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マタギvs恐怖のくまさん2

朝起きたときにはもう、太陽が差し込んでいた。

本当なら日の出前に起き、肌寒い気温の中、シュラフから這い出す勇気を振り絞る儀式もまた山で迎える朝の醍醐味なのだが、じっちゃの家と全く同じ造りになっているマタギ小屋は、普通に下界の生活をするのと何ら変わらない。

それでも、ずっと追われて気の休まらない逃亡生活をしていた僕にとって、トノー村の人たちに犯罪者扱いされなかった、たったそれだけのことが凍てついた心の隙間に一筋の明かりを灯してくれているようだった。

心の疲れより体の疲れが先行して目が自然とさめるまで寝ることが出来たのは何時以来のことだろう。

村の人たちのためにも、その諸悪の根源になっているくまは僕が仕留める。

朝ご飯は、昨晩の残りの、猪のホルモン煮込みと白いご飯に、待望のネマガリタケのおみそ汁

そう、すっかり忘れていたが、自家製味噌が完成したことで、ようやくネマガリタケのおみそ汁が食べられるようになったのだった。

天ぷらで全部食べてしまわなくてよかった。

東北人の朝はこれじゃねえと。

ハナイグチもみそ汁にしたらたまらない食材なんだが、こっちはアルミラージのスープとの相性も抜群だったため、冬の間に無くなってしまっていた。今年のシーズンはたくさん採取しておかなければ。

みそ汁だけで、すっかりトリップしてしまったが、昨日はその所在の手がかりすらつかめなかったくまさんの所在を突き止めるための探索二日目である。

引き続き、村の人にも分けてあげる食用の肉も狩りたい。

小屋を出て、山の奥へと登って行こうとしたそのときだった。

シラカミが「昨日の夜の間にくまが来ていたようだな。」と僕に教えてくれた。

シラカミが指し示す一本の目の前の太い木、昨日ジャイアントボアの血抜きで吊した木には、大きな爪痕と、ボアを吊した枝よりさらに高いところに、熊床が敷いてあった。

木の実がなるシーズンでもないのに、わざわざ熊床とは、どうやらそこから小屋を監視されていたらしい。

シラカミやツガルは気付いていたのなら、僕を起こしたはずだろうし、小屋の結界優秀すぎるだろ。

とりあえず、爪痕の高さと深さから、相手はかなりの巨体であることが予想される。

今までの相手で一番大きいだろう。もしかしたらグリフォンさんより大きいかもしれない。

脳裏に浮かぶのは隻眼の黒鬼、奴がこの世界に居るなら、こんな感じになるのだろうか。

警戒を怠らないように進もう。

ツガルの援護射撃と、僕の銃の射線を確保しながら、攻撃の主力を担うシラカミが自由に動ける場所を探し、そこを決戦の場所にしようと僕らは作戦を立てた。

ツガルへの連絡役はシラカミだ。

僕たちは、進みながら、くまを誘い出す場所を探し始めた。

今日は昨日と違ってオオカミや猪が襲ってこない。

くまさんが居ることで、警戒して近寄らないのかもしれない。

思ったより敵は近いのか。

そのまま山奥に向かって2時間は歩いただろうか。

大きな倒木を見つけたので、腰掛けて休憩にする。

水分補給はこまめにしないと、気温が低く汗をかきにくいとわかりにくいが、脱水症状を起こす可能性がある。

周囲の警戒を怠らないように、僕たちは大きな倒木の周りで休憩し、水を飲み始めた。

すると、突然、目と鼻の先の林の中から強烈な気配が現れたかと思うと、数秒後には黒い巨体が、僕らに向かって突進してきた。

それはマタギというより生物としての本能だったろうか、僕はツガルを突き飛ばして、遠くへ押しやると同時に、倒れ込むように倒木の陰に潜り込んだ。

その黒い固まりの標的は僕だったようで、シラカミは、あわてて僕を庇おうとした動作でその黒い固まりと衝突したが、直撃ではなく、足場が悪く踏ん張りが聞かなかったため、はじき飛ばされたが、そのことでかえって衝撃を逃がし、怪我には至らなかった。

