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Link's  作者: 黒砂糖デニーロ
第三章
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30/66

それぞれの戦い――act:レン

 その時、太陽が一瞬陰る。新たなヘリの増援かと目を向けた僕は、あ然とした。

 ものすごい速度で、トラックが空を飛んでいた。

 無論、錆だらけの朽ちたトラックが飛べるようになる理屈なんて僕には思いつかない。

 そんな僕の思考を置き去りにトラックは一直線に飛んでいくと、爆撃に気を取られていた一機のヘリに激突。当然、受け止められるはずもなく、ヘリはビルとトラックの間に圧し潰され、そのまま地に落ち爆発した。

 笑い出してしまいそうなくらいにシュールで現実離れしたその一連の光景にあっけに取られていた僕は、はっと我に返ると、トラックが飛んできた方向に顔を向ける。大通りの先にある元商業ビルの屋上駐車場。

 そこには見慣れた巨躯の、見慣れた顔が。

「クロウ!」

 投擲した体勢の我が親友が、そこにいた。

「お。その声はレンか!ようやく繋がったぜ」

 レシーバーの向こうからクロウの声が返ってくる。どうやらこのくらいの距離なら通信妨害下でも会話できるようだ。

「よかった。そっちは無事だったんだね!」

「無事なもんか!通信は通じねぇし、道には迷うし、腹は減るしよ。もう泣きそうだったぜ」

 うぅぅと涙声で語るクロウ。ピンチに颯爽と登場したのは、本当にただの偶然だったようだ。

「まぁ見つかってよかったぜ。それで、あれはなんだ?敵か?とりあえず投げつけてみたんだが」

「それすら確認しないで落としちゃったの!?」

 帰ったらこの親友に、むやみにトラックを投げてはいけないことをちゃんと言って聞かせよう。

「ところでギンは一緒じゃないの?」

「おう。それがよ、なんか急いであっちの方に走って行っちまいやがった。ったく、何考えてるかわかんねぇやつだぜ」

「あっち?」と、僕はクロウが指さした方向を見るも、ギンがどこに向かったかわかるようなものはない。目立つものといえば時計塔くらいだ。

 おそらくギンのことだ。この状況を把握した上での行動だろう。できれば加勢してもらいたいところだったが、ここは彼の判断を信じよう。

「んで、今どんな感じだ?」

「うん。手短に状況を説明するよ。ケイン君たちはなんとか無事だ。今アオイはケイン君らを襲った正体不明の集団と戦ってるんだけど、どうも相手は勇者みたいなんだ」

「勇者だァ?つくづく勇者に喧嘩売られるやっちゃな、あのチビは」

 呆れたように言うクロウ。

「それで?オレ様はどうすればいい」

「アオイは勇者相手で手一杯だ。なんとかあのヘリを追い払いたいんだけど……」

「そいつはつまり、あれを全部叩き落としちまえってことか?」

「ま、まぁ。できるなら」

 ただ、口で言うほどそんな気軽にできることではないのは、先のアオイの戦いでも明らかだ。しかしクロウは凶暴な笑みを浮かべ、

「なんだよ。オレ様の得意分野じゃねぇか」

 と、拳をバキバキと鳴らす。本当にやってしまいそうな気にさせられる。そんな笑みだった。

「よっしゃ。じゃあさっそくハエ叩きと参りますか――」

 言いながら意気揚々と手近な車両に駆け出した瞬間、いままでいた場所を何かが高速で過る。そして背後にあったトラックが大きく吹っ飛び、木っ端微塵に爆ぜた。

「うぉっ!なんだなんだ?」

「気を付けてクロウ!言い忘れてたけど、どこかに狙撃手がいるみたいなんだ!それも大砲みたいにとびっきり威力が大きい」

「だからそういう大事なことは早く言ってくれよな!」

 たまらないとばかりに、クロウはビルの上から飛び降りる。下の階に着地し、そのままビルの中に飛び込んで避難する。

「とりあえずそのビルを降りたら大通りを2ブロック先まで直進して。そこならサポートできる」

