マタギvs草大福1
ブルーフォレストの町に入ろうとして門番に身分証を提示したとき、その出来事は起こった。
「猟友会狩猟組合員 シロー・マタギ、おまえに指名手配が出ている。憲兵隊の詰め所まで一緒に来てもらおうか。」
門番の衛兵に鋭い剣幕で詰め寄られる。
僕にはさっぱり意味が分からない。
「一体どういうことです。僕が何をしたって言うんです。」
理由の説明を求めたが、門番は犯罪者を見るような目で僕に向かって腰の剣を抜いてきた。
門番は二人いて、もう一人も僕の背後に回ろうとしている。
僕は二人とも視界から外れないように、距離をとるべく後ずさる。
「抵抗するつもりか。」門番が怒鳴る。
「当たり前じゃないですか。僕にはやましいことはないのに、いきなり指名手配だとか、理由を説明して下さい。」
「申し開きなら、おとなしく投稿して事情聴取のときにすればよかろう。」
「その理由に心当たりがありません。」
もはや堂々巡りになってしまっている。
そのとき、門番が急におびえだし、その場にへたり込んだ。
僕の背後で、シラカミが元の大きさに戻ると同時に、威圧していたのだった。
「おい、貴様ら、我が主に敵意を向けるなら、まず我が相手になるぞ。」シラカミが人語を話し、衛兵たちに向かって威圧する。
本来の力を取り戻したフェンリルはフェニックス級の魔獣であるばかりか、ドラゴンとその実力を二分するもっとも危険度の高い魔物である。門番には明らかに荷が重すぎ、その場で失神してしまった。
「何があったんだろう。なぜ、僕が指名手配されているんだろう。」
事情が全く分からないが、このまま、町に入るのも、この場にとどまるのも危険だと考えて、僕たちは、ブルーフォレストの町を離れることにした。
この世界で頼れるのは、ブルーフォレストの組合のラーナさんとドランさんだと思っていたのが、今回の指名手配である。組合が事情を知らないはずはないので、今となっては組合も信用できなくなってしまった。
となると、ほかにアテがあるとすれば、王都に居るビスマルク宰相と王家の人たちである。
お目通り適うかどうかは分からないが、この状況下では、王都に向かうしか選択の余地がない。
一体何があってこんなことになったのだろう。
~2週間前~
ブルーフォレストの領主の館
猟友会副組合長のワルダーは、組合長に内緒で、組合長室に保管されていたシローのヨモギ大福を持ち出していた。
シローが1週間ほど前にラーナさんに渡していた大福のうち、与マギ草で作った大福は、本人が自覚していないだけでとんでもない物だった。それこそ市場を混乱に落としかねないくらいに。
普通に手みやげとしてラーナが受け取った時点で、その大福の本当の価値には組合も気づけなかった。
シローが手みやげといって渡した大福をラーナとドラン組合長も食べたのだが、いかんせん彼らは公務員、デスクワークばかりで、魔力消費は滅多な出来事では起こらない。もちろんその日も魔力の消費がなかったために、シローの作った草大福仁摩力回復効果があるなんてことに全く気づかなかった。
そのことに最初に気づいたのは、クエストから帰ってきた暁の狩人が、シローからの手みやげといって渡された時である。
クエスト帰りでおなかもすいていた暁の狩人の面々はすぐにその大福に飛びついた。
そして、魔力をほぼ使い果たしたはずの魔術師が、草田衣服を食べた途端に、自身の魔力が自覚できるほどに回復したことで放った何気ない一言「あら、これ魔力回復効果があるのね。」が爆弾投下となったのだった。
ラーナが驚いて、その真意をただそうとすると「今言ったとおりよ。これ食べると魔力回復する見たいよ。うれしいわ。MPポーション苦すぎて大変なのよ。これもし売ってたら私全部買うわ。」と感慨深げに言葉を続ける。
ラーナは驚いて、組合長のところに残っている草大福をもって駆け込む。
ことの顛末を聞いたドランは、ラーナが持っていた草大福を鑑定に回す。自分も食べたのに気付かなかったことに焦りながらも、シローを呼ぶようにラーナに指示する。
ところが、シローはそのころにはもう組合事務所を出ており、その後味噌の発酵のために、町の宿ではなく、青の森の近くの草原に小屋を設置して、そこで冬ごもりしていた。
そして、味噌が完成し、町でスキーやそりを作った時も、組合には寄る理由がなかったので、組合が自分を捜し回っているなどということには全く気付かなかったのである。
そして、もちろん、これだけの理由で指名手配などされる理由はどこにもない。いくらシローが無自覚に猟友会組合員を驚愕させる品物を生み出したからといってそんな理由で指名手配などされるはずもない。
組合の名前でシローを指名手配に掛けたのは、副組合長のワルダーだった。
ワルダーは無能でありながら、権力にすり寄る処世術だけで現在の地位まで上り詰めた男だが、副組合長の地位で満足することなど到底出来る男ではない。組合長の座を虎視眈々と狙っていた。
とはいえ、ドランは組合員として優秀な実績をもって現在の地位に迎えられた人間で、誰に対しても公平で人望もあった。ブルーフォレストの猟友会組合が僻地ながらも、魔物の脅威から防衛出来ているのは、ドラン組合長の手腕によるところも大きい。
ところが、彼我の実力差も理解できず、自分がドランの代わりに組合長になってしかるべきとしか思わないワルダーは、組合に草大福が持ち込まれ、おいしく魔力を回復出来るその能力に大騒ぎになると、これを自分の手柄であるかのように、領主のクロ^マークのところに持ち込む。クローマークはあの王都の豚男爵であったトラッシュの義理の兄にあたる。類は友を呼ぶというか、腐った物は腐ったもの同士で腐臭を分かち合うというか、服組合長の甘言にすっかり自分が巨万の富を手にしたかのような幻想を抱くと、シローをとらえてその草大福とやらを作らせる案にお墨付きを与え、奏功すればワルダーを組合長に取りたてるという口約束をしたのである。
しばらくはこっそりシローが組合事務所に顔を出すのを待ちかまえていたワルダーだが、シローが見つからないことに業を煮やし、組合長のサインを勝手に盗用してシローを指名手配にしてしまった。一応組合長には情報がいかないように、シローを捕縛した場合には、組合長代理として、自分に引き渡すよう、命令書に記載してあり、シローが捕まるのはどうせ時間の問題だから、その後は、必要なくなった手配書も回収してしまい、廃棄すれば証拠隠滅を計ることも出来るだろうと安易に考えていた。
そこへ、先の門での出来事である。
フェンリルの本気の殺気を真正面から受けて、門番たちは気を失ってしまい。シローは理由が全く分からないまま、ブルーフォレストの町を後にして、王都を目指すことになったのである。




