終わりで始まり
先程までの喧騒は一切なくなり、俺と羽虫以外すべてが静止している。ワイバーンは大口を開け、それに斬りかかろうとする冒険者は空中で止まっていた。まるでB級映画のワンシーンみたいだ。
ふと、周りを見やる。我がパーティーの一員であるクソガキがいない。死んだか? と訝しむが、死体がないのは妙だ。 ……って、あ、いたわ。ちゃっかり馬車から降りて逃げてやがる。流石だよクソガキ。危険察知能力がずば抜けてやがる。でもさ、そもそもお前の依頼じゃなかったか? 勝手に逃げてんじゃねーよ。後ろから撃たれても文句言えねえからな。
『やあやあ、モネ。首尾よく任務は遂行したのかな――ってぇ!? えっ! タロウ君まだいるじゃん!』
素っ頓狂な声を上げる方を見れば、羽虫の足元にスライムがいた。洗練された鳥◯先生のデザインだ。許すまじ。
そしてその声には聞き覚えがあり、恐らく以前に会った生理的に受け付けない黒い目玉と同じ人物だろう。
「まだいるってなんだよ、アンタが帰してくれないから仕方なくいるだけなんだけど」
『いやいや、モネから聞いてないのかい? 君のクリア条件が変更されたんだよ。それも、簡略的になって』
初耳もいい所だが!? ふざけんなよ羽虫! 報連相は大事にしろよ!
羽虫を怒鳴りつけたい衝動に駆られるが、何とか抑え込む。
「それで? 俺のクリア条件って?」
『あのワイバーンを倒す事。やったね! 簡単だね!』
「出来るかぁ!」
思わず叫んでしまったが、許して欲しい。そもそもとして、俺はこのゲーム(?)を始めてから、一度としてモンスターを倒した事がない。というか、倒せない。動物愛護に目覚めたとかそういった精神的な問題ではなく、単純に俺が弱いから。いや、俺が弱いんじゃなく、モンスターが強すぎるからだ。
思えば、俺は人しか殺してない。それも、正攻法ではないやり方で、だ。そんな俺がワイバーンを倒す? へそで茶を沸かすどころか沸騰するわ。
『えぇ〜、これでも最大限譲歩したんだよ? だって、このままの予定であれば、君のクリア条件は一国の王になる事が必須になる。しかも、それで終われるとも限らない。自分でつくっておいて言うのもなんだけど、よくもまあ踏んじゃいけない地雷ばかり踏み抜いたもんだよ。もしかして、マインスイーパーとか一発で終わっちゃう人?』
プークスクスとスライムから声が漏れる。
……おっと、危ない危ない。普通に蹴り飛ばす所だった。黒い目玉だったら確実に蹴ってたね。鳥◯先生に感謝しろよクソッタレ。
「譲歩は分かった。王になるなんて途方もない事は御免だ。だが、あのワイバーンを倒せる訳がないのも事実なんだけど」
『何言ってんの、タロウ君。なんの為にモネがいると思ってんの?』
「えっ!? モネ使っていいの!? 大丈夫? 禁止カードじゃない? それで俺が倒したって事になるの?」
『いや、まあ、ごにょごにょ』
あん? 何だよ、はっきり言えよ。実はダメでしたぁ、なんて言ってみろ。俺は正気を失うぞ。
『もうさ、残ってるのタロウ君だけなんだよねぇ。他の人達は皆クリアして、現実世界に戻っていったよ。これがどういう意味か分かる?』
「意味も何も、単にゲームをクリアしただけじゃん」
『そこじゃないよ。現実世界に戻っていった、ここが重要なんだ。しかも自ら納得してね』
いや、うん、それはそうだろう……?
『君は初めに言ってたよね、拉致されたとか何とか。でもさ、おかしいと思わない? 君を拉致してどんな得がある? ねぇ、トキワ タロウ君? ずっと部屋に籠もっていて楽しいかい?』
え? いや、ちょっと待って。頭が追いつかない。拉致じゃない? じゃあ、この理不尽な状況は?
「もしかして、依頼された?」
『ピンポーン! 大正解! まぁ、気付くの遅いけどね。他の人達も君と同じ境遇でね、所謂引きこもりってやつ? 私の知人がね、そういった業務を請負う会社を経営しているのだけれど、今回は私がお願いして携わる事になったわけ。報酬は君たちから得られるデータ、という事になるのかな』
「そんな面倒な事しなくても、テストプレイヤーなんて山ほど集まるだろうが」
『う〜ん、私もそう思う。でも、一応人体実験になっちゃうんだよね、これ。だから、安全性に関する責任の所在なんかを明確にするための誓約書だけでもかなりの労力が必要だし、色々と面倒なんだよ。普通は』
「俺は誓約書なんて知らないが」
『君のご両親からサインを戴いてますよぉ。だから、結構無茶も出来る訳で。あ、そうそう。タロウ君の痛覚値1.00倍なんだけど、ようやくバグが見つかったよ。いやぁ~、良かった良かった。もし、タロウ君じゃなかったら、死人が出てたよ。比喩なしでさ』
クソっ! 俺は現実だけでなく、ゲームまで罵られなければならないのか! 俺が何をしたっていうんだ! ……まぁ、何もしなかったからココにいるんだろうけどさ。
現実か。そっか、他のプレイヤーも皆現実に戻っていったのか。怖くなかったのか? どうして先の見えない道に向かって足を踏み出せる? 分からない。俺には、まだ分からない。
「な、なぁ、あのワイバーンを倒せなければ、俺はまだココに居られるんだよな? ずっとって訳じゃないけど、もうちょっとだけ遊ぼうかなぁ、なんて」
『モネ、ワイバーン倒してオヤツにしますよ』
いや、ちょっ、待っ――。
モネの口からレールガンが放たれ、ワイバーンの胴体が見事に割れた。
いや、余韻!
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―――
――
あのゲームはまだ発売されていない。もしかしたら、著作権に引っ掛かったのかもしれない。だとしたら、ザマァ見ろだ。鳥◯先生に感謝を。
余談だが、つい先日、あのゲームのオフ会が密かに行われた。最初にクリアしたゴトウは、ハーレムを築いていた。裏山けしからん。
さて、ボーナスを貰えるように働きますか。無愛想な羽虫から、死刑を言い渡されないように。




