マタギの冬休み
日本に居た頃も、じっちゃが亡くなった後は一人だった。正月くらいは地元の寄り合いの挨拶回りはあったけど。
こうして知っている人が誰もいない世界に突然鳥羽さえれて本当の意味で一人の正月だな、と僕は神棚の上の鏡餅を身ながらため息をついた。
すると突然、背中からシラカミにタックルされて、前によろけた。そこへ、ツガルが僕の頭に着地して、嘴でつついてくる。
「ごめん、シラカミとツガルが一緒だよね。」
私たちのこと忘れるなよ、という無言の抗議だと理解し、ちょっとだけ胸のあたりが暖かくなった。
数え間違ってなければ、今日は鏡開きの日、からっからに乾いた鏡餅を割って、お汁粉にする日だ。
幸いあんこは大福用にたくさんストックがあるので、早速朝からあんこをお湯でゆるめに溶いて、割った鏡餅を入れ、お汁粉にする。
シラカミとツガルは興味津々にのぞき込んでいるけど、無理じゃないかな。
一応先ほどの儀式を済ませたばかりなので、除け者にしないで、お皿に乗せて出してみる。
嬉しそう二つついたのは最初だけだった。
背筋をふるわせて、飛び跳ねてしまった。
うん無理だと思った。
僕は郷愁に浸りながらお汁粉を食べ終わる。残りの鏡餅は油で揚げておかきにする。ツガルは無理だと思うけど、おかきならシラカミは食べることはできそう。
草原も雪が積もったままで、山は深く雪に埋もれている。
狩りはもう少し先の話になりそうだが、昨年の経験を活かして、冬の間に出来ることをしようと思う。
まずは、蛇用の罠を作る。
蛇というのはその習性で、前に進むことは出来るけど、後ろに後ずさることが出来ない。方向転換も前に進みながらしかできない。
さらに、口を綴じる力はそれなりにあるが、開く力がとても弱い。
つまり、口も開けない細い先端に追い込んでしまえば、身動きがとれなくなるのである。この修正を利用し、日本ではウナギの捕獲に使っていた罠を蛇用に改良することにした。
そもそも大きさが違うため、ウナギ用の技のサイズでは最初からグラス場尾パーは入らない。
弾力性のある木材を竹のように編んで、細長い魚籠を作っていく入り口を矢筈の形にして、前に進むほど穴が小さくなり、グラスバイパーがようやく通れるほどの大きさにする。
中に入ると、矢筈になった入り口と魚籠の外側の隙間が蛇にとって閊える空間になってしまうため、入ったところから出肉くなり、さらに先端は縛ることによって細く縛り上げ、罠から出すときにほどいて、蛇を出すような仕組みにする。
構想は最初にグラスバイパーに咬まれた時から持っていたが、なかなか実行に移すには、時間がもったいなかったので、冬の閑な時期を利用して作成しようと思っていた。
が、こうやって作ってみると、すぐに閊えないのが欠点だった。この季節変温動物である蛇は草原にはいない。どこか冬眠しているはずである。
一応着想に基づく試作品は出来たので、春になって暖かかうなったら設置してみようと思う。
次に、スキー板を作ることにした。ワカンは転生の時点で持っていたので、最初の所持品の中に入っていた。雪の上を歩いて山登りをするには、必需品といっていい、腰まで雪に埋もれた状態で前に進もうと思ったら体力がどれだけあろうお時間がどれだけあろうと、およそ足りなくなる。遭難し、低体温症までの片道切符を手に入れたも同然だ。
グラスバイパーの時に欲しかった竹はまだ見つかってないので、弾力性のある木材で代用したが、スキー板は有る程度硬度がないと体重を支えることが出来ない。間違って雪に刺さった場合、体が放り出されるたびに、板が割れたんじゃおよそスキー板にはならない。
加えて、丈夫さのために厚みを増やしたら重くなりすぎて、方向転換できなくなる。
グラスファイバーが最適なんだけど、炭素繊維を固めr技術なんてこの世界にはない。
この素材については結構長いこと頭を悩ませていたのだが、ひょんなところから解決の糸口が見つかった。
組合員の防具として盾に使われる素材に、スライムの核を抜き取ると流動体になるスライムを加熱することで粘性を引出、その後型に流し込んで急速に冷凍すると出来る素材があった。素材の入手もそれほど難しくなく、何より軽いので掛けだしの組合員には比較的好まれる素材だった。冷やし固めることで、弾力を失うため、耐久力は低くなるのだが、防具ではなくスキー板として用いるなら、掛かるのは自分の体重だけなので、盾として使うことを考えれば全く問題なかった。
