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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-41:諦めを知らず

いつもご覧いただきありがとうございます。


 手紙の返事は、文字数と内容に気をつけるべきだろう。【神子】が使っていた言葉はリガーヴァルのものだった。つまり、ツカサが日本語を話せると考えていない可能性もある。ショウリのように確かめられはしなかった。


 王都マジェタで知らないふりをした時のことが思い出された。ところどころ情報が筒抜けだったことは、理の女神があの状態で押さえきれないところもあったからだろう。この目が、耳が、シュンが覗き見るに十分だった時があったのだ。時の死神もまた自身を癒すために力と時間が必要であろうし、いつから居たのかは不明ながら、理の女神に力を分け続けるわけにもいかなかったはずだ。


 マール・ネルに尋ねたところ、【変換】の乱用ができないように注意している、とふんわりとした答えがあった。時の死神曰く「悪用を封じ、やすやすと触れさせず、一気に使わせず」にいたらしいので、シュンの欠片は徐々に、マール・ネルが気づかないようにツカサの体を奪おうとしていたに違いない。そして【変換】を本格的に使用できるまで浸食をすれば、知らない間に奪われていたのかもしれない。時の死神の怪我の治りが遅いことから、あの人もまた守ろうとしてくれていたのだろう。


 時の死神とマール・ネル、そして理の女神がいなければ、ツカサは今頃シュンに体を奪われていた可能性が高かったのだ。自分が自分ではなくなることを想像し、ヒヤリとした。いや、何度か使った身としては大声で文句は言えないだろう。ぐっと呑み込んだ。


 自身の目が、耳が本当に自分のものであるかという不安が過ぎり、アル宛てにはわかりやすく、これはダミーであるとわかるようにし、ラング宛ての手紙には文字数と綴りの制限を自ら課しながら、もし読まれても大丈夫なように遠回しに書くことを決めた。ラングならばこの差と意図に気づいてくれるはずだ。ツカサはどう書こうかと悩み、一先ず顔を洗うことにした。書くこともまとめなくてはならないし、少々さっぱりしたかった。


 手拭いで顔を拭い、服は仕方なくそのまま、パンを齧り腹を満たしてから腕を組んだ。さて、まずは何を行おうか。手紙の返事を書くのもいいが、針が気になった。あの筒の上げ下げだけでここまでのダメージは非常に困る。何か行動を起こした際、あれがあるだけで足を止められてしまう。魔力もあっという間に枯渇する。片付けておきたい最優先事項だ。

 改めて遠く離れた糸からゆっくりと変換し、引き剥がし、魔力に変える。一度やったことをなぞり直すのは簡単だった。四時間ほど掛かったものの、自身の首からつぅっと針を抜くことができ、ぶわりと汗をかいた。集中力を研ぎ澄ませていたので息が浅くなっていたらしく思いきり吸った酸素が臭い。おのれ地下牢。


『でも、やってやった』


 指先で摘まんでいた赤い針を【変換】で自身の魔力へ変え、握り潰した。これで位置は辿られないはずだ。それに、あの筒の効力も奪った。敷いた布にばたりと倒れ、土の天井を見上げた。


『ガンマナイフ……、一点を狙う……』


 今、ツカサは魔封じとして刺された細いものを一本ずつ魔力に【変換】し、抜いている。ただ、考え方を変えてみるのはどうだろうか。そう、たとえば、穿たれた一点をずらしてみる、とか、魔封じを曲げてみる、とか。ありかもしれない。


『あれでしょ、いわゆる、漫画とかで見る集中線が俺の魔力中枢に向かって綺麗に向いてて、それが一点を押さえてるから魔力が封じられてるんだよね? どうしてそんな簡単なことに気づかなかったんだろう』


 理由はわかっている。精神的に余裕がなかったからだ。アルの機転で手紙のやり取りができ、安否が確認できたことが心の余裕となり、自身を守ってくれている様々なものを知ったことが気力に変わっているのだ。

