第三幕 第七場
つぎの動画ファイルを再生した。画面にはラウンジに集う一同を、真っ暗な部屋から隠し撮りするような映像が流れた。構図からして、電気の消えた遊戯室から撮影されていると思われる。動画ファイルの撮影日時から、きのうの夜の出来事だと確認できた。おそらく小柄な女である石川ヒナコと西村ユイの死について、話し合っている場面だと思われる。テーブルを囲うようにしてソファーに座る傷の男に長髪の男。同じくソファーに座りながらビデオカメラをまわす髭の男である田中リョウマ。金髪の女が座るソファーの後ろには、入れ墨の女と眼鏡の女が立っていた。
「仮になんらかの理由でこの島に残っていたとしたら?」リョウマが言った。
傷の男が不気味な笑い声をあげた。「そのときはあの日の夜のように、返り討ちにしてぶっ殺してやればいい」
「だめよ!」金髪の女の悲痛な叫び声をあげた。「わたしたちはもう二度と人を殺さないって、約束したじゃないのよ。あの日の誓いを忘れたの?」
みんなの表情が曇ると、沈黙が訪れた。だれしもが、苦々しい思い出を振り返っているように思える。みんなは押し黙り、口を開こうとしない。
やがてしんと静まり返るラウンジに足音が近づいてくる。すると画面に痩身の男が姿を現した。
金髪の女はソファーから立ちあがった。「アキラ君の様子どうだった?」
「だめです」痩身の男は首を横に振る。「お母さんが死んだことで部屋の中でふさぎ込んでいるらしく、返事もしてくれません。落ち着くまでそっとしてあげたほうがいいでしょう」
「ばーか」少年アキラの小声が聞こえた。「ここにいるっての」
「……そう」金髪の女はがっくりと肩を落とした。「ごめんね、手間かけさせて」
「いいんですよ、このくらい」痩身の男は笑みを繕う。「それよりも固定電話を直せるかもしれない。なのでちょっと工具を探してきます」
「直せるの?」
「直せるかどうかわかりせんけど、一応ためしてみます。だけどあんまり期待はしなでくださいね」
「うん、わかった。がんばってね」
金髪の女が手を振ると、痩身の男はラウンジから姿を消した。
「よしみんな」長髪の男が言った。「あとは彼に期待してぼくたちはもう休もう」
一同はそのことばで動き出した。みなのその顔には深い疲労の色が見てとれる。
「ふたりとも待ってくれ」
そう言ってリョウマが、立ち去ろうとする傷の男と長髪の男を引き止めた。
「まだ話しておきたいことがある。もしもおれたちのなかに犯人がいるとしたら?」
「ふざけたこと言ってるんじゃねえぞ」傷の男が憤然とリョウマを指差す。「あと不愉快だから、これ以上の撮影はやめろ」
「ああ、わかったよ」リョウマはビデオカメラをテーブルの上に置いた。
「ぼくたちのなかに犯人がいると言いたいのか?」長髪の男は顔をしかめる。「もしそうだとして、だれがなんのために?」
「さあ、そこまではわからない」リョウマは肩をすくめた。
「なら仲間を疑うな!」傷の男が怒りの声をあげる。
「落ち着けよ」リョウマはなだめるような口調だ。「おれはあくまでも可能性の話をしているだけだ。みんなは外部犯を疑っているけど、もし内部犯の犯行だったら大変だぞ。油断していると殺されかねない」
「どうしておまえも仲間を疑うんだ」傷の男がこぶしを握った。
「おまえも?」リョウマが首を傾げた。「……ということは、おれ以外にも内部犯を疑っているやつがいるのか?」
「ちがうそうじゃない」傷の男は首を横に振る。「けど仲間を疑うな。おれたちは家族だ。そんなことは絶対にゆるされない」
「家族とはいっても、しょせんおれたちは赤の他人じゃないか。もしかするとママ先生の遺産、貰い手が死んで減れば、それだけ自分が多く受け取れると考えたやつが——」
傷の男がリョウマの顔面を殴り、それ以上のことばを言わせなかった。
「うわー。痛そう」アキラのつぶやく声だ。「本気で殴ってる」
「落ち着け!」長髪の男がそう言って、さらに殴りかかろうとする傷の男を押しとどめる。「頭を冷やせ。おまえもだリョウマ。みんなぴりぴりしているんだ。その話題は二度とするな。いいな」
長髪の男は傷の男をなだめながら、ラウンジから姿を消した。ひとり残されたリョウマは毒づくと、ビデオカメラを手にする。
「このままでは危険だ。証言を残しておかない」
リョウマが立ち去り、画面からだれもいなくなると、動画はそこで終了した。




