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とこしえの森のナッシュ~魔導人形に転生した私の異世界冒険譚~  作者: タツダノキイチ


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33/33

温かい場所

タニアと別れた私は「おしゃれ街道」をゆっくりと北上していく。

あちらの村に素敵な布があるとか、あそこの店はレースの種類が豊富だという話を聞くたびに寄り道していたから、三つの国を通り抜け、再びルクセリア王国に入るまでふた月もかかってしまった。

(いくらなんでも寄り道し過ぎたわね……)

と苦笑いで反省しつつ、宿の食堂でいかにも辺境らしいベーコンと葉物野菜だけの素朴なキッシュをいただく。

(さて。ここから森の入り口まで、普通に歩けば十日くらいかかるかしら?)

と思うと急に早くみんなに会いたくなった。

(いっそのこと夜のうちに飛んで帰っちゃおうかしら?)

と少し大胆なことを思っていると、テーブルの上でお腹いっぱいになったらしいチッチが、

「チチィ……」

と眠たげな声を上げた。

「うふふ。そろそろお部屋に戻りましょうか」

と声を掛け、ジョッキにほんの少し残っていたエールをくいっと飲み干す。

そして、チッチを優しく抱き上げると、私は適当に勘定を済ませ、自分の部屋へと戻っていった。


翌朝。

ルクセリ王国東部を北上する駅馬車に乗り込む。

ゆったりと進む馬車にのどかさともどかしさを感じつつ私はぼんやり車窓の風景を眺めた。

そんな旅を八日ほど続け、ようやく街道の終着点の町に着く。

その町に着いたのは夕方前だったので、私はとりあえず銭湯に向かい軽く汗を流してから適当な食堂に入った。

なんてことない普通のステーキ定食を食べ、

(うん。いかにも辺境って感じね。お肉は筋張ってて硬いけど、その飾らない感じがいいわ。それにこういうお肉を食べていると、いかにも肉にかじりついてるって感じがしてこれはこれでいいのよね)

という感想を持つ。

そして、食事を終えると私は夕暮れに染まるその辺境の町を出て、さらに北の開拓村に向かう田舎道を進んでいった。

適当な所で森の中に入る。

そこで私は、軽くお茶を飲みながら夜更けを待った。

やがて、真っ暗な闇が辺りを覆いつくしたころ、静かに空に舞い上がる。

そして遠くに浮かぶ明るい星の位置を頼りに私はとこしえの森に向かって飛んでいった。


夜の間にとこしえの森に入り、時々休憩を入れながら我が家を目指す。

そして一晩野営を挟み、次の日の午後、ようやく我が家にたどり着いた。

門をくぐるとすぐに庭の中心にあるネーブルオレンジの木のもとへ向かう。

幹に手を当て、私が、

「ただいま。マスター。今回の旅も楽しかったですよ」

と微笑みながら帰還の挨拶をすると、チッチも私の肩の上で楽しそうに、

「チチッ!」

と鳴いて元気に帰還の挨拶をした。

そんなチッチを軽く撫でてあげつつ玄関に向かう。

施錠の魔法を解き、扉を開けると途端に懐かしい匂いに包まれた。

「ただいま……」

と、目を細めながらもう一度誰にともなく帰還の挨拶をする。

チッチは、

「チチッ!」

と喜びの声を上げ、私の肩から飛び降りるようにして家の中へと駆け出していった。

そんな様子を微笑ましく見つつまずは自室に向かう。

そこで、旅装を解き、楽な服に着替えると、

「さて。これから大忙しね」

と微笑みながらつぶやき台所に向かった。

「チチッ!」

と、おやつをせかしてくるチッチに、

「もう。ちょっとだけよ?」

と言って小さな飴玉を一つ戸棚から出して食べさせてあげる。

飴玉を口に含んだ瞬間、チッチは、いかにも、「そう! この味!」といった感じで、

「チチッ!」

と叫ぶように鳴いた。

そんな様子を微笑ましく思いながら私も飴玉を一つ口に放り込む。

甘酸っぱいベリーの味が口いっぱいに広がり、私も、

(そう。これがこの森の味なのよね……)

という感想を抱きつつ目を細めた。


やがて、とりあえずお茶を飲んでから、さっそく掃除に取り掛かる。

軽く掃除機をかけ、洗濯物を済ませると、いつの間にか夕暮れが差し迫っていた。

(続きは明日かしら)

と軽いため息交じりの苦笑いを浮かべつつ、夕食の準備に取り掛かる。

その日はチッチの大好きなトマトソースの煮込みハンバーグを作り、久しぶりに我が家の味を楽しんだ。


翌日。

朝からドタバタと家事をこなし、大量の料理を作っていく。

旅先で手に入れた魚を捌き、みんなが食べやすいように焼き魚や煮込み料理にしていった。

(さて。この味はウケるかしら?)