その黒い固まりは倒木の上を通り過ぎると、そのまま反転することもなく、反対側の林の中に消えていった。

僕たちは、あわてて追いかけることをせず、まずは互いの無事を確認し、情報を共有することにした。

結果、おそらく、さっきのが村人が言っていたくまさんだろう。

予想以上に大きかったが、一番不思議だったのは、なぜあんな近くに接近するまで、その存在に気がつかなかったのだろうか、とういことだった。

シラカミが言うには、一部の魔物は自分の気配を完全に絶つことが出来るが、攻撃の意思を持って動く時点で、その気配遮断の効果が切れるということだった。

つまり、あのくまさんは僕らがあの場所を通るか、休憩することを予想して、近くの林野中で気配を絶って待ち伏せしていたということになる。

思ったより知能があり、手強い相手だと考えた方がよいかもしれない。

僕らはさっきくまさんが逃げた方向ではなく、反対方向、つまりこれまで目指していた山の奥を目指すことにした。

理由は、標高が上がるほど、木の背丈が低くなり、さっきの大きなくまさんが隠れる場所が少なくなること、あのくまさんは、逃げた自分を追いかけてくると考えているだろうから、その裏をかくことが出来るだろうと考えたこと、あとは、来る途中に獲物が居なかったし、くまさんが逃げていった方向には余計何も居なくなりそうというのもあった。

僕たちは、当然くまさんが逃げていった方向を背にするので、背後に気をつけながら、山頂に向かって歩き出した。

周囲の気配はツガルとシラカミにお任せだが、今日はオオカミも猪も全く見あたらない。

早く開けたところに出て、昨日のロックバードの解体を始めよう。

血のにおいをかぎつければ、今日もロックバードとかが、来てくれるかもしれない。


一方そのころ、王都では

「あの腐れ外道が」

大声で机に向かって拳を振り下ろす人物が居た。

「陛下、国王ともあろう者が、そのような言葉遣いは避けられた方がよろしいかと。」

隣にいたビスマルク宰相がアーサー国王を宥める。

ブルーフォレストの猟友会組合よりもたらされた、無実の人間を犯罪者に仕立て上げて、全国の狩猟者に追跡させるくそブタの企みが、猟友会組合長の署名を偽造して指名手配を行った副組合長ワルダーの自白と、「自分の財産が盗まれた」などと虚偽の説明で、暁の狩人にシローを生け捕りにしようとたくらんだクローマークの直接の虚偽の依頼を受けたとするガンツ以下暁の狩人の証言で、両名の犯罪が証拠付きで王都に居る国王の耳まで届いたのである。

普通なら、辺境の地の犯罪ごときで話が国王まで行くようなことではないが、標的にされたのは、つい先日第三王女アリシアの命を救ったシローである。本人の辞退にもかかわらず目の飛び出るような報奨金を下賜したにもかかわらず、王家は未だにシローに借りがあると考えていたのは、シローがその半分を国内の孤児院のために使って欲しいと、宰相が留めなければ全額をそのまま孤児院への寄付にしかねない勢いだったからである。

(あそこまで欲のない誠実な人間には会ったことがない。)アーサーはシローのことが気に入っていた。

何か理由を付けて王都に引き留めようと画策していたところへ、シローはさっさと王都を出てしまったのである。

出世欲もないのか、と苦笑いしながら、次にまた相まみえるのは何時のことになるか、そう思っていた矢先に、道中ローリングフラワーの町で盗賊を退治し、とらわれの身となっていた虜囚を解放したという知らせが王都の猟友会組合より宰相を通じてもたらされたのである。

