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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第3章 中級冒険者編

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37.風魔法の進化2

 魔法の練習がてら、ニケがウサギを取ってきたので、昼食を摂ることにした。

 ガルバッドが手際よくさばき、ウサギが瞬く間に焼肉になる。

 それをつまみながら、精霊術の改良について話を続ける。


「つまり精霊と親しみ、魔力を分け与えることにより、遠隔地点でも魔法の行使が可能になる。それがタケアキのやっていることですね?」

「特に意識はしてなかったけど、そういうことみたい。実際にできてるからね」

「精霊術の歴史を変えたというのに、何をのんきな。しかしそれも、あなたらしいですね」


 俺の態度にアルトゥリアスが苦笑している。

 あまり実感はないが、たしかに精霊術史上において、一大転換点になるような発見なのだろう。

 そんな話をしながら食事を終えると、今度は実践だ。


「さて、私が遠隔魔法を実現するとしたら、『突風アスファ』の強化でしょうか」

「う~ん、それも手だろうけど、風精霊シェールを中継点にして、アルトゥリアスが術を行使するのが、いいんじゃないかな」

「中継点にするとは?」

「例えばシェールを、30フェルト(約9メートル)先に置くでしょ。そして彼女との間に、魔力の経路をつなぐんだ。アルトゥリアスが魔力を撃ち出せば、それがシェールから突風となって敵を打つ、みたいな。それとは反対に、気圧の低い経路を形成すれば、矢の勢いを大幅に強化できるだろうね」

「ん? それはどうやるんじゃ?」


 俺の提案にガルバッドが食いつく。

 そこで俺は地面に槍の石突きでガリガリと絵を描きながら、詳しく説明する。


「これがアルトゥリアスで、こっちがシェールだとするだろ。この間をつなぐ経路の気圧を低くして、アルトゥリアスが矢を放つんだ。そうすると、空気の薄い経路に引っ張られるように矢が飛ぶ。これなら威力が増すし、命中精度も上がるはずだ」

「ほ~、そういうもんなのか。儂らの周りにある”くうき”っちゅうのは、それほど邪魔なもんとも思えんがな」

「俺たちが動く分には、大して邪魔にならないけど、動きが速ければ速いほど、抵抗になるんだよ。アルトゥリアスなら、自分の射った矢が、遠くに行くほど衰えるのは分かるだろ?」


