神(クリアヴァクス)である。


「こうして神の世界でも大きな輪を描き、ぐるぐると回っているのだ。さらに細かく掘り下げていけば、それぞれの世界を司る理の神がいて、その下にさらに精霊がいて、といくらでも広げられるのだが、それは時間が掛かる。知りたければ君の旅路でさらに探していけばよい。ありとあらゆる世界各地に、神に触れた者たちが残した何かが、あるものだ」


 ツカサはごくりと喉を鳴らすように震えた。これはシェイが、その師匠が得た世界の真理だ。世界を見守る者(シェイフォンド)もこうして神とかかわったことがあったのだろうか。弟子を探し続けたという四百年で遺されたものを見つけ、あれだけの真理を得ていたのだろうか。会えない人に思いを馳せるのはそのくらいにして、ツカサは続きを尋ねた。


 そもそも、全ての理の神(クリアヴァクス)はどうやって生まれたの? セルクスの里、その世界の意味って何?


「今だからこそ、それも話せる。だが、彼の神の出自については不明だ。聞いたこともあるが、気づいたら権能を持ってここに居た、と答えた彼の神の言葉が全てだ。それに私の故郷についても、なぜなのか考えたことはなかったな。そういうものだと受け止めてしまう、そういう……仕組みなのだと、そうだな、そう思っていた」


 権能を譲り渡し、神の力を手放した人だからこそ制約を受けない。まるでこの状況も成るべくして成ったかのような、そんな運命を感じた。しかし答えは不明瞭、結局それらの謎を解くには至らなかった。では全ての理の神(クリアヴァクス)の仕事内容はなんなのかと問えば、これは答えがあった。


 セルクスの世界は大きく、広く、様々な種族が生きているらしい。精霊ではないものの、水、土、火、風の属性を持つ人々がいて、それらの属性がもっとも強い者たちは【選ばれし者】となり、その力をある場所に納めるための旅に出て、その間に心身を鍛えられるらしい。そうして納められたものが理の神の種となり、全ての理の神(クリアヴァクス)の手によって発芽、小さな神になるという。


 全ての理の神(クリアヴァクス)が無から世界を生み出しているのではないと知り驚いた。いくらでも創れてしまうこと、それは他の権能を司る神の負担にもなる。創らないわけにはいかないらしいが、数が増えても困るから、出来上がった仕組みではないかとセルクスは腕を組んだ。神でもわからないことはあるようだ。


 そうした世界で、セルクスは【無属性】なのだそうだ。【無属性】の者たちが住まう場所がセルクスの故郷である里だという。そこに生きる人々は寿命が長い。争いから隔絶された隠れ里、ツカサの記憶の中で桃源郷という言葉が浮かんだ。


「いつからそうした役目を担っていたのかはさすがに私も把握していないが、次代の時の死神(トゥーンサーガ)は自然と、そうしなくてはならない、と理解をする。私も里の中で成人を迎えた頃、自然とそれを把握した」


 そうして、世界の何かが流れ込んでくるのだという。それが何かと問えば、セルクスはふと神の顔でにんまりと笑い、誤魔化した。


「さて、そうして世界の種は暗闇という畑に蒔かれ、成長し、花開いていく。その後、どうやって世界が育つのかは既に話しているな?」


 ツカサの精神世界で聞いた話を思い出しながら頷いた。人の精神世界をこねくり回さないでほしいと思ったことも思い出した。

 理の神たちが水を求め、足をつける大地を求め、温もりを求めて火を、行き先を決めるために風を、だったか。ツカサが身振り手振りをつけながら言えば、セルクスが頷く。


「そして最終的にはそこに生きる者たちのせいで、神は狂うのだ」


 人の想いを受け止め続けると、神は狂う。

 命の女神は人の想いに触れすぎて、狂った。そうしたことを防ぐための後継者が居たというのに、それを自身の手で砕くほどの乱心。セルクスは尻の位置を直し、寂しそうな顔で言った。


時の死神(トゥーンサーガ)刻の神(クロノス)も、役目を負う前にそれが世襲制であると知っている。だからこそ、辛くともいつかこの役目を終えられると思い、耐えられる。終わりがあると知るからこそのことなのだ」


 命の女神にも次代はあったわけなのに、それを命の女神が知らなかったの?


「いや、知っていたはずだ。もしくは感じていたか。たとえば、もっと早くに世代交代があれば素直に譲り渡したかもしれない。遅すぎたのだ。死にたくないと願う者が、死を受け入れられるかね?」


 何度だって耳に蘇る声があった。


 ――俺、死にたくない! 死にたくない! 幸せになりたい、ただそれだけじゃねぇかよ!


 ハッとした。シュンの叫びは想いとなって、同じ感情を抱いていた命の女神に届き、同調してしまったのではないだろうか。ツカサがそう呟けば、セルクスは頷いた。


「そうだ。これ以上は数多の世界が影響を受け、すべての世界が黒く染まってしまう。だから、手遅れになる前に、私は命の女神の魂を刈りに行ったのだ」




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


きりしまの定期開催される面倒な考察と謎解きフェーズです。

次の話もまぁまぁねっとりしている面倒なところではありますが、

結論まとめてくれる人がでいるので辛い人は中ごろからどうぞ。


1巻書影

挿絵(By みてみん)


2巻書影

挿絵(By みてみん)

面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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