惜しいことをした。

そう思っていたところへ、今度は同じ猟友会組合から、シローが指名手配されたという知らせである。一体何の冗談だと、すぐさま宰相に、真相究明の指示を出したところへ、今度はその真相として、ブルーフォレストの領主が、シローの持つ魔力回復薬の技術を取り上げて私物化しようと企み、シローを虚偽の犯罪で指名手配したという知らせである。

怒髪天とはこのことか、とアーサーは体内中の血がふつふつと煮えたぎるのを実感していた。

許されるなら、余が自ら、その外道の首叩っ切ってくれようとまで思い、先ほどの口をついて出た素直な気持ちである。

我が国の方は、虚偽の犯罪をでっち上げて指名手配をしたという事実だけで、主犯を死罪とすることは出来ない。もっともこれにより無実の罪をなすりつけられた人物が捕縛活動中に命を落とすことになれば、第一級殺人罪であり、死罪までありうる。しかし、シローがそんな理由で死ぬようなことがあっては、あまりにも損失が大きすぎる。

「すぐに、その馬鹿の身柄を拘束すると共に、ふざけた指名手配など余の命令の下に取り消せ。シローの安全確保が最優先だ。その馬鹿は、本日この場をもって爵位剥奪だ。辺境伯爵だかなんだか知らんが、シローが死んだら、この世に生まれてきたことを後悔させてやる。」アーサー国王の怒りは収まらない。

「恐れながら、クローマークを斬首にする折りには、是非そのお役目を私めに」

発言を許可されていないはずの近衛騎士副団長ランスロットがつい、言葉を発してしまい、騎士団長に「不敬だぞ」と怒鳴られる。

事情を知っているビスマルク宰相も苦笑いだが、一応立場上、ランスロットを叱責するが、思いは同じである。

「直ちに猟友会組合に伝えます。」と王命を伝えにその場を後にした。

廊下を早足で歩きながら、ビスマルクはほんの数ヶ月前、何事もなかったかのように不治の病とされたアリシア王女の病気を治して、出世も金も望まずに帰ろうとした一人の黒髪の少年のことを思い出していた。


ナトワレ山の山中を歩く僕たちは、周囲を警戒しながらも、おびえることなく、というよりも、そこまえ暢気でいいのか、と疑いたくなるような鼻歌を歌いながら歩いていた。

「ある~日、森の中~くまさんに~出ああった~」

フラグでも立たないかな~、と考えたのである。

村の人たちのために一日も早く平穏な日が訪れるように、必ずさっきのくまさんは倒す。

そのために出来る努力は惜しむまい。それが山の中で鼻歌を歌うということであったとしても。

僕は拳を握りながら、決意を新たにするのだった。

ところが、フラグは意識するとフラグにならない。誰かへそ曲がりな奴がフラグを片っ端からへし折ろうとしているらしく、その後くまさんに出会うことはなかった。

そうしているうちに周囲の木々の背丈が低くなって灌木帯に入り、とうとう「森の中でくまさんに出会う」ことはなかった。


灌木帯はダケカンバが中信で、後は背丈の高いハイマツも生えていた。

森林限界を抜けてしまうと風も強くなるし、くまさんが身を隠すところがなくなって、警戒して出てこなくなるかもしれないので、一応このあたりまでで、迎え撃つ場所を決めようと考えた。その前にまずはお昼ご飯にしようと、携帯用の魔導コンロを出し、うどんをゆでる。ホルモン煮込みのスープで食べるうどん、味噌煮込みうどんは何も名古屋だけの専売特許じゃない。


標高が上がり、ハイマツが生えるような環境では、季節は冬に逆戻りである。野外で鼻をすすりながら食べる熱々のうどん、魂が抜けるべやーと思いながらも、今日も解体をして獲物をおびき寄せる作戦を敢行する。

アイテムボックスから解体前のロックバードを取り出し、うどんをすすった後、おもむろに解体を始めた。

そして、予想通りの出来事が。



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