第三幕 第八場
つぎの動画ファイルを再生したが、画面は真っ暗だ。だがすぐに暗視モードへと切り替わり、緑色の濃淡の世界へと変貌する。場所は洋館の個室だ。
「なんだよこれは!」少年アキラの苛立った声だ。「停電するなんて、そんな話聞いてねえぞ」
画面は個室を見まわすように動き出す。
「どっかに懐中電灯か何かがあったはずだ。どこだ?」
しばしのあいだ、画面では明かりを求めて個室を探しまわる様子が流れた。
「だれだおまえは!」くぐもった叫び声が聞こえてきた。
「ん、なんだいまの声?」
アキラがそう言うと、画面は部屋を出て廊下へと移動する。その瞬間、銃声が響いた。
画面が音のした方へと向けられた。するとベランダと隣接する廊下で、痩身の男が胸を押さえながらよろめいている。そのそばでは狼マスクに黒いレインコートを着た人物が立っていた。
「いったいあれは——」
「みんな逃げろ!」痩身の男がアキラの声をかき消した。「拳銃を持ってる。殺されるぞ」
痩身の男がよろめきながら後ろにあとずさると、ベランダの扉に背中をぶつける。するとその拍子に扉は開かれ、痩身の男はベランダへと姿を消した。
狼マスクの人物は廊下からベランダへと拳銃を向けると発砲した。そして銃弾を受けて床に倒れたであろう痩身の男にとどめを刺すべく、拳銃を持つ手の角度を下げてもう一度発砲した。
「……嘘だろ」アキラが驚愕する声を漏らした。
狼マスクはきびすを返すと、廊下の角を曲がり画面からいなくなった。するとすぐさま銃声と悲鳴が聞こえはじめた。
「何が起きている?」
画面が揺れ動きながら前進しはじめた。どうやらアキラは走っているようだ。やがてベランダに前に来ると、そこに倒れているであろう痩身の男へと画面が動き出す。ベランダの床に倒れ伏す痩身の男は、胸を押さえながら激しい雨に打たれていた。微塵たりとも動かない。
「……ほんとうに死んでいる」
アキラは強い衝撃を受けたのか、画面はしばし呆然としたかのように、痩身の男の死体を見おろしていた。
「……やばいな。早く逃げないと」
アキラがつぶやくと、ようやく画面は動きだした。警戒するかのように廊下をゆっくりと引き返していく。ときおり画面をズームアップさせ、行く先に危険がないかと確認しながら慎重に進む。
「頼むから鉢合わせは勘弁してくれよ」
画面はやがて階段のすぐ横にある広間へと差しかかった。警戒するように広間を見まわすと、画面は階段へと向かう。
「よし、だいじょうぶだ」
廊下をくだろうとしたそのとき、画面の端から狼マスクの人物が登場した。そいつは下からゆっくりと階段をのぼってくる。そのためまだこちらには気づいていない様子だ。
画面はすぐさま反転すると、広間へともどった。隠れる場所を探すかのように画面がめまぐるしく動きながら、あたりを見まわす。
「急げ、急げ」
画面がベンチの姿をとらえると、その動きが止まった。するとベンチへと向かい、その下の隙間へと画面は進む。
いま画面はベンチの下から広間を見るような構図になった。画面奥には階段が見えている。
「……落ち着けよ、おれ」アキラが小声で言う。「ディスプレイ画面の明かりは手でさえぎっている。見つかるはずがない」
やがて階段から狼マスクが現れた。狼マスクは悠然とした足取りで広間へとやってくる。
「なんでこっちに来るんだよ。向こうに行け」
狼マスクは立ち止まると、あたりを見まわしはじめた。やがて広間の奥へと歩き出す。
「……おかしい。なんであいつ明かりもないこんな暗闇のなかを、ふつうに歩いているんだ?」アキラが疑問を口にする。「もしかして見えているのか。だとしたらやばいぞ」
狼マスクがこちらへと近づいてくると、アキラはしゃべるのをやめた。狼マスクはベンチの前で立ち止まると、何か考え事をするかのように、その場を行きつ戻りつしはじめた。
いま画面では狼マスクの足が動く様子が流れている。戦慄しているのか、アキラの押し殺した息づかいが漏れ聞こえてきた。
だしぬけに狼マスクが駆け出し、その足が画面から姿を消した。足音が聞こえなくなり、それからしばらくは画面に変化はない。
「……行ったのか?」
画面がベンチの下から外へと進む。そして画面が上昇し、後ろを振り向くと、いつのまにかベンチの上に狼マスクが立っていた。
アキラが驚愕する声をあげるのと同時に、狼マスクがこちらに向かって手を伸ばす。するとそこで動画は終了した。