「よっしゃ。そんじゃ迷ったらまた連絡するぜ」

「直進するだけでどうやったら迷えるのかわからないけど、了解」

 クロウとの交信を終え、続けてヘリの無線に耳を傾ける。案の定、彼らの会話からは混乱し動揺している様子が聞いて取れた。

『何が起こったんだ!?報告しろ!』

『いや、その、自分にも何が起きたのか』

『自分にはトラックみたいなのが飛んできたように見えましたが……』

『ふざけるな!トラックが飛べるんなら俺達は必要ねぇだろ!もっと正確な報告をしろ!』

『フェイク3よりホーネットリーダー。彼の言うとおり、飛んできたのは間違いなくトラックだ』

『何ぃ?』と、苛立ち混じりに聞き返すホーネットリーダー。

『イレギュラーの取り巻きに人間離れした怪力の亜人がいる。そいつの仕業だ』

『伏兵がいたのか?クソッ!今までどこにいたんだ?』

『トラックを投げるなんて、怪力とか言うレベルじゃないだろ!?』

『無駄口を叩くな!状況に頭を切り替えろ。フェイク3。その非常識な奴の場所はわかるか』

 口々に悪態をつく部下を窘め、ホーネットリーダーは尋ねる。

『そこから4時方向、距離八〇〇。東方向に向かっているようだ』

『了解。イレギュラーと合流されると厄介だ。通りに出てきたところを迎え撃つ。ホーネット1から5と共に引き続きイレギュラーを叩け。指揮はホーネット1に任せる。ホーネット6、7、8は俺に続け!』

 それまでアオイの上空から集中攻撃を加えていたヘリ編隊はその号令を合図に二つに別れ、片方は猛スピードでクロウのいる区域まで疾空する。おかげでヘリの注意をアオイとクロウに分散させることに成功した。

 とはいえ、依然として五機ものヘリがアオイに張り付いている。先ほどのミサイル攻撃による痛々しい爛れた傷も癒えてはおらず、アオイの動きは目に見えて精細を欠いていた。そうでなくても、頭上を抑えられていることはアオイにとって厄介な事この上ない。

 ――このまま黙って見ているなんてできない。

 僕は意を決して立ち上がり、周囲の様子を伺いつつ移動する準備を始める。

「ちょっと、レンさん?どこに行くつもりですか?」

「僕も傍観しているわけには行かない。アオイを助ける」

「お、落ち着いてください!その、こう言ってはなんですが……」

 言いにくそうに口ごもるケイン君に「わかってるよ」と笑いながらフォローする。

「誰も君やアオイみたく身一つで戦おうだなんて思ってないから安心して。僕は十分冷静だ」

 脳内にある作戦を少しでも確実なものとするため、勇気を振り絞り上空のヘリや姿の見えないフェイクたちを警戒しながらビルの影から影を移動する。そしてこの周囲で最も高いビルに入ると最上階まで一気に登る。そこは元々は何かのオフィスだったようで、奥行きのある広い空間にはデスクが並んでいた。

「よし。ここからであれば戦場が見通せる」

 屋上まで上がってしまうと見つかって狙撃される危険もある。屋内なら迂闊に動かなければその心配も少ないだろう。

 僕は階段を駆け登って荒くなった息を整えると、すぐに準備にとりかかる。

 どさっとバックパックを机に置き、中身を取り出す。中に入っているのは、バックパック内の大半を占めるほどの大きな黒い箱。

「これはなんですか?」

「これはホストマシン。()()で処理できないような大仕事の時にサポートするためのマシンだよ」

 問いかけるケイン君に腕に装着したコンピューターを掲げて言う。

 このアームバンド・コンピューターは戦闘支援用の情報端末として重宝しているが、如何せん携帯性を重視している以上、どうしてもマシンパワーには限界がある。

 そこでこのホストマシンだ。どんな場所に赴く時でも僕がこのバックパックを携えているのはそのためだ。

 ホストから伸びるいくつものコードを取り出して腕のコンピューターに手早く接続。コンピューターがホストと繋がったことを確認すると、指をワキワキと蠢かし、いよいよ行動に移る。

