マタギvs秘伝の薬3
ブルーフォレストの町に戻るとその足で組合に行き、アルミラージの角と傷なお草とどくけ草の納品クエストを報告した。どくけ草はやはり採集が難しいらしく、5本で銀貨5枚だった。収穫量が少なくても1本ごとの納品にしないのは、組合員が討伐のついでに採集するとどうしても品質が落ちてしまい、需要に応えられなくなるので、採集クエストとして受けてもらうだけの内容にしたいとのことだった。傷なお草が10本一束で銀貨3枚なのに比べると大分割高だが、傷なお草は群生するので、採集の割でいうと傷なお草のほうがまだ組合員の納品は多いそうだ。
それにしても、服用の解毒剤なんて、人工的に精製された毒物では間に合わないだろうに。強制的に嘔吐させて胃洗浄を行わなければ間に合わない場合にはどうするのだろう。
ラーナさんには納品した大量のアルミラージの角を見て,毛皮と肉もお願いと言われたのだが、まだ解体していない。毛皮はともかく,肉はそのまま欲しい。シラカミはイノシシの肉の方が好きだが、アルミラージはツガルの大好物のようだ。フクロウだけにアーミーラットも好きらしいのだが、僕がどうしてもネズミの肉に抵抗があるので、どうせ狩るなら、僕も食べられる、というかネズミよりは食べたいウサギを優先する結果、アルミラージをシラカミに追い立ててもらうことが多い。
久しぶりの一泊二日の狩りだったが、十分な収入を得ることが出来た。むしろ収入より森の動物たちの好意で図らずも手に入れた山菜の量は一シーズンの量を遙かに上回るほどだった。
念のためラーナさんに尋ねたけど、蕨、こっちの世界ではラビーというらしいもゼンマイ、見た目でホイールウィードというらしい、は雑草扱いだった。
そんな苦いもの乳牛でも食べないと怪訝そうな顔をされてしまった。
まああく抜きする前だと毒草扱いされるのは分からなくもないけど、あく抜きを知らないのか、と不思議に思った。まあ、前世の蕨やゼンマイと同じかどうかまだ分からないので、とりあえず、あく抜きをしてみるけど。
それにしても、こうなるとどうしても欲しいのは味噌と醤油である。
仕方ないので、まず、味噌から自家生産することにする。
味噌樽を手に入れなければならない。
いくらマタギが冬の間木工品を内職として作ることもあるとはいえ、さすがに釘を使わず、板を隙間なく貼り合わせて、箍で締め付けるだけで等しく圧力がかかるように容器を作るなんて職人技である。
この世界にそういう職人が居るかどうか疑問ではある。
時間を見つけて職人街を回って見ることにしよう。
今は、この世界の治療法である。一般の人は薬を飲むしかなく、富裕層は多額の寄付と引換に教会で神官が治療魔法というものを施すことで治療を受けることもあるそうだ。
高い階級の組合員の中にも、神官と同じ治癒魔法が使える人もまれにいるらしいけど、そういうのは数えるほどしかなく、そもそもそういう魔法が使える人というのは生まれながらの才能で、この世界では6歳になると、神から与えられる技能を教会で確認する儀式というのがあって、治癒の魔法が使える人は教会が囲おうとするらしいので、よほど強い信念をもって教会には勤めないという人でないと在野で治癒魔法が使えるなどということはないのだそうだ。
その話の流れで、ラーナさんに、「シローさんも鑑定の儀で、確認してもらったんじゃないの?なぜ儀式のことを知らないの?」と尋ねられてしまった。
「僕は幼い頃に両親を亡くしていて、そういうのがなかったんです。」と答えた。う、うそは付いてないよね?元々そんな儀式のない世界から来たけど、そんな話をする方が大騒ぎだし、無理矢理話をつなげてなんとなく嘘を避ける内容にしたけど。
まあ、そのせいで、ラーナさんに思い切り同情されてしまい、真実を話すのとどっちが良かったのかと悩む原因にはなったけど。
怪我しやすい環境の割には、あまり怪我をした後の対策にオプションのない世界だなというのがよく分かった。
全部同じ草で作る薬で全部対応とか,正直不安しかないんだが。
多分世界が違っても、怪我の治癒と解毒のメカニズムは大きく変わるはずがない。だってこの世界でも普通に食べるものはそれほど変わらないし、切れば血が出るし、こっちの蛇に咬まれて熱も出てちょっと危ない思いもしたけど、峠を越えたら回復したし、薬なしだったけど、血清とか作れないのかな。
スズメバチも居るみたいだから、蛇と蜂の毒についてはマタギの秘伝の薬の材料をちょっと真剣に探してみよう。
とまあ決意も新たにした薬草採取クエストの回顧録だったが、組合を出た僕は、今晩の宿となるテント広場に向かう途中で、いいかげん、大きな鉄鍋と寸胴とこね鉢を手に入れたいと職人街を歩いている。ちょっと玄人好みな道具を手に入れるにはこの通りに店?構えているところで求めるしかない。
