4.冒険者ギルド
チュンチュンという鳥の声に起こされて、俺はまどろみから覚めた。
そこで恐る恐る目を開けると、見たことのない天井が目に映る。
「知らない天井だ、ってか……そうか、俺は異世界に来たんだっけ」
徐々に鮮明になる意識の中で、昨日の記憶が蘇ってきた。
なぜか俺は山歩きの途中で、異世界に跳ばされたらしいのだ。
そして迷宮都市ベルデンに入り、狼人の幼女 ニケと出会った。
「ムニャ~、タケしゃま~」
すぐ横で寝ているニケが、かわいい寝言を漏らす。
昨日の晩は、一緒に迷宮へ潜ると決めてから、同じベッドで寝たのだ。
ベッドはシングルだったが、幼女ひとりぐらいはどうということもない。
「ふあぁ……ん~? なんか、微妙に体が重いな」
体を起こすと、なぜか体の芯に疲れが残っていた。
しかし寝不足というほどでもないので、そのままベッドを出る。
そして窓の扉を開けると、柔らかい光と、新鮮な空気が入ってきた。
ちなみにこの世界でガラスは高級品なので、窓ガラスなんてものはよほどの金持ちの家にしかない。
「ふわぁ……おはようございましゅ、タケしゃま」
「ああ、おはよう、ニケ…………んん? なんか大きくなったか? それとちょっと、喋り方も変わったような……」
「ふえ?……そんなはず、ないでしゅけど」
なんとなくニケの体が、ひと回り大きくなったような気がしたのだが、彼女はそれを否定する。
そうやって喋る言葉自体も、昨日より明瞭になっている気がする。
相変わらず、でしゅでしゅ言ってはいるが。
「ふ~ん、まあ、いいか。昨日はいっぱい食べたから、体がそれに反応したのかもしれないな」
「そうかもでしゅ。ひさしぶりに、いっぱい、たべたから」
「そう考えたら、腹が減ってきたな。下から飯をもらってくるよ。ニケは顔、洗っとけ」
「あい」
部屋を出て1階に下りると、すでに何人かの人が動いていた。
宿の店員に朝食を頼むと、パンにスープと水が付いたものが出てくる。
2人分で銀貨1枚を払うと、俺は食事を持って部屋へ戻った。
そのまま朝食を食いながら、今日の予定について話す。
「さて、今日はどうしようかね。とりあえず冒険者ギルドで、登録を済ませるとして……」
「めいきゅうに、もぐるための、そうび、そろえるでしゅ。タケしゃまは、ぶきとぼうぐ、もってましゅか?」
「武器に防具? さすがにそんなものは……ああ、これがあったな」
俺はパンをかじりながら、バックパックを漁った。
そして取り出したのは、全長30センチくらいのナタである。
めったに使わないが、やぶこぎをすることもあろうかと、買ったものだ。
スラリと鞘から抜くと、銀色のステンレスの刃が現れる。
「うわぁ、すごいぶき、でしゅね。つよそうでしゅ」
「まあ、本来は木を切るための物だけど、武器にも使えるよな」
「ちょっとだけ、かしてくだしゃい」
「ああ、気をつけろよ」
彼女はナタを受け取ると、床に降り立ってそれを振りはじめた。
ニケの体格からすると重そうに見えるが、彼女は軽々とそれを振り回す。
ビュンッ、ビュンッと鋭い風切り音が聞こえてくる。
数回試すと、彼女は目を輝かせて、俺に振り返る。
「これ、あたしに、かしてくだしゃい。そしてタケしゃまは、やりをかうと、いいでしゅ」
「俺に槍を使えってのか? それだと、ニケが前に出ることになるぞ」
「へいきでしゅ。ニケはこれでも、けいけんしゃ、でしゅから」
「う~ん、それを言われると弱いな。まあ、まずはそれで様子を見て、不味そうだったら変えればいいか。いずれにしろギルドの後は、武具屋ってことだな」
「あい♪」
その後、朝食を終えると、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
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宿から20分ほど歩くと、冒険者ギルドにたどり着いた。
ここは町の中心部に近く、隣には迷宮の建物も建っている。
というよりも、この町は迷宮を中心に発展し、そこを仕事場とする冒険者ギルドがその横に建てられた、という流れなのだろう。
ギルド自体は石造りの2階建てで、なかなかの大きさだ。
中央の扉からギルドに入ると、そこは朝の喧騒に包まれていた。
革鎧や金属鎧に身を包み、剣や斧などの武器を持った人たちが、何人も集まっている。
それぞれ今日の仕事を探そうと、ここへ集まってきたのだろう。