 俺の質問に、アルトゥリアスは感心したようにうなずく。


「それはもちろんです。今までにも矢の前方の圧力を弱め、矢の威力を高めていました。それがさらに空気の薄い道になれば、より遠くまで効力が及ぶ、そういうことですね?」

「うん、そう。試しにやってみたら?」

「分かりました。シェール」


 彼はシェールを呼び寄せると、俺の描いた絵を使って説明を始めた。

 最初、シェールは気の乗らない感じだったが、俺やニケの助言もあって、なんとか理解したようだ。

 最後にアルトゥリアスがシェールを撫でながら魔力を譲渡すると、彼女は張り切って10メートルほど先へ飛んでいく。


「それでは行きますよ」


 アルトゥリアスが弓に矢をつがえてから、意識を集中する。

 やがてシェールとの間に減圧経路が形成されたのか、バシュッと矢が放たれた。

 すると矢は目にも止まらない速度で飛び、瞬く間に20メートルほど先の木に突き立つ。


 ガツーンと音を立てて突き立った矢の威力は、凄まじかった。

 通常では考えられないほど深く突き刺さり、木の方も揺れている。

 それを見たアルトゥリアスは、ホウと息を吐き出し、感慨深そうに言葉を続ける。


「これはたしかに、使えそうですね。今までとは段違いの威力と、命中精度です」

「ううむ、本当じゃな」

「かっこいい、でしゅ」

「♪」


 口々に上がる賞賛の声に対し、どうだと言わんばかりに、シェールが胸を張る。

 そんな彼女を見ながら、俺も手応えを感じていた。


「うん。しっかりした信頼関係と魔力があれば、遠隔地での精霊術は可能なんだ。この調子で新しい魔法を、どんどん開発しようよ」

「ええ。今さらながら、タケアキの発想には感服します。先程のことは、申し訳ありませんでした」

「それはもう気にしないでいいよ。これから協力して、精霊術を開発していけばいいんだ」

「ええ、ぜひお願いします。そして開発が一段落したら、故郷に戻りたいところですね」

「故郷って、エルフの里? けっこう遠いんじゃないの?」


 アルトゥリアスの思わぬ言葉に、思わず聞き返す。

 すると彼はゆるゆると首を振りながら答えた。


「いえ、馬車を使えば1週間ほどのところですよ。ぜひタケアキにも、一緒に来て欲しいですね」


 するとガルバッドがからかうように言う。


「おぬし、旧態依然とした故郷が嫌で、飛び出してきたんじゃろう? こんな話を持っていったら、老人どもが腰を抜かすぞ」

「フフフッ、それこそが狙いですよ。あの老害どもに、ひと泡ふかせてやりたいものです」


 不敵な笑顔を浮かべながら、アルトゥリアスが狙いを語る。

 何やら物騒な雰囲気を感じ、俺は苦笑いしながらごまかすことにした。


「アハハ、先のことはまたそのうちってことで」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後の1週間ほどは、新たな魔法の開発と習熟に費やした。

 それにある程度、目処がつくと、迷宮に潜って使い勝手を試してもいる。

 そうしてだいぶ戦力が高まった時点で、いよいよ7層の攻略に乗り出すことになった。


「よし、準備はいいな?」

「あい」

「ええ、万端です」

「いつでも来いじゃ」

「クエ~」

「じゃあ、出発だ」

「お~」


 1層の水晶部屋から7層へ転移し、皆に確認を取ってから探索を始める。

 しばらく進むと、また草木の匂いが漂ってきた。

 するとニケから警告が発せられる。


「ふくすうのまもの、いるでしゅ」

「いよいよ影狼シャドーウルフのお出ましだな。みんな、戦闘準備だ」

「「了解」」


 ニケがナタを、ガルバッドが戦斧を抜くと、アルトゥリアスも弓矢を構える。

 俺は今回は魔導砲インドラは背中に回し、槍を手にしていた。

 改めて前進を始めると、やがて大きな空間にたどり着く。

 そこは4層と同じように、草や木に覆われていて、まるで地上のようだ。

 そして部屋の主たちが顔を出す。


「ガウーーー」


 それは黒い毛に包まれた、大柄なオオカミだった。

 見た目どおりの影狼シャドーウルフが5匹、俺たちを警戒しながら現れた。

 そしてオオカミたちの殺気が高まった瞬間、俺は槍の石突きを地面に突き立て、精霊術を行使した。


「『大地拘束トゥルバ・エンタズ』、『石槍屹立ハルバ・アガマト』」

「ギャインッ!」


 その途端、前足を拘束されたオオカミの足元から、石の槍が突き出した。

 それは見事に1匹のシャドーウルフの腹部を貫き、致命傷を与える。


減圧回廊カリル・タリク

「キャウンッ!」


 さらにアルトゥリアスが古代語を唱え、矢を放っていた。

 その矢はシェールとの間に形成された低圧空間を、目にも止まらない速さで飛び抜け、見事にオオカミの頭を撃ち抜いた。


疾風迅雷ハラカ・タザリ


 それを合図に、魔法で加速したニケが、勢いよく飛び出す。

 常人の3倍は速そうな幼女が、瞬く間に距離を詰めると、ステンレスのナタで敵を切り裂いた。

 3匹目のシャドーウルフが地に伏せる横で、残る敵も俺とアルトゥリアスが始末していた。

 それを見たガルバッドが、呆れたようにぼやく


「う~む、あっさりと殲滅してしまったのう。儂の出番がなかったわい……」


 俺とアルトゥリアスが笑いながら、それをフォローする。


「アハハ、俺たちへの攻撃を減らしてくれるだけで、十分さ。ガルバッドはこうやって、便利なものも作ってくれるしね」

「そうですよ。それにもっと多くの敵が出てくれば、出番もあるでしょう」

「う~む。まあ、そうじゃな」


 彼はいまだに申し訳なさそうだが、俺たちは十分に彼の恩恵にあずかっているのだ。

 俺が立ったまま精霊術を行使できるようになったのも、彼が槍を改造してくれたおかげだ。

 今までは地面に手を当てて術を行使していたのだが、いちいちしゃがむのが面倒だし、視点も低くなってよくないと思っていた。

 そんな愚痴をガルバッドに漏らしたら、あっさりと解決策を示してくれた。


 今の俺の槍は、ミスリルの石突きに、魔力伝導性の高い塗料が追加されていた。

 このおかげで槍を地面に突き立てれば、ガイアとのやり取りができるようになったのだ。

 そんなことを考えていたら、ニケがシャドーウルフの魔石を取ってきた。


「タケしゃま~、ませき、とったでしゅ」

「ああ、ご苦労さん。ニケもよくやったな」

「エヘヘ、でしゅ」


 7層の魔物にさして苦労しないとは、俺たちも新たな領域に入ったようだ。

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