と思いながらブルーチーズ入りのピザを焼き、エチレのジャムを作る。

当然、我が家の定番、から揚げや卵焼きも作ったし、マスター直伝のクルミタルトも作った。

ねっとりと練り上げられたクルミ入りのキャラメルがたっぷり詰まったタルトの焼けるいい匂いを嗅ぎながら、とりあえずお茶の時間にする。

そして、先ほどからしきりにつまみ食いを要求してくるチッチに、

「みんなと一緒に食べた方が何倍も美味しいわよ?」

と言い聞かせながら、ゆったりとした気持ちでクルミタルトの出来上がりを待った。


翌日。

朝からさっそくみんなのもとに向かう。

チッチは待ちきれない様子で私の胸元から顔を出し、

「チチッ!」

と鳴いて私に「はやく、はやく」と言ってきた。

(気持ちはわかるけどね)

と苦笑いしながらチッチを宥め、慎重に飛んでいく。

しかし、私も少し気が急いていたのだろう。

いつもより少し早めに世界樹の光が見えてきた。

そんな私たちのもとにまずはフェニックスのシータが近づいてくる。

「ただいま!」

「チチッ!」

と声を掛けると、シータはにこやかに、

「ああ。おかえり」

と返事をしてきてくれた。

「楽しかったかい?」

と聞いてくるシータに、

「ええ。とっても」

と笑顔で答える。

「ははは。それは土産話を聞くのが楽しみだ」

と笑うシータにチッチが、

「チチッ!」

と言うとシータは、

「はははっ! そうか海の魚は辛かったか」

と快活に笑いながらそう言った。

「うふふ。辛かったのは魚のカレーね。お魚は辛くないわよ?」

と苦笑いで訂正する。

そして私たちは微笑みながらみんなの待つ世界樹のもとへと着陸した。

「ただいま!」

「チチッ!」

と、ここでも挨拶を交わし、みんなと軽く抱擁を交わす。

そして、

「まずは挨拶をさせてね」

と断ってから世界樹に軽く手を当てた。

いつものように温かい魔力の光を纏ったユーシュ様が微笑みながら姿を現す。

そんなユーシュ様に、

「ただいま帰りました」

と帰還を報告すると、ユーシュ様はにっこり笑って、

「おかえりなさい。楽しかったようね」

と言ってくれた。

「はい。とっても!」

と明るく返す。

そんな私のもとにみんなが寄って来て、

「ねぇ、ねぇ。早くお話を聞かせて?」

「ええ。今回は何があったの?」

「美味い飯には出会えたか?」

と声を掛けてきた。

そんなみんなに、

「ええ。旅先でたくさん美味しいものを仕入れてきたから、一緒に食べながら話しましょう?」

と応えてさっそく準備を整え料理を広げる。

そして私は初めて食べる種類の海の魚の味に驚いたり、いつものクルミタルトの味にほっとしたりするみんなに楽しく旅の思い出話を披露した。


「うふふ。やっぱり人間って面白い生き物ね」

と笑う神鹿エイクのリタに、ケットシーのチェスカが、

「ほんと、変わった生き物よね。基本的には優しいし、知恵もあるのに、時折争いを起こしたりして間違いだらけなんだもの。でも、なぜか憎めないから不思議なものだわ」

と応えて、苦笑いを浮かべる。

そんなやり取りにフェンリルのゴーシュもうなずき、なんとも感慨深そうに、

「うむ。良き者もおれば悪しき者もおる。その中で最初にユリエラやナッシュに出会えた我らは幸運だったのだろう」

と言ってくれた。

そんなゴーシュの言葉を聞き、

「そっか。じゃあ、今のところ私は間違ってないのね」

と言いほんの少しの苦笑いを浮かべる。

するとゴーシュは優しく微笑みながら、

「ああ。ナッシュはよくやっている」

と言ってくれた。

その言葉を嬉しく思いながらも、

「私が間違いそうになったらちゃんとお小言を言いにきてね?」

と微笑みながら頼む。

すると、そんな私に向かってリタが、

「迷った時はいつでも相談にきなさい。ナッシュはナッシュの信じた道を行けばきっと大丈夫よ」

という言葉を掛けてきてくれた。

「ありがとう」

と素直に受け取りゆっくりとお茶を飲む。

気が付けば辺りはすっかり夕闇に包まれていた。

「今日はここで眠っていきまなよ」

と言ってくれるチェスカに、

「うん。そうさせてもらうわ」

と答えると、チッチが嬉しそうに、

「チチッ!」

と鳴いてゴーシュの胸元に飛び込んでいく。

そんなチッチを見て、みんなが笑い、その場にはとことん朗らかな空気が漂った。


やがて空が暗くなったころ、世界樹の淡い光に照らされた草原に寝転び満天の星を見上げる。

(やっぱり、森は落ち着くな……)

と思いながらぼんやりしていると、

「綺麗ね」

とリタが私の隣にきてゆったりと寝そべりながらそう声を掛けてきた。

そんなリタのほんのりとした温もりを感じつつ、

「ええ。とっても……」

と感慨深く答える。

そんな私にリタは優しい微笑みを見せると、

「星はいつでも空にある。昼間は明るくて見えなくなっちゃうけど、いつもちゃんとそこにあるのよ」

と言ってきた。

私はその言葉の意図をなんとなく推し量り、

「そうね。だから私はこの世界で生きていけるの」

と、つぶやき返す。

そんな私にリタはまた優しく微笑んで、

「大丈夫。ナッシュはひとりじゃないわ」

と言い私に頬を寄せてきてくれた。

「ありがとう」

と、つぶやきリタの温もりをそっと抱きしめる。

(暖かいなぁ……)

そう思うと、自然と瞼が落ちてきた。

「おやすみ」

と言ってくれるリタの暖かさに包まれ、ゆっくりと眠りに落ちていく。

星の瞬きに照らされ、優しさに包まれて、健やかな眠りに就くことはなんと幸せなことだろうか。

そんなことを感じながら、私は、

(きっと明日も……)

と、つぶやきそっと今回の旅を締めくくった。


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