型は粘土で簡単に成形できるので、今風のちょっと幅広で短めのものと昔ながらの長いスキー板の二本を作った。
また、値段が安いこともあって、大きめのそりも作った。後でシラカミとツガルを乗せてそり遊びをしようと思ったのだ。
ビンディングは鉄だとすぐに錆びてしまい、もろくなってしまうこと、銅や銀だとそもそも耐久性に難点があるなど、これもしばらく素材に苦しむことになった。
するといろいろ訳の分からない注文をするということで仲良くなった鍛冶師が、強い魔物の羽を削りだしたらどうだと提案してくれた。鍛冶の仕事ではないけど、できあがった武器に装飾を施したり、鞘などをつける細工師が居るので、特注で受けてくれるとのことだった。
あまり意識したことはなかったが、ワイバーンの素材を少し残していたので、見せたら、逆に驚かれ。しかも是非譲ってくれと目の色を変えて詰め寄られた。
別に残したくて残したというほどでもないので、使えるならと、了承したら、加工賃がタダになっただけでなく、買取代金のほうがだいぶ高かったらしく、組合の買い取り価格がまんま戻ってきてしまった。曰く、ワイバーンの素材なんてまず王都にでもいかないと手に入らない。討伐できる組合員がほとんどいないので、そもそも出回らない。ましてこんな辺境の地では、ということらしかった。
ということで、金貨100枚をもらった上に加工賃がタダという、かえって申し訳ない気持ちになったら、とんでもない、ワイバーンの素材なんて一生に一度扱えるかどうかとひどく感謝されてしまった。
こうしてワイバーンの骨でビンディングを付けたスキー板2本が完成したのは草原の雪も解けようという頃だった。
さすがに地下足袋でスキー板を履く訳にはいかなかったので、ワイバーンの皮でブーツも作った。ここでも目の色を変えてワイバーンの皮を売ってくれと言われて、残りを全部売却することになったのは言うまでもなく、結果、加工賃がタダになってしまい、申し訳なく思ってしまったことも言うまでもない。
そして、僕たちは今、ブルーフォレストとロックハンドの間にある山に遊びに来ている。
冬はマタギのオフシーズンなので、今日はシラカミたちと一緒に雪遊びをする。
人の歩かない山の中はパウダースノーで、カントリースキーが楽しめる。
その前にリフトなんて当然ないので、スキーをしょって山を登っていかなければならないのだが、シラカミがそりを引っ張ってあっという間に登ってしまった。
重力を無視するかのような、パウダースノーの上を浮いているかのように走り、そりから振り落とされないようにしがみつくのが精一杯の僕が目を開いたらもう山頂に居たという途中何が起こったのかもよく分からなかった。僕はそのそりの前の方に移動し、シラカミ用に後ろ半分を空けて、シラカミに乗るように言った。ツガルは僕が体育座りしている膝の上にのせる。
そして坂をそりで一気に下っていった。普通はそりで下るほうが登るのより遙かに時間が掛かるものなのだが、なぜかシラカミがそりを引いて駆け上がるほうが滑り降りるより早いという訳の分からない状態だったが、そりに後ろ足で立って前足を僕の肩に乗せてそり滑り降りるこの遊びがシラカミもツガルも気に入ったようで、日が暮れるまで僕たちはそりで滑り降りては、シラカミリフトに山頂まで連れて行ってもらうというのを繰り返した。
その日の夜は山の麓に小屋を出して野営?し、お風呂も堪能したのは言うまでもない。
スキーの後はお風呂だよな。
翌日、また来ようと約束して、僕たちは一旦ブルーフォレストの町に戻ることにした。
山は例年麓が春になって新緑が芽生える頃になっても雪が残るらしい。
シーズンに入ってからあわてて作ったような装備だけど、今シーズンもまだしばらく楽しめそうだし、来年以降はフルシーズン楽しめるだろう。
雪遊びを満喫した僕たちはブルーフォレストの町に戻ったのだが、そこでは僕を捜し回り、見つからないと指名手配までする組合によって大騒ぎになっていた。