「大仕事……何をするつもりですか?」

「言ったでしょ?僕は僕なりの戦い方で、アオイたちを助ける」

 僕はキーボードの上に指を走らせる。指先は脳で考えたことを淀みなく実行に移し、意識することなく自然に動いていた。

「やっぱり。パイロットの通信にはヘリのシステムを介しているな。なら、ここを経由できれば楽なんだけど……」

 僕は通信回線からヘリ内部のシステムに侵入を試みる。が、程なくして画面には多数の警告メッセージが表示される。

「さすがに防壁に守られてるよね。しかもこれは軍用か。普通なら手も足も出ない……普通ならね」

 そう呟く僕の口が無意識に笑みを浮かべていた。横から覗き込む二人の視線が痛いけど、弁解は後回しだ。

 僕は自前のプログラムの中から最適なものを選択。起動したプログラムは命令に従い、防壁のコードを次々と無効化していく。幾重にも纏った服を、一枚一枚脱がしていくイメージだ。

 ……自分で思っておいてなんだけど、ちょっと変質的ではなかろうか。

 などと、自分の性癖に多少の疑問を抱きつつも、作業は完了。ものの数分で軍用防壁は意味を成さず、その下のシステムは丸裸だ。

「でも、裸じゃかわいそうだから、ちゃんと服を着せてあげようね」

「えっ?」

「ヒルダさん。今レンさんは無我夢中だから、聞かなかったことにしよう。いいね?」

 僕は語りかけるような独り言を呟きながら、次の作業に移る。

 AIのサポートを受けながらシステムを解析。その上で最適なプログラムをいくつも展開。そのままでは使えないものは、その場で改良を加える。

 思考は脳が焼ききれそうなほど高速回転し、キーボードの上を滑る僕の指は止まることなく動き続ける。

 程なく、作業は完了する。時間にすれば、ものの数分だろうか。

「ふぅ……ま、ざっとこんなものかな」

 窓の向こう、五月蝿いくらいのローター音を轟かせながらアオイを追い立てるヘリを見据える。

「どこの誰だか知らないけど、アオイを傷つけるような輩はご退場いただこうか」

 目の前を飛ぶヘリに告げるように言いながらエンターキーを押す。

 それをきっかけに、ディスプレイ上に開いたアプリケーションが作動する。

 変化が起きたのは一機のヘリから始まった。

 僚機と共にアオイをはさみ込んで追い詰めていたヘリの一機が突如動きを止め、その場で滞空する。

『おい、どうした!?目標を追い込め!』

『わからん。急に操縦を受け付けなく……』

 言いかけたパイロットは計器をいじる。するとあろうことか、ヘリは背後からアオイを追い詰めていたフェイク1とフェイクリーダーに向かって銃弾の雨を浴びせる。

 超人的な反射神経で背を向けた状態から横っ飛びに躱すフェイクリーダーと、分離した連刃で銃弾を受け止めたフェイク1。急な味方からの攻撃にはさすがのフェイクたちも泡食らった様子だ。硬直し、反射的にヘリを睨んだのも一瞬。再び機関砲が火を噴くと、散り散りになって逃げ出す。

 とっさにフェイク1がビルの影に身を隠すと、ヘリはそこにめがけてロケット弾を叩き込む。無数の爆発に包まれたビルはついに倒壊し、黒煙が立ち込め熱波が空気を灼く。そこにいたであろうフェイク1の生死はわからない。

 ヘリは回頭するとフェイクリーダーの姿を探すも、すでに姿を消した後だった。

『ホーネット3!どういうつもりだ!?』

『お、俺じゃない!操作を受け付けなくなって、勝手に攻撃し始めたんだ!』

 ホーネット3は完全に混乱し、必死に弁解する。

『全員落ち着け!システムを自己解析させて原因を判明させろ』

『りょ、了解』

 指揮を任されたホーネット1が冷静に指示を出す。ホーネット3も自身を落ち着かせながら指示に従う。程なく、表示された情報を確認したホーネット3は絶句する。

『そんなまさか……システムが書き換えられている?!』

『何?!軍用防壁を突破しただけじゃなく、上書きしたというのか?』

『やられた……ホーネット1より全機に告ぐ!敵からハッキングを受けている模様!システムをスタンドアロンに切り替えろ!』

 ホーネット1の号令で、各機はシステムを外部から切り離しにかかる。

 無論、それを黙って見てる気は無い。解析結果に気を取られている隙に、僕は次の指示を送る。

 するとホーネット3のヘリは手近の一機に狙いを定め、ロケット弾を発射。横っ腹にロケット弾の斉射を浴びたその機体は爆発に大きく機体を傾けながら墜落。最後は巨大な火球となって爆発した。