 一人ではないと知ることは、人にとって大きな安心感に繋がる。暗い地下牢の中でも変わらない味方がいる。それだけで闇は怖くなくなるから不思議だ。ツカサの周りには温かなランタンが溢れていた。


『でもその分、気をつけないと。魔封じが解けるとなると、シュンがやりかねないのは全員を巻き込む魔法だよね』


 地下牢全てを焼こうとした行動を思い出した。寿命が百年程度の世界で首都・レワーシェにいる命全てが殺された場合、世界は大きくバランスを崩していくだろう。そうなった時、帰る道をまだ得ていない今、ツカサはラングやアル、出会った者たちを守るために、それをどうにかしようとしてしまう。いや、そこまで【神子】が無謀だとは思いたくはないが、どこまでが考えなのかがわからない。


『でも、たぶん、俺がここにいるのは想定外だったんだ』


 なんでお前がここに来るんだ、と【神子】は言っていた。その言葉だけで今が想定外であるとわかる。

 ラングを奪い、ツカサが歩むはずだった軌跡を奪い、世界が変わったことに対し絶望し、シュンに【変換】を渡すから返してくれ、とか、【変換】をツカサ自身が使う可能性などを考えていたのだろう。そして、ツカサがシュンへ【変わる】のを待っていた。そうすれば【変換】を得るのは簡単だった。シュンはそれを待つ間、ラングが勝手に死ぬのを待てばよかった。


 だが、そこでまず、軍師ラス(ヴァン)の先見の明が邪魔をした。マール・ネルがしっかりとツカサの中で楔の役割を果たしていたのだ。

 尚且つ、ツカサは折れなかった。絶望に染まり膝をつかなかった。数少ない可能性と一縷の望みを握り締め、手繰り寄せ、そして絶望を振り切った。

 同じように時の死神も諦めなかった。何をもってして怪我を負ったのかは未だ不明ながら、ツカサの手を掴みここへ運んだその選択が、【神子】の想定を凌駕し、じわりじわりと追い詰めていることはわかった。


『年齢は変わっても、ラングはラング(兄さん)だったし』


 多少乱暴で短気で粗野なところはあれど、こちらが真摯に言葉を紡ぎ、信頼を見せればラングは無下にはしなかった。それどころか状況を受け止め、話を聞いて、信じてくれた。手を差し伸べ、その手を取れば、強く握り返してくれた。


『それに、アルもいた』


 シュンの千切れたパンの欠片(ドッペルゲンガー)であるサルムがアルと短くもよい友情を育み、【神子】から離脱する欠片(ショウリ)を存在させた。


『【神子】は、一人なんだ』


 媚びへつらう者はいても、それは恐怖とおこぼれを欲しがる輩に過ぎない。本当に心配し、苦言を呈する友がいてくれたのならば、もっと違う在り方で君臨していたのではないだろうか。サルムやショウリを見聞きする限り、そばにいてくれた人が変わればシュンだっていい王様になったはずだ。けれど。ツカサはぎゅっと手を握り締めた。


『俺の中の欠片をどうにかしなくちゃ。【鑑定眼】にも映らないから気づかなかった、ということは、俺の一部になってはいる、ということなんだよな』


 自身であるからこそ認識ができない。探っても見つからない。マール・ネルが牽制できていたことが奇跡のように思えた。これは厄介だ。けれど、だったら一つ確実な方法がある。右の中指、結婚式でもらったレアなマジックアイテム、身代わりの指輪を眺めた。いや、最終手段にしようと思い、もう一つの可能性を思いついてにやりと笑った。


『どうかな、でも、若いけど強いから』


 書くことを決めてツカサはようやくペンを持った。マール・ネルが悪い顔してる、と呟いたのは聞かないふりをした。


 かなり頭を使った気がした。二通の手紙を一つの封筒に入れ、【ポスト】に入れた。スッと消えていく感覚があったので無事に送れていると思いたい。ツカサはここでできることをしようと顔を上げた。


『守護騎士たちは自分たちで行動を起こすって言ってた、【神子】だってもう知らないはずはないし、俺のことを叩きのめしたと思っているなら、次はそっちに手を付けるかな……? だったら、今がチャンスだよね』


