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異世界コンビニオーナーの辺境開拓記~エルフの魔法野菜と追放令嬢の天才経理で、寂れた村を最高の商業都市に変えます~  作者: 黒崎隼人


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第9話「閉ざされた街道と白い吐息」

 バルドが去ってから数日後、空はどんよりとした鉛色に完全に覆い尽くされた。

 ギルドの息がかかった魔術師が天候を操ったという噂まで流れるほどの、太陽の光は分厚い雲に遮断され、昼間であっても薄暗い影が村全体を覆っている。

 そして、例年よりも数ヶ月早く、異常な冷気を持った寒波が辺境の地を襲った。

 息を吸い込むだけで肺が凍りつくような冷たい風が吹き荒れ、地面のぬかるみは一晩にして岩のように硬く凍りついた。

 枯れた木々の枝にはびっしりと霜が降り、風が吹くたびに氷の粒がガラスのように砕け散る音を立てている。




 サトルは陳列棚の前に立ち、棚の隙間を埋めるように商品の配置を調整していた。

 しかし、いくら工夫を凝らしても、物理的な在庫の減少は隠しようがなかった。

 特に、塩や香辛料、丈夫な布といった、外部からの仕入れに頼らざるを得ない商品の棚は、完全に空っぽになっていた。


「今日も、行商人の姿はありません。街道に続く峠道で、不自然な落石があり、馬車が通れない状態になっているとのことです」


 防寒着の襟を立てたセシリアが、外から戻ってきて報告した。

 彼女の吐く息は真っ白で、黄金色の髪には細かい雪の結晶がまとわりついている。

 彼女は凍りついた手を暖炉の火に近づけながら、険しい表情で言葉を続けた。


「偶然の落石ではありません。ギルドの息がかかった者たちが、意図的に街道を封鎖したと見て間違いありません。私たちの流通網を物理的に断ち切り、兵糧攻めにするつもりです」


 サトルは無言で頷き、手元の木箱をカウンターの下に押し込んだ。

 王都からの物資が絶たれたことで、村人たちの生活は急速に困窮し始めていた。

 特に、肉や魚を保存するために不可欠な塩の不足は深刻だ。

 寒波のせいで外での農作業も完全にストップしており、エララの魔法をもってしても、凍りついた土から作物を育てることは不可能に近い。


「サトル、土の中の水分が完全に凍ってしまっているわ。私の魔法でも、氷を溶かすことはできない」


 店舗の奥から、エララが青ざめた顔で現れた。

 彼女の指先は冷気で赤紫色に変色し、小刻みに震えている。

 魔法の源である自然の生命力が寒さによって減衰し、彼女自身の体力も著しく消耗していた。


「焦る必要はない。この事態は、ある程度予測していたことだ」


 サトルは静かな、しかし力強い声で答えた。

 彼の目には絶望の色はなく、むしろ経営者としての冷徹な計算の光が宿っていた。

 彼はカウンターの奥に回り込み、床板の一部を覆っていた厚い敷物を引き剥がした。

 そこには、頑丈な鉄の輪が取り付けられた地下への隠し扉があった。


「セシリア、各村への緊急連絡網を稼働させてくれ。フランチャイズ契約を結んだ各村の代表に、備蓄している作物をすべて地下ルートでこちらへ回すように指示を出すんだ」


「……地下ルート? そんなものが、いつの間に?」


 セシリアは目を丸くして、床に現れた扉を見つめた。


「俺たちが表で店を回している間、エララには夜通しで別の作業を頼んでいたんだ」


 サトルは鉄の輪を両手で掴み、重い扉を引き上げた。

 ヒンジが軋む音とともに、地下へと続く石造りの階段が姿を現す。

 驚くべきことに、地下から上がってくる空気は外の冷気とは対極にある、むせ返るような暖かさと湿り気を帯びていた。

 土と緑の濃密な匂いが、地下室の闇の奥から立ち昇ってくる。


「冷気を遮断するためには、地面を深く掘り下げるのが一番確実だ。地熱を利用し、エララの魔法で光と温度を一定に保つ閉鎖環境。異世界の技術を使った、完全人工光型の地下農園だ」


 サトルは松明に火を灯し、階段をゆっくりと降りていく。

 セシリアとエララも、吸い寄せられるように彼の後を追った。

 階段を降りきった先に広がっていたのは、広大な地下空間だった。

 壁面には冷気を放っていたのとは対極にある、熱を放つ赤い魔法石が等間隔に配置され、空間全体を春のような暖かさで満たしている。

 天井からは太陽の光を模した淡い黄色の魔法の光が降り注ぎ、床一面に敷き詰められたふかふかの土を照らし出していた。

 そこには、寒波の影響など微塵も感じさせない、青々とした野菜が隙間なく育っていた。


「外の街道が塞がれようが、気候が荒れ狂おうが関係ない。俺たちは自分たちの足元で、完全に独立した生産ラインを稼働させる」


 サトルの声が、地下空間に力強く響き渡った。

 前世で培った、天候に左右されない安定したサプライチェーンの構築。

 それを、異世界の魔法というインフラと掛け合わせることで実現した、究極の自給自足システムだった。


「これなら……いけるわ。温度と光さえあれば、私の魔法でいくらでも作物の成長を早めることができる!」


 エララの目に、再び強い希望の光が宿った。

 彼女は豊かな土の上にひざまずき、両手を広げて魔法の詠唱を始める。

 赤い魔法石の熱と黄色の光が彼女の魔力と共鳴し、地下空間全体が生命の鼓動に包まれた。


「ただの小売店だと思っていましたが……あなたは、この辺境そのものを一つの巨大な要塞に変えるつもりだったのですね」


 セシリアは圧倒されたように周囲を見渡し、そして深く息を吐き出して微笑んだ。

 彼女の頭脳はすでに、この地下農園から生み出される膨大な物資をどう分配し、ギルドの包囲網をいかにして崩すかという戦略の構築を始めていた。


「店を開けよう。俺たちの商品は、誰にも止められない」


 サトルは松明の火を掲げ、真っ直ぐな視線で地上へと続く階段を見上げた。

 寒波と悪意に閉ざされた辺境の地で、彼らの反撃の狼煙が静かに、しかし確実に上がり始めていた。

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