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迷宮へ行こう ~探索のお供はケモミミ幼女~  作者: 青雲あゆむ
第1章 駆け出し冒険者編
3/115

3.彼女の身の上話

 ニケの案内で古着屋に行ったら、店のおばちゃんにニケがさらわれてしまった。

 ニケの身なりがあまりに貧相だったために、俺への代価の一部で彼女に服を用意すると言うのだ。

 なまじ善意に基づく提案だけに、強く断ることもできず、俺は1時間近く待たされることになった。


「さあさあ、お兄さんに見せてあげなさい」

「う~、なんか、はじゅかしいでしゅぅ……」


 そう言って出てきたのは、体をきれいにして、青いワンピースを身に着けたニケだった。

 無造作に切られていた髪の毛も、すっきりとベリーショートに整えられ、美しい金色の輝きを放っている。

 短くなった髪の上にピョコンと生えているケモ耳が、またユーモラスでかわいらしい。


 顔や手足もきれいに洗われて、肌の白さが目立つ。

 顔つきは幼いが、スッキリと整っており、ワインレッドの大きな瞳が、キラキラと輝いていた。

 なぜか恥ずかしそうにモジモジとするニケを見て、俺は称賛の声を上げた。


「お~、かわいくなったな、ニケ。よく似合っているぞ」

「ほ、ほんとでしゅか?」

「もちろんさ。さっきまでとは、大違いだ。美人さんだな、ニケは」

「しょんなこと、いわれたの、ひしゃしぶり、でしゅ。う、うれしい、でしゅ……」


 顔を赤くして恥じらうニケを見て、おばさんは満足そうな笑みを浮かべている。


「私も久しぶりに、いい仕事ができたよ。やっぱり女の子は磨きがいがあって、楽しいね」

「あ~、それなんですけど、ニケを受け入れてくれるところとか、ないですかね? 孤児院とか」

「う~ん、あいにくとこの町にはそういうの、無いんだよ。それにこの子、あんたに付いてくって言って、聞かないんだ。なんだったら、あたしが面倒みるっていうのにさ」


 おばさんが顔をしかめながら、思わぬことを言う。


「えっ、ニケは俺に付いてくるつもりなのか? 俺はこの町に来たばかりで、まだ仕事もないんだぞ」


 思わず問いただすと、ニケは必死な表情で訴える。


「だめ、でしゅか? タケしゃまは、いのちの、おんじんでしゅ。ろうじんじょくは、いのち、しゅくわれたら、いのちがけで、かえしゅでしゅ」

「いや、そんな大げさに考えなくてもいいんだけどな。ただ焼き串、おごっただけだろ?」

「……でも、タケしゃまいがい、だれも、たしゅけてくれなかった、でしゅ。あたし、あのまましんじゃうと、おもってたでしゅ……グスッ、ヒック、ヒック……ウエ~ン」


 なぜか泣きだしたニケを、おばさんがあやす。


「ごめんねぇ。ニケちゃんがこんな風になってるなんて、わたし知らなくて……今日のところは、この子と一緒にいてやれないかい? 先のことはまた考えればいいさ。私もできるだけ、力になるからさ」