そんな中で、案内や冒険者登録を行う窓口に、ニケが連れていってくれた。
「あの~、冒険者登録をしたいんですが」
「はい。それではこちらの紙に、記入してお持ちいただけますか」
「あ、はい」
美人な受付嬢から申請用紙のようなものを渡され、すぐ近くの机に移動する。
用紙の記入内容は、名前に年齢、得意な武器や魔法技能の有無などだった。
俺は名前欄に”タケアキ”、年齢は35歳とだけ書いて、受付に持っていった。
それを見た受付嬢が、訝しそうな顔をする。
「35歳、ですか? もっとお若く見えますが」
「あ~、よく言われます。見た目は若いって」
「それにしたって……まあ、いいでしょう」
受付嬢はなおも不満そうだったが、見切りをつけて作業に移った。
何か機械を操作してから、こぶし大のアイテムをカウンター上に出す。
それは銀色の円筒の中心に、水晶をくっつけたようなものだった。
「この水晶部分に手を当ててください。あなたの魔力情報を読み取って、専用の冒険者証を作製します」
「あ、はい……」
黙って右手を当てると、カウンターの向こうで何やら作動音が聞こえてくる。
やがて縦3センチ、横2センチぐらいの鉛色のプレートと、1枚の紙が差しだされた。
「これがあなたの冒険者証になりますので、無くさないようにしてください。再発行には金貨1枚が必要です。それからこちらには、主な注意事項が書いてあります。もし詳細を知りたければ、2階の資料室で詳細を確認できます。何かご質問は?」
「あ、とりあえずこれに目を通します」
俺は軽く頭を下げると、プレートと紙を持って部屋の隅に移動した。
注意事項によると、冒険者は10等級から1等級まであるそうだ。
10~9等級は初心者、もしくは底辺的な存在として扱われる。
それから8等級で低級、6等級で中級、4等級で上級と上がっていき、2等級以上は特級冒険者と呼ばれるそうだ。
それぞれの等級に応じて1年の間にこなすべき仕事量があり、それに満たなければ別途維持費を払うか、ギルド除名となってしまう。
まあ、ギルドに金を落とすなり、貢献ができない者は、とっとと出ていけってことだな。
その代わりにギルドは、冒険者への教育とか情報伝達、魔石や魔物素材の販路を提供してくれるって寸法だ。
基本的にギルドは冒険者同士の争いには不介入だが、犯罪歴のチェックはする。
例えば冒険者が傷害や殺人を犯せば、その記録が冒険者証に刻まれるそうだ。
それをギルドの機械に通して履歴が明らかになれば、そいつは犯罪者として衛兵に突き出される。
この不思議機能は、迷宮と冒険の神 ヌベルダスの加護によるらしく、冒険者の犯罪防止に役立ってるって話だ。
その他にもいろいろとあったが、まあ普通に過ごしていれば、問題は無さそうだ。
ひととおり目を通してから、じっと待っていてくれたニケに声を掛ける。
「よし、次は武具屋へ行ってみるか」
「あい」
嬉しそうに返事をするニケと手をつなぎ、俺は外へ出た。
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彼女の案内でしばらく歩くと、剣と盾の看板を掲げた店に着く。
そのまま店に入ると、いろんな武器や防具が並んでいた。
「とりあえず槍は必要として、防具はどうしようか?」
「そうでしゅね。めいきゅうの1そうは、ゴブリンしかいないので、バックラーとかわのぼうしぐらいで、いいとおもうでしゅ」
「ふ~ん、了解。まずは店員さんに相談してみようか」
俺に目利きなんかできないので、素直に店員に相談してみた。
すると手持ちの大銀貨2枚程度では、丸盾と革の帽子ぐらいしか買えないことが判明する。
そこでまたもやバックパックの中身を売り払って資金を確保すると、銀貨30枚で槍を1本買った。
今回売ったのは、パステルカラーのウインドブレーカーで、なんと金貨1枚になった。
正直、売るのは少し惜しかったのだが、色が派手で目立つのもあって、泣く泣く売り払ったのだ。
まあ、いずれ金を稼いで、この世界なりの装備を備えてやろうと思う。
武器を手に入れた俺たちは、またギルドに戻って武器の使い方を学ぶ。
ギルドには訓練所ってのがあって、簡単な指導なら、その場でしてくれるのだ。
俺は槍の持ち方や、突き方、敵の攻撃のいなし方などをひととおり習うと、それを繰り返した
明日はいよいよ迷宮だから、しっかりとやらなきゃな。