『ホーネット2が落とされた!』

『ホーネット3!お前は戦線を離脱しろ!今すぐだ!』

『できればとっくにやってる!でも、火器も操縦桿も言う事を聞かないんだよ!』

 通信を通して伝わってくるパイロットたちの動揺に僕は一人ほくそ笑む。

 思惑通りだ。

 プログラムを書き換えられたもうホーネット3のヘリは今や、操縦から火器管制まですべて僕の手の内にある。指先一つで思いのままだ。

『全てのシステムを全て落とせ!』

『だ、だめだ!こちらからの操作は一切受け付けない!』

 絶望に満ちたホーネット3の言葉を受け、ホーネット1は僅かの間の沈黙の後、苦渋に満ちた重々しい口調で指示を告げる。

『やむを得ん。ホーネット4!構わん。ホーネット3を撃墜しろ』

 仲間を落とせという命令に一瞬だけ戸惑いを見せるも、

『了解……悪く思うな』

 と、感情を押し殺した声で告げると、ホーネット4は冷徹に遂行に移す。ホーネット3の信号シグナルを敵味方識別装置《IFF》から外すと、即座にロックオンする。

『ま、待ってくれ!今すぐなんとかす――』

 必死に懇願するホーネット3の言葉の後半は、コックピットに叩き込まれた無数の銃弾により封じられる。狭いコクピット内を暴れ回る銃弾により、ホーネット3の上半身は肉片と化した。だが、

「残念。潰すならパイロットじゃなくて機関部かローターを狙うべきだったね。まだ操縦系は生きてるよ」

 完全に操作不能に陥る前に機体を操作。屍となったホーネット3を乗せたヘリは、機体を傾かせ、ホーネット4目掛けて猛然と前進させる。

『何っ!?まだ動くのか!?』

 急速後退して逃れようとするホーネット4のヘリを、ホーネット3のヘリはまるでパイロットの怨念で突き動かされるかのように執拗に追いすがる。近距離からの特攻を避けることができず、両機は空中で激突。金属同士がこすれ合う擦過音を上げながら揉みあうように落ち、やはり爆発炎上した。

『ホーネット4!クソッ!こうなったら俺一人でも』

 ホーネット1は機首をビルの影に隠れたアオイの方向に向けると、ミサイルをロックする。そして、ビルごとアオイを吹き飛ばすべく発射のスイッチを押す。が、

『……?な、なんだ!?』

 何度もスイッチを押そうと、ミサイルはうんともすんとも言わなかった。機関砲に切り替えても、弾丸はただの一発すら発射されることはなかった。

『ま、まさか、俺の機体もハッキングされて?!』

 叫びながらホーネット1は素早く計器類に手を伸ばすも、すでにヘリはパイロットの操作を受け付けない、いや、操作を受け付けていたふりをやめていた。

 お察しのとおり、僕はこの時すでにホーネット1の機体も支配下に置いていた。

 ハッキングが発覚してすぐ、全機にシステムを自閉させたのは良い判断だ。でも、その命令が出た時、すでにシステムは僕のプログラムによって書き換えられていたのだ。

 僕の算段では彼らが混乱している内にデータリンクのネットワークを利用して全機のシステムを掌握するつもりだったのだけれど、思ったよりも早く対策を施された上に、仲間を撃墜するという予想外の手段に出られてしまったため二機の掌握で終わってしまった。

