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エピローグ−1
軍は結局、あの天使を取り逃がした。
どこからか漏れ出したその噂は、「天使」という未知の存在に対する恐怖と、仰々しく現れた割には何もできなかった軍隊に対する揶揄を込めて、寄宿学校の中を一時間で駆け抜けた。
その後、この一連の騒動に対しては軍から緘口令が敷かれることになり、この名門校に通う、誰もが相応に「守るべき立場」のある良家の少年たちは、決してこの事件を口外することはなかった。
ただし、寄宿学校で何らかの騒動が起こったこと。その騒動にはハルパス家の次男、ミハルが関わっていること。そしてそれに伴い、軍人一家として名高いハルパス家が軍内部での立ち位置を悪くしたことは、後に社交界でも公然の秘密として囁かれることになる。
その渦中の人であるミハル・ハルパスは、あの日以来消息を絶っている。軍は行方不明者という表向きの理由を掲げて彼の捜索を続けているが、おそらくそれは本当の理由ではない。
騒動を知る学生の間では、彼は天使と一緒に天国へ渡ったのだと、まことしやかに語られている。