↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/55

マタギvs秘伝の薬2

組合の資料室で、薬の原料になる野草などについて調べた結果、原料自体はそれほど珍しいものではなかった。

町の東西の草原にも,そのほとんどが生えているとのことだった。

ヒールポーション(塗布用)は、草原に生えている「傷なお草」という草が原料で、そのさきどうやって薬を精製するのかについては、薬師の特別スキルとのことなので、組合は組合員から薬草を買い取って、錬金術組合に卸売しているだけらしい。

一方、服用の方は、「どくけ草」という薬草で、こちらも薬草自体はそう珍しいものではなく、「傷なお草」と併せて、駆け出しの組合員向けの仕事の定番になっていた。

こっちの世界のことは知らないことのほうが多すぎるので、薬についてもそんなもんかと思うしかないのだが、人体ってそんなに単純なものではないのだが、本当に2種類で、オールマイティーなのだろうか。

たとえば毒にしたって、魚介類由来の毒、テトロドトキシンのような微量で致命的なもの、植物由来のたとえばトリカブトのようなアルカロイド系の毒、蜘蛛やアリや蜂など、獲物を麻痺させて食用に捕獲する時の補助として用いるのは大体蟻酸の系統である。蛇毒はDNAの塩基配列を分解させることによって組織を壊死させるものだが、致命的なのはよほどその効果が高いものに限られる。

日本の山では、ほとんど誤食によってこれらの毒の被害に遭うことが多いため、正しい知識で回避出来るのだが、この世界では、なぜか魚介類は知らないけど、虫、蛇ばかりか植物まで、その毒をもって人間を襲ってくるらしい。

まさに命がいくつあっても足りないので、お手軽に薬で毒を治療出来ることになっている。

それでも、中学校を卒業して、マタギの世界に飛び込んだ僕は、その生き方しか知らない。手に職があるわけでもない。知らないこの世界につれて来られたけど、この世界ではマタギはそれほど珍しい職業ではなくなっていた。幸い、狩猟と採集の生活は全く初めてという訳でもない。

この世界でもマタギとして生きていくと決めた以上、蛇に咬まれて寝込んだくらいで、怖じ気づいて生き方を諦める訳にもいかない。

僕は、毒消しと傷の薬を多めに準備して、数日ぶりに町の外に出ることにした。

今回の目的は、薬草を集めることで、他にも、前世の知識によれば薬用効果がある山野草があるかもしれないので、調査をしてみるというものである。

何日も仕事をしていなかったが、幸いにして、最初の森で得ていた素材が極めて高額だったのと、強盗捕獲の報奨金が高額だったため、当面の生活には困らなかった。なんなら前世のお金もわざわざ神様が両替してくれていて、こちらの生活水準からすれば、下手したら一生生活出来そうな金額があるため、生活のために無理危険をする必要がないのは嬉しかった。

僕は町の門を警備している門番に、外に出ることを告げると、久しぶりだったためか「どうしてたんだ、気をつけてな。」と声を掛けてもらった。

外に一歩踏み出す時には、シラカミとツガルにも、「安全第一、気をつけて行こう」と自分に言い聞かせるように告げて、草原を歩いていった。

薬草の見た目や、植生場所のおよそのヒントのような情報は入手しておいた。

傷なお草は、日当たりのよい場所で、地面が極端に感想していなければ生えるかなり繁殖力の強い草で、いってしまえばどこにでも生えている草だった。

資料には自然にある状態での見た目が挿絵で掲載されていたので、その葉っぱの付き方や特に注目したのは色であり、その情報を資料なしに頭の中で再現できるまで、ひたすら覚えた。

幸い、この世界に飛ばされるにあたって、説明不能の特別技能である鑑定先生が、手に持った野草の情報を教えてくれるので、目的の薬草はもちろんのこと、それ以外の野草も採取しては、鑑定先生で確認していた。

路傍の雑草でも、意外と整腸作用はあるもので、単独では有害としか思えない、嘔吐を促す野草なんかも、経口で体内に侵入する毒物に対しては、応急措置としては極めて有用である。

そういう目線で見ると、傷なお草だけでなく、一見するとミントの葉のような植物だが、鑑定すると、すりつぶした葉を純度の高い水と混ぜて服用することで、直前に口にしたものを胃液ごと吐き出す作用のある「ヴォーミント」、根を煎じて飲むことで、胃もたれ・胸焼け・胃酸過多などに効き、その龍の角のような見た目から「龍角草」と呼ばれて居る草も、薬用効果があることが分かった。

残念ながら組合では価値のある野草として、買取の対象となっていないので、それらは自分で使うために採取する。

一方、どくけ草は日陰にしか生えていない草で、草原の中でも岩陰やちょっと背の高い木の根元などを探してみるしかなき、したがって、傷なお草に比べたら、数が揃いにくい薬草だった。

そこで、僕たちは、草原を通り越して、青の森の入り口付近で、どくけ草を探すことにした。

森の奥まで行ってしまうと植生が変わる以前に、危険度の高い生物と遭遇してしまう可能性があるので、すぐに逃げられるように、森の入り口付近に留めておこうと考えたのだ。

ところが、予想に反して、森の中の植生は草原以上に複雑で楽しかった。

薬草の資料しか確認していなかったため、たとえばヴォーミントや龍角草などは、薬草の生える場所に生えるその他の草花として資料に載っていたが、青の森は危険度が高いため、植生を調べて資料化する作業が全くと行って行われていなかった。季節はもう夏も中頃になろうかというのに、森の中はひんやりとしていて、気温もそれほど高くなく、草原以上に過ごしやすかったが、その低めの気温が原因なのか、ワラビやゼンマイ、そしてネマガリタケにしか見えない物まで生えていた。