 何にせよ、ヘリの操縦権は今や僕の手中にある。これを使役してクロウの援護に差し向けるか、姿を隠しているフェイクらを叩くか――

 そう思案していた時、轟音とともにヘリの横っ腹に大穴が穿たれた。あまりの衝撃にヘリは九〇度近く傾きながら横に流され、程なく空中で爆散する。

 フェイク3の狙撃か。ホーネット1がハッキングされたことを察知し、いち早く撃墜したのだ。脅威になるなら仲間であっても撃ち落とすその非情さには戦慄すら覚える。

 手駒は失ったが、これでアオイの目の上の瘤は取り除かれた。僕なりの戦い方はとりあえずはうまくできたみたいだ。

 それも相手がコンピューター制御の最新鋭機だったところが幸いした。これがもし旧世代機のアナログ機体であればシステムに介入するようなことはできなかったはずだ。

「何があったんだレン?お前の仕業か?」

 何が起こったのか理解できず、一連の流れを唖然としながら眺めていたアオイがレシーバーの向こうから呼びかけてくる。

「うん。システムにハッキングして操作を奪ったんだ」

「おぉ……レンにこんな秘められたパワーがあったのか」

 どうやらアオイの中で僕は超能力か何かだと思われているようだ。僕は苦笑いを浮かべつつも、おもしろいから訂正は後回しにする。

「そういえばさっき、なんかむさ苦しい不愉快な声が聞こえたが?」

「あ、そうそう。さっきクロウが合流したんだ。今は――」

 そう口に仕掛けたとき、爆音と共に炎上しながら墜落するヘリが見えた。

「がははは!もっとオレ様を楽しませてみろ!」

 どう聞いても悪役みたいな台詞を吠えるクロウの声が聞こえてくる。クロウが一機、ヘリを撃墜したようだ。

「なんにせよ、おかげで助かったよ。向こうはクロウに任せても大丈夫そうだね」

「そうだな。帰ったらバナナでも与えてや――!」

 アオイは唐突に言葉を切り、素早く視線をヘリの残骸に視線を向ける。

 視線の先にあるのはヘリの残骸。もうもうと立ち上る黒煙の向こうから金属同士のこすれ合うと共に、無数の刃の蛇が猛スピードで迫ってきた。

 虚を突く急襲の刃を[ベルカ]の一振りで叩き落すアオイに、間髪入れず黒煙を突き破って迫り来る影。

 駆ける勢いを乗せ、横薙ぎに力強く薙ぎ払われた長剣を、アオイは瞬時に構えた[ベルカ]でその一撃を防ぐ。交差する刃越しに、アオイは影の相手を正面から見据えた。

 フェイクリーダーだ。

 背後からは続けてフェイク1が姿を見せる。やはり死んではいなかったか。それどころか、フェイクの二人にダメージを追った形跡は見当たらない。

 ヘリを撃墜してもまだ状況はアオイの劣勢だ。

「レンさんはクロウさんのサポートに行ってください」

 その時、おもむろにそんな事を言い出したのは、ケイン君だった。

「アオイさんは大丈夫。僕が出ます」

「でも君はまだ……」

 言い淀みながら僕は彼の全身を眺める。肉体に穿たれていた無数の銃創や裂傷の出血は止まり、浅い傷口はすでに閉じはじめている。驚異的な回復力はさすが勇者と言いたいところだが、それでも戦闘に耐えられるかは疑問だ。未だDEEPが行使できない状況で奴らを相手にするには荷が重すぎる。

 ケイン君の背後に立つヒルダさんもそれには気付いている。彼の身を憂慮する不安げな表情を見れば明らかだ。

「わかってます。でもこの状況で指をくわえてただ見ている事の方が僕には耐えられない。もし、ここでアオイさんや誰かが死ぬようなことがあれば僕はきっと、この先一生後悔します。レンさんならわかってくれると思いますが」

 そう言われると尚の事、説得する言葉が見つからない。

 彼の決意は固い。幼い見た目からつい子供扱いしてしまうが、その強い眼差しは、彼も立派な勇者であることを再認識させられる。

「……奴らの連携は脅威だ。できればどちらかをアオイから引き離してほしい」

「了解です。援護は頼んだよ、ヒルダさん」

 不安げな表情ではあったが、決意したケイン君の表情を見ると観念したのかヒルダさんは静かに頷いた。

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