「う……分かりました。彼女としっかり、話してみます。また相談に乗ってください」

「ああ、今日のところは頼むよ。はいこれ、大銀貨3枚。これだけあれば、2,3日は楽に暮らせるだろうさ。その間によく考えておくれ」

「……はい」


 フリースの代金を受け取ると、俺はニケと手をつないで、店を出た。

 そのまま彼女の知る宿屋へ向かったが、ニケはとても嬉しそうだ。

 さっきまでの泣き顔が嘘のように、ニコニコと笑いながら、尻尾をフリフリと揺らしている。


 そんな彼女を見ていたら、俺もなんだか嬉しくなってきた。

 先のことはまた考えればいい、そんな気がしてきたのだ。

 やがてたどり着いた宿屋で、部屋の有無を確認すると、残念な答えが返ってくる。


「え、ひと部屋しか、空いてないんですか?」

「ああ、しかも1人部屋だから、同じベッドで寝るしかないぞ。まあ、子供と一緒なら、なんとかなるだろう」

「う~ん、仕方ないか……ニケはそれでいいか?」

「もんだい、ないでしゅ」


 結局、2人で同じ部屋に泊まることにした。

 ちなみに1泊で銀貨5枚で、さらに銀貨1枚でパンとシチューの夕食を買ってから、部屋に入る。


「へ~、けっこう広いんだな」

「でしゅね」


 部屋は4畳半くらいの間取りで、ベッドに小さなテーブル、そしてイスがひとつあった。

 とりあえずニケはベッドに座らせ、俺はイスに腰かけて夕食を食べる。

 ちなみにニケは、大きな串焼きを5本もたいらげたくせに、旺盛な食欲を示していた。


「そういえばニケって、何歳なんだ? なんか育ちが遅いようなこと、言ってたけど」

「ハグハグ、ゴックン……10しゃい、でしゅ」

「10歳ぃ? どう見たって、5歳ぐらいにしか見えないぞ。狼人族って、そんなもんなのか?」

「ん~ん、ふつうは、ひとじょくと、あまりかわらない、でしゅ。だからニケは、いみご、いわれた、でしゅ」


 またニケが悲しい顔をしたので、話を変えることにした。


「そ、そうか。まあ、大器晩成って言葉もあるし、気にすんなよ。ところでニケは、いつから独りで生きてきたんだ?」

「ハグハグ……はんとしぐらい、まえから、でしゅ」

「マジかよ……独りで半年も、生きられるもんなのか?」

「しゃいしょは、みんな、やしゃしかった、でしゅ……」


 聞けば最初は、周囲の人に助けられ、それほど困らなかったそうだ。

 もっぱら知り合いの店でお手伝いをして、食事や寝床を得ていたらしい。

 しかしある日、悪い奴に捕まって、奴隷にされかけてしまう。

 その後は用心深くなって、特定の大人だけに頼るようにしたそうだ。


 それだけならまだ良かったものの、貧民街の悪ガキに目を付けられたのがまずかった。

 なぜか悪ガキどもは、ニケにつきまとい、彼女の仕事を邪魔するようになったそうだ。

 おそらくニケだけが大人にちやほやされるのが、ねたましかったのではなかろうか。

 そうなると大人も面倒になって、ニケとの交際を避けるようになってしまう。


 例えば俺が串焼きを買った屋台のおっちゃんも、よく食い物をくれたのに、途中から態度が変わったそうだ。

 おかげでゴミを漁って、路地裏で野宿するような生活を、ここしばらく続けていたらしい。

 そしてもういよいよダメかと思っていたところへ、俺が出くわしたというのが、事の顛末てんまつだ。


「……そうか。ずいぶんと辛い思い、したんだな」


 そう言ってまた彼女の頭を撫でると、ニケは嬉しそうに笑う。


「しょんなこと、ないでしゅ。こうやって、タケしゃまに、あえたから。だからあたし、かんしゃ、してるでしゅ」


 まじめな顔でそんなことを言うニケを見て、俺も顔がほころぶ。


「フフッ、そうか。そういえば俺も、ニケを見つけた時、不思議な光を見たんだ。なんかこう、ニケの周りがキラキラ光ってさ。今思うとあれは、ニケを見つけろっていう、お告げみたいなもの、だったのかもしれないな」

「しょうでしゅ、タケしゃまとの、であいは、うんめい、だったでしゅ。あたしがタケしゃまに、つかえるよう、かみしゃま、みちびいたでしゅ」

「アハハ、それはどうかなぁ? まあ、ニケがもっと大きくなったら、何かお返し、してくれればいいから」


 必死に運命を力説するニケに対し、やんわりと恩返しを断ると、彼女は不満そうな顔をする。


「う~、わかったでしゅ。だけどタケしゃま、これから、どうしゅるでしゅ?」

「ああ、それなんだけど、とりあえず冒険者をやろうと思う」


 この世界の常識に照らし合わせると、俺にはそれぐらいしか選択肢が無かった。

 今の俺のように、この世界に戸籍も伝手もない人間が暮らしていくには、冒険者ギルドに登録するのが手っとり早いのだ。

 それで最低限の身分証明は手に入れられるし、日雇いの仕事なんかもある。


 ただし冒険者稼業なんてのは、一般人からすればろくな仕事じゃない。

 それは魔物を狩る狩人であり、迷宮から魔石を持ち帰る鉱夫であり、雑多な仕事も請け負う、なんでも屋みたいな職業だ。

 当然、学歴や技能を持たない食い詰め者が多いので、その社会的地位は低い。


 しかしそれはレベルの低い下っ端の話で、中には困難な仕事をこなす強者もいる。

 高位の冒険者ともなれば、収入もそれなりだし、特権的な利益も享受できるようになるそうだ。

 さすがにそこまでは望めなくとも、自衛手段はあった方がいい。

 収入と自衛手段を得るために、俺は冒険者として、自分を鍛えようと考えていた。


 するとそれを聞いたニケが、目を輝かす。


「しょれなら、ニケもいっしょに、やるでしゅ。ニケは、ふくぼうけんしゃしょう、もってるでしゅ」


 そう言って彼女は、胸元からドッグタグのような物を取り出した。

 縦3センチ、横2センチほどの、赤みを帯びたプレートにひもを通して、首から下げていたらしい。


「ええっ、ニケも冒険者なのか?」

「しぇいかくには、みならい、でしゅ。10しゃいから、みならいになって、15しゃいで、ぼうけんしゃ、なるでしゅ」

「ああ、なるほど。荷物持ちとかをしながら、仕事を学ぶみたいな感じか?」

「しょうでしゅ」


 聞けばニケは、10歳になってすぐに見習い登録をし、両親と一緒に迷宮に潜っていたらしい。

 3層まで潜って、いよいよ守護者を打倒する直前まで行ったそうだ。

 守護者ってのは、重要階層の最後を守る、強力な魔物だ。


 これを倒さないと、下の層へは行けないのだが、さすがに3人で突破する見込みはなく、両親は他のパーティーに入って、守護者に挑んだ。

 しかしあいにくと勝利の女神は微笑まなかったらしく、後に冒険者証のみが回収され、両親の死亡が知らされたそうだ。

 その話に及んで、またニケは泣きかけたが、すぐに涙を拭い、明るさを装う。


「だからニケも、いっしょに、めいきゅう、いくでしゅ」

「いや、ちょっと待てって。ニケみたいな子供を連れてくのは、気がひけるっていうか、幼児虐待みたいで、体裁が悪いっていうか……」


 俺がグダグダと断る理由を述べていると、ニケはひどく悲しそうな顔をした。


「つれてって、くれない、でしゅか? またニケを、ひとりに、しゅるでしゅか?」


 耳をペタンと伏せて、俺を見上げるその様は、まるで捨てられた子犬のようで、ひどく俺の心をえぐった。

 普通に考えれば、彼女を迷宮になど、連れていくべきではないのだろう。

 しかし彼女が経験者だというのなら、むしろ彼女から学べることもあるのではないか?


「……分かった。一緒に行こう。これからよろしくな、ニケ」

「あい、タケしゃま」


 安堵に頬を緩めた彼女の笑顔は、やはりとてもかわいかった。

 こうして俺は、この世界に来て早々に、小さな相棒を得た。

 俺の勝利の女神を。

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