これらは東北の山の恵みである。もっとも東北の野山の遅い春の山菜だが。

ネマガリタケ、通称ヒメタケノコなんか、味噌汁の具に最高なんだけどなあ。未だにこっちの世界で味噌を見つけていない。ただ、大豆はあったので、自分で作ることは出来る。マタギの住む村では、味噌なんて江戸時代の昔から自家製だ。醤油は搾らなければならないので、専門のお店でないと難しいんだが、いざとなったらこっちも手作りするしかない。贅沢だけど、麻袋に詰めて搾れば機会で圧搾するより量はずっと少なくなるけど、その分えぐみのない高級醤油が出来るはずだ。

味噌と醤油の発酵樽をどこかで手に入れないと。

おっと妄想の世界に飛んでしまった。

まあ、当面天ぷらでもいいし。

誰も採ろうと思わないからか、そこら中にワラビとゼンマイとネマガリタケは生えていた。

売り物になるどくけ草はたくさんはみつからなかったが、それでも、5本なんとか見つけて、クエストの納品最小単位はクリア出来た。

ワラビとゼンマイも、きっと誰も採らないのだろうとは思いながらも、マタギの掟に従い、3分の1を他の人のために、3分の1を来年のためにと、取り残し、日没まで入り口が見える範囲で採集をし続けた結果、それでも10kgほど採ることが出来た。

日も沈みかけてきたので、今日は町に戻る時間もないと、森の入り口の草原に小屋を出して、野営することにした。野営って、普通に家だな、僕は小屋の中で夕飯の支度をしながら苦笑した。

この小屋があるおかげで、この世界でもなんとか生きていけるような自信みたいなものがあった。町中での宿泊だって、宿代が掛からない。広場の野営料金は銀貨1枚で足りるし、それなら草原でアルミラージ一匹狩ればなんとかなる。食事にしても、キッチンがあって囲炉裏があって、キッチンは魔石が必要なので、それなりに費用はかかるけど、囲炉裏は薪を燃やせばいいので、薪もこの森で拾うことが出来る。

この世界に来てからも、シラカミとツガルがいるので外食は屋台での買い食いしかないけど、シラカミもツガルも今のところ、僕が作っている簡素な食事に不満はなさそうだ。

ワラビとゼンマイはアクの強い山菜で、ちょっとやそっとでは食べられない。この世界でも、同じみたいで、ちょっと根元の先っぽをかじったら、しびれた。うん、これは無理。

なので、囲炉裏の灰の中に埋めておく。これで一晩付けて、さらにその灰を入れてわかしたお湯で煮て、お湯が濁らなくなるまで、灰を入れたお湯で煮るを繰り返せば、アクが抜ける。

この面倒な作業もあって、ワラビゼンマイは処理後の値段は高く、マタギの貴重な収入源になっている。

明日以降は、様子を見ながら、おそらく今の季節だけなので、もう少し手に入れて置こうと考えた。

その日の晩は、あく抜き不要なヒメタケノコの天ぷらを作った。

シラカミとツガルも物珍しそうに覗き込んで来たので、食べさせたのだが、どうやらあまりお気に召さないらしい。やはり狼とフクロウは肉食ということか。まあ主食は魔力らしいので、食事はしなくてもいいのだそうだが、そこはやっぱり一人で食事は寂しいし、コミュニケーションツールとして。


翌朝、起きて小屋の外に出た僕は、目の前の光景に驚いて固まってしまった。

ワラビとゼンマイとネマガリタケが山のように積まれていた。

昨日僕たちが採取しているのを木陰から見ていた森の動物が、森中から集めてくれていた。もちろん、その説明をしたのはグリフォンだった。

「泉を元通りにしてくれたお礼に動物たちが是非ともだそうだ。」グリフォンがそう説明した。

「嬉しいけど、本当に気を遣わなくていいから。あと、根こそぎ採っちゃうと、来年から生えなくなるから、それは気をつけないと。」

「大丈夫だ。みんなお主のやり方をまねて、ちゃんと少しだけを抜き取って集めてきた。」

「わかったありがたくもらうよ。でも、本当に気を遣わなくていいから。こういうのが重なると来づらくなるから。」

「ふーむ、不思議なことをいうのだな。もらえるものは何でももらうというのが人間の本能だと思ってたのだが。」

「お礼なんて、たいしたことはしてないんだし、気持ちだけでも十分嬉しいよ。僕らの生活は、自然に与えてもらっているものなんだから。」

「みんながみんな同じ考え方なら、儂らも人間と仲良く暮らせるのかもしれんのだがなあ。」

「それより、森の奥ならまだしも、草原だと遠くからでも見えるんだから、ここに居ると見つかって大変なことになるよ。町では、グリフォンがこの森にいるかどうかは確認出来てなくて言い伝えってことになっているから、見つかって大規模な山狩りとかになると、他の生き物も住みづらくなるよ。」

「あいわかった。しばらくぶりだったから、話をそこのリスに聞いてみんなちょっと張り切ったおうだ。泉は元通りになってみんなお主に感謝しているぞ。これからも気軽に遊びに来てくれ。」

「うん、ありがとう。これはじゃあありがたくもらっておくね。」

僕はそういって、小屋の前にそれこそ山積みになっていた山菜を全部あいてむぼっくすに収納する。出迎えてくれば動物たちに一匹ずつお礼を言いたいけど、いつ組合員が通るとも限らないので、手短にお礼を伝え、森の中に動物たちがかえっていくのを見送る。

さて、今日するつもりだった山菜採りがなくなった。

「町に戻ろうか。」

僕たちはアルミラージを狩りながら、町に戻っていった。

グラスバイパーには遭遇しなかったが、アルミラージは全部で20匹くらい手に入れた。しばらく肉は間に合いそうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。