36.風魔法の進化
アルトゥリアスが俺の考えを認め、精霊との親和度を上げることに前向きになった。
そこで早速、その奥義を伝授することとなる。
「それでは第一回、妖精と仲良くなるぞ討論会を始めま~す」
「ワ~、ドンドンドン、パフパフ~」
「♪」
「……」
ニケや地精霊がノリよく盛り上げようとするも、アルトゥリアスは黙ったままで乗ってこない。
そんな彼に、俺はダメ出しをした。
「はい、そこ。ノリが悪いよ。そんなことじゃ、風精霊と仲良くなれないぞ」
「それとこれとは、別でしょう。あまり悪ふざけをしないでください」
「はぁ~っ……これだからもう。別にふざける必要はないけど、楽しくやらなきゃ、仲良くはなれないんだよ」
しかしそう言っても、アルトゥリアスが受け入れる気配はない。
ある程度、覚悟はしていたものの、これは骨が折れそうだ。
どうしようかと考えていると、彼が不満そうに言った。
「そもそも、なぜ楽しくする必要があるのですか?」
「ん~、俺も感覚的な話になるけど、楽しい感覚を共有するほど、互いの距離が近くなるんだよ。な、ニケ」
「あい。ガイアちゃんとあたし、いっしょにあそんだでしゅ。だからなかよし、でしゅ」
「♪」
ニケが誇らしそうに言うと、ガイアもうんうんとうなずいている。
実際、俺は暇な時はガイアを召喚し、ニケと遊ばせるようにしていた。
2人は追いかけっこをしたり、俺も混じえて積み木崩しみたいなゲームをして、楽しんでいる。
そうしていると、ガイアはまるで普通の少女のように思えてきて、急速に距離が接近したのだ。
最初は俺も、精霊は神聖なものだと考えていたから、ニケにせがまれなければ、気がつかなかったかもしれない。
そういう意味では、ニケには本当に感謝している。
まあ、あくまでケガの功名なんだけどね。
「まず、精霊は神聖でベタベタするもんじゃないっていう思い込みを、なんとかしなきゃ。そのうえで親しく接していると、近所の女の子みたいに思えてくるよ。あとは普通に子供に接するような感覚でいいんだ」
するとアルトゥリアスは、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「私は子供が苦手なんですよ。騒々しくて我がままで……」
「そんなことを言ってる限り、精霊とは仲良くなれないよ。これも新たな精霊術のためと思って、ね」
なおも気が進まない様子のアルトゥリアスだったが、やがて思い切ったように答える。
「分かりました。まずはどうすればいいですか?」
「ん~、まずはシェールを召喚しっぱなしにしといて。あとはニケとガイアが適当にやってくれるよ」
「分かりました。シェール。ガイアたちと遊んできなさい」
「♪♪」
するとシェールは、嬉々としてニケたちに近寄った。
彼女たちは最初、何か無言でやり取りをしていたが、やがて追っかけっこを始める。
その姿は本当に、人間の女の子のようである。
そんな彼女たちを見ながら、俺たちはのんびりとお茶を飲むことにした。
ガルバッドが魔導コンロでお湯を沸かし、お茶を入れてくれたのだ。
「たしかにこうして見ると、本当に人間の子供みたいですね」
「ああ、そうだろ? 親和度が増せば、もっとそうなるよ。まあ、その分、面倒も増えるけどね」
「面倒、とは?」
「小さな子供なら、訳の分からない我がままを言ったり、ちょっとしたことですねたりするでしょ」
「ああ、なるほど。本当に子供みたいですね」
俺が苦笑しながら話すと、アルトゥリアスもその意味が分かったようだ。
実際、ガイアと仲が良くなったはいいが、いろいろと振り回されそうにもなる。
そんな時はニケが間を取り持ってくれるので、なかなか助かっていたりするのだ。
そういう面倒なことも説明していると、遊びが一段落したのか、ニケと精霊たちが寄ってくる。
「シェールちゃんも、たのしい、いってるでしゅ」
「♪」
誇らしげに報告するニケの横で、シェールがニコニコと笑っている。
心持ち、以前よりも感情が豊かになっているように、見えなくもない。
「そっか。ありがとな、ニケ」
「エヘヘ、たいしたこと、ないでしゅ」
無事に役目を果たしてくれたニケの頭を、いつものように撫でると、ガイアが隣に来た。
なんとなく物欲しそうなその顔は、自分も撫でろと言っているようだ。
そこで俺は空いてる手に魔力をまとわせ、ガイアの頭を撫でてやる。
すると心地よさそうにするガイアを見て、シェールが寂しそうな顔をした。
「ほら、アルトゥリアス。こうやって魔力をまとわせながら、シェールを撫でてやって」
「む……こ、こうですか?」
アルトゥリアスが恐る恐る俺の真似をして、シェールを撫でる。
すると最初、驚いた顔をしたシェールが、心地よさそうに目を閉じた。
「♪」
「こ、これは合格、ですかね?」
自信がなさそうに訊くアルトゥリアスに、俺とガルバッドが笑い声を立てた。
「アハハ、そうそう。最初にしては、上手いもんだよ」
「フハハッ、”暴風のアルトゥリアス”とは思えん光景じゃな。まるで本当の親子みたいじゃぞ」
「からかわないでください、ガルバッド」
そう言うアルトゥリアスは、少し恥ずかしそうにしながらも、悪くない雰囲気だった。
シェールを撫でる手も緊張が抜け、さまになってきている。
やがて彼が、ポツリとつぶやいた。
「こうしていると、不思議な感じですね。精神的な距離を詰めた途端に、シェールの存在が明確になったような気がします」
「それってたぶん、実際に実体化度が上がってるんじゃないかな?」
「どういうことです?」
アルトゥリアスの怪訝な視線を受け、俺は先を続ける。
「アルトゥリアスの言ったことは、俺も感じてたんだ。ガイアと親和度が上がるほど、彼女の存在が明確になってきたように思えてね。思うに精霊は、契約者から認められるほどに、その実体を強固なものにするんじゃないかな?」
「ふむ……なかなか興味深い話ですね。精霊の実体、もしくは自我が強固になったがゆえに、契約者の下を離れて活動できる。そう言いたいわけですか?」
「俺も確信はないけど、ガイアの状態を考えると、つじつまは合うでしょ」
「ふむ……」
アルトゥリアスが顎に手を当てて考えはじめた。
すると暇になったシェールが、またニケたちを誘って遊びにいく。
今度は森の中でウサギを見つけて、それを追い回しているようだ。
俺とガルバッドはお茶を飲みながら、そんな様子をのんびりと眺めていた。
すると予想外の事態が起きる。
「あっ、ガイアが土魔法を使った」
「うん? 何が起きたんじゃ?」
「ガイアが今、ウサギの進路を邪魔するために、障害物を作ったんだ。ちっちゃなものだけど、俺には分かる」
術の規模自体は小さなものだったが、経路でつながっている俺には、それが認識できた。
するとアルトゥリアスも、それに強い興味を示す。
「タケアキ、それは本当ですか? 契約した精霊が独自に術を行使するなんて、聞いたこともありませんよ」
「事実だよ。俺は何も指示をしていない」
「だとすると、やはり魔力を蓄えて、強固な存在になっているということか……」
そんな話をしていると、ニケがバタバタと帰ってきた。
「タケしゃま~、みんなでウサギ、つかまえたでしゅ」
その手に、ウサギを持って。