この街は王都パレスキャッスルから一番遠いところにあるので、職人の数も品揃えも王都に比べれば少ないとのことだが、今はまだ王都に行く予定はない。道中はいろいろ危険だということで、シラカミやツガルのことを考えれば、そんな危険を冒してまで大移動する理由はない。鉄鍋だって囲炉裏に掛けるちょっと大きめなものが欲しいな、というだけでなければ生活できないって訳じゃないし、そりゃ、出来れば南部鉄器のような蔓も鍋農地側も漆で仕上げて、使うほどに味が出て、鍋ぶたは檜か椹で出来て良い香りがして、囲炉裏の自在鈎に弦を引っかけて、煌々と燃える炭火に熱せられてぐつぐつと煮立つ鉄鍋の中のきりたんぽとかしばれる冬に最高だんべ、なんて思ったりすることも・・・たまにはあります。
結論からいうと寸胴はすぐに見つかって。この町にも当たり前のように飲食店や食事付きの宿屋はあるので、大人数の食事を一度に作る需要は言うてもある。
その中でも一番大きな寸胴を手に入れた。あいてむぼっくすがあるので、たくさんつくりおきしても腐らないので、どうせ作るなら一度にたくさん作ろうと考えたのである。
鉄鍋は想像していたようなものはなかったんだけど、鉄器は全部鍛冶屋で買い求めるシステムで、この世界には鋳造という方法がないらしい。
全部鍛造とかどんだけ贅沢なんだよ、と思うが、それゆえか、鍛造の鍋フライパンも日本ほどの値段ではなかった。ガテン系のごっつい親父が、「どういうのが必要なんだ」ってすごみ、おそるおそる、イメージを伝えたら、弦のついた鉄鍋を作ってもらえることになった。3日後に引き渡しで料金前払いだが、手に入るだけで嬉しかったので、前払いも異論はなかった。
こね鉢は、木工のお店だが、この世界にうどんやそばというものがないので、いわゆるこね鉢はなかったが、まあ、湾曲でなくてもなんとかなるかなと思い、縁のついたお膳のようなちょっと大きめの容器を買い、こね鉢として使うことにした。
多分湾曲してないと捏ねる時に使い勝手悪いんだろうなと思うけど、あまり贅沢もいえないので、とりあえず既製品で試してみる。小麦粉はあるけど、蕎麦はまだ見たことがないので、蕎麦がもし見つかったらそのときこそ、贅沢でもこね鉢をオーダーメードしようと自分に言い聞かせて,その場での注文は我慢した。まだこの世界でやっていけると言えるだけの自身は今の僕にはない。
テント広場についたので、早速小屋の中で調理を始める。
さっき狩ったばかりのアルミラージはまだ解体すら出来てないので、今日はジャイアントボアの肉をとんかつにする。とんかつといえばソースなんだけど、作り方すら分からない。醤油もないトマトケチャップは作ればなんとかなりそうだけど、今はそんな暇がない。辛子を付けるだけのちょっと味気ないとんかつになってしまった。
ツガルとシラカミは美味しそうに食べてくれたけど、ソースのないとんかつなんて、僕にはちょっと物足りない。
食事が終わると、三和土でアルミラージの解体を始めた。20羽のうち半分は毛皮だけ剥ぎ取って、丸のまま寸胴に入れて、水と野菜の切れ端と一緒に煮込む。。アルミラージも一羽二羽って数えるのか気になるけど、いちおウサギ扱いで。一度に3羽しか入らないけど、この後、一晩中煮込み続ける予定だ。丸鶏のスープといえばかなりの贅沢なスープの取り方だけど、鶏の代わりに比較的味の近いアルミラージでそれをする。
蕨やゼンマイと言えばやっぱり鶏出汁の鍋に牛肉をさっとくぐらせる程度に火を通して蕨ゼンマイを巻いて食べるのが最高だ。ポン酢を付けたら止まらない。けど、醤油がない。やめようないものを渇望するとせっかく美味しい物を食べても満足できない。
ウサギの味濃厚なスープだって蕨には合うはずだ。
もちろん、鍋の具にはひっつみも入れる。鍋を火に掛けている横で早速買ったばかりの容器に小麦粉を開けて、塩と水を加えて,まとめていく、さらに一つの塊になるまでまとまったら、粘り気が出るまで手で捏ねる。そこからはビニールで包んで足で踏みながら伸ばすんだけど、ビニールはない。木綿の布だと足の裏の雑菌が食べ物につきそうでさすがに抵抗がある。ということで仕方ないので、木の枝をのし棒にして、ひたすら伸ばす。蕎麦を作るときの訓練ということで。
十分に捏ね終わったところで、一晩寝かせる。この作業が重要なので、さすがにあいてむぼっくすには入れない。冷蔵の魔導具がキッチンに備え付けてあるので(実家の冷蔵庫を忠実に再現しているところ、芸が細かい)その中に入れて,明日になればスープも完成しているだろうし、明日はウサギ出汁のひっつみ汁が食べられる。具は残りのアルミラージをぶつ切りにして野菜と一緒に煮込んで食べる予定。