 ツカサは僅かな自由時間をどう使うか考えようとした。しかし、少しだけ休みたかった。マール・ネルに声を掛け、瞑想の姿勢で目を瞑った。

 どのくらいそうしていたのだろう。人の気配がして目を開けば、暫くして双子がのしのし、ずしんと音を立てながらツカサの地下牢を訪れた。


()()()()、け、けがは」

「ありがとう、大丈夫。そうだ、こっちへおいでよ」


 おいで、と手招いて牢の中に呼び、双子を座らせた。自分でコツを掴んだので解放してしまおうと思ったのだ。ツカサは双子に優しく声を掛けた。


「【神子様】が筒を振り下ろすと、痛いよね。それを、痛くなく、体が動いちゃうのをやめることができる。そうしてもいいかな?」


 そうしてもいいかな、と問われたところで、自ら考えることを奪われてきた双子には困惑があっただけだった。痛い思いをさせたくはないというツカサのエゴで外すことにした。責任は取ろう。


「動かないでね、少しムズムズするかもしれないけど、我慢して」


 ツカサが両手を差し伸べれば双子は恐る恐る手をそこへ乗せてきた。分厚くて重くて大きい、その手をそっと握り返した。あったけぇ、と右の奴が呟くのに微笑みながら、ツカサは目を閉じた。

 針を刺されてすぐのツカサとは違い、双子の中には糸がびっしりと巻き付いていた。端を探して外すのは大変だ。針を無理やり抜こうとするから糸が引っ張られるのだから、針そのものから【変換】しようと思った。どこから【変換】するのかも少し考えればわかったよな、と反省しつつ、ツカサは針に指先をつけるイメージで触れ、双子の怪我を治す治癒魔法に【変換】した。


 今まで受けてきた多くの傷、つい最近地面に叩きつけられ癒しの泉エリアの水では癒せなかったものを治す。これだけの糸の量ならあっという間に治るだろう。こんがらがった糸がしゅるしゅると解けていくイメージを受けながら、白く輝いて消えていくその光が双子を包み、怯えた声が聞こえた。ツカサは手を強く握り押し留め、最後まで【変換】をした。


 ふっと最後に風が吹いた。ツカサは滝のような汗をかいて体を倒し、必死に息をした。


「み、()()()()、だい、じょぶ」

「大丈夫、体は? 痛くない?」

「い、いたく、ねぇ」


 双子は麻袋を少し捲り、叩きつけた顔が痛くないことにお互いの顔を撫でていた。爛れた唇などは治っていなかった。【ラング】の手の甲の火傷と同じだ。【変換】を用いれば治せるだろうが、それは望まれたらにしようと思った。

 じくりと右目が痛かった。否応なしに、状況が状況なので盾として、武器として使う【変換】は、そうした状態を考慮せず、容赦なく、少しずつツカサの体を【変えて】いくのだ。人でありたい。この手で、人として、生きていたい。血にまみれ家族から離れ、常に戦い続けている神を見ていて、ツカサは神にはなりたくないと考えていた。


『世界を手に入れる? 神にだってなれる? 教師だって大変なのに、そんなもの背負ってたまるか』


 ツカサは汗を拭い、顔を上げた。


『俺は、冒険者がいい。ツカサ・アルブランドーがいい。絶対に譲らない、渡さない。これは俺が覚悟して生きてきて、手に入れた全てだ。奪わせてたまるか。必ず全部取り戻してみせるからな……!』


 暗闇の地下牢の中、ランタンの明かりで照らし出されたツカサの右目は、瞳の金色が少しだけ強く輝きを増していた。それは不屈の意志であり、力の代償であることは言うまでもなかった。


 復讐に燃える気持ちに待てと声を掛けるように、再び手紙が届いた。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


今のツカサと書影のツカサを比べたら、随分と変わってきているのだろうなぁ、などと思うなどしました。

早く低気圧に突っ込んで、スパンッ、と抜けたいですね。


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)

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