第二十話 女神と王子
ついに女神争奪戦が終焉し、平和な日常がやってきました。
森の死闘から三日が経過した。
ラグナート王宮の最上階、厳重な警護に守られたアルフレッドの私室の隣に、リリアは横たわっていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、彼女の白い寝顔を照らしている。
「……ん……」
微かな吐息とともに、リリアのまぶたがゆっくりと持ち上がった。視界に入ったのは、見慣れた天井ではなく、豪華な天蓋と、自分をじっと見つめる蒼い瞳だった。
「……気がついたか、リリア」
そこには、椅子に座り、リリアの手を握ったまま一睡もしていないであろうアルフレッドの姿があった。彼の頬には掠り傷があり、腕にはまだ生々しい包帯が巻かれている。
「アルフレッド、様……お怪我は……」
「私のことなどどうでもいい。……体は痛まないか? どこか、不自由なところはないか?」
アルフレッドは必死に感情を抑えようとしていたが、その声は微かに震えていた。
リリアはゆっくりと首を横に振った。エドワードに殴られた腫れは、アルフレッドの魔力と彼女自身の聖力によって、すでに跡形もなく消え去っている。だが、心の奥に刻まれた「恐怖」という毒は、まだ完全には消えていなかった。
「……すみません。私のせいで、あなたがこんなに傷ついて……。私なんて、やっぱり『偽物』で、災いしか持たらさないのかもしれません……」
弱音を吐き、視線を落とすリリア。その言葉を、アルフレッドは断固とした拒絶とともに遮った。
「二度とその言葉を口にするな」
アルフレッドはリリアの手を、砕かんばかりの強さで、けれど愛おしそうに握りしめた。
「リリア。あの戦いの中で、君を奪われると思った瞬間、私は自分の魂が死ぬのを感じた。君がいない世界に、私の居場所などない。君が『偽物』なら、この世のすべてが嘘だ」
アルフレッドはベッドの縁に腰を下ろし、リリアの瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「……リリア。私は君を愛している。国聖女としてではなく、ただのリリア、君という女性を、命の続く限り守り抜くと誓った」
王子の、剥き出しの告白。
リリアの心に、これまで感じたことのない熱い何かが流れ込んだ。それはエドワードが与えた暴力や支配ではなく、対等な人間として、心から必要とされる喜びだった。
「私……私も、アルフレッド様をお慕いしています。……あなたの隣にいたい。もう、逃げたりしません……っ」
リリアの目から、大粒の涙が零れ落ちる。アルフレッドはそれを優しく指で拭い、彼女を壊れ物を扱うように、けれど強く、その胸に抱き寄せた。
静かな部屋に、二人の鼓動だけが響く。
かつて「偽聖女」と蔑まれた少女は、今、本物の愛によって、その真の翼を広げようとしていた。
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