18.虫狩りの始まり
鉄の筒を用いた散弾砲とでもいうべき魔法を、俺たちは編み出した。
最初は持ち手が痛くなるようなシロモノだったが、ストックを追加することで、だいぶ使いやすくなった。
さらにもうひとつ改良することで、魔法の操作性も改善した。
「これが注文した品ですか?」
「ああ、ミスリルを仕込んでから、穴を埋めるのに苦労したぜ」
「きれいに、できてるでしゅ」
「ああ、そうだろう?」
俺たちは再度、大筒の製作を依頼した鍛冶屋に来ていた。
ここの主人にストックの追加と同時に、ある仕掛けをお願いしておいたのだ。
「こんな筒にミスリルを埋め込むだなんて、けったいなことを頼まれたもんだぜ。もちろん、仕事はちゃんとやってるがな」
彼の言うように、俺は銃身の後端下部に、ミスリルを埋め込んでもらった。
これにより装填された弾がミスリルに触れるようになり、外から弾を発射しやすくするのが狙いだ。
ミスリルの露出部分の形状はどうでもよかったが、指を掛けやすいように引き金状にしてもらった。
そうして出来上がってきたのは、M79グレネードランチャーによく似たシロモノだ。
それもそのはずで、俺が絵を描いて鍛冶屋に渡したのだ。
30センチほどの銃身に、同じくらいの木製ストックが付いていて、これを肩に当てながら発射する形になる。
ここまで形にするのに1週間の時間を要し、費用も金貨1枚分を消費した。
今までに貯えてきたお金の半分以上がすっ飛んだが、それだけの価値はあるはずだ。
これにはニケはもちろん、アルトゥリアスも快く協力してくれた。
ただしM79に似ているとはいっても、さすがに中折れ式にはなってない。
ストックと銃身の間は固定で、従来どおりに筒先から弾を装填する。
どの道、1発ずつしか撃てないし、この方が耐久性も高くていいが、問題は下に向けて撃てないことだ。
下に向けたら、弾が落ちちゃうからな。
この辺はいずれ、なんらかの対策はしたいと思う。
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新式の魔導砲を受け取った俺たちは、試し打ちのために迷宮1層へ潜った。
そこでニケにゴブリンを探してもらい、出てきた敵に散弾をぶっ放したのだ。
――ズバンッ!
「ッ! グギャ~、グギャ~!」
「これはちょっと……」
「えげつない、でしゅ」
尖った小石を集めた散弾パックは、見事な攻撃力を示した。
小石に肌をえぐられたゴブリンたちが、痛みにもだえ、のたうち回る。
その様子に、ニケやアルトゥリアスが顔をしかめるほどだ。
しかしこれは元々、戦力を強化するための道具である。
俺たちはその威力に満足すると、4層へ足を伸ばした。
そして最初の部屋へたどり着くと、またもやウジャウジャとソルジャーアントが湧き出してきた。
「それじゃあ、最初いきます」
「ええ、気をつけて」
俺は前に出るとまず弾丸を装填し、アリの群れに銃口を向けた。
そしてミスリルの引き金を通じて、弾丸に爆発の信号を送ると、”ズバンッ”という音を立て、散弾が発射される。
銃口から飛び出た小石が、複数のアントに命中し、少なくない損傷を与えた。
俺はすかさず空薬莢を排出し、腰のポーチから新しい弾丸を取り出す。
予備弾の保有数は、ポーチの容量から6個となっている。
ただし俺とアルトゥリアスがいれば、再生産は可能なので不安は無い。
俺は再び弾丸を装填してから、散弾を再び放った。
これによって至近にいたアントたちが傷つき、その動きが格段に鈍くなる。
そこをニケとアルトゥリアスが、とどめを刺して回る。
ニケは当然ながら、アルトゥリアスの剣術も流麗で、動きの鈍ったアントごときに苦労はしない。
俺はその間にまた弾丸を装填し、別方面から迫ってきたアントに、散弾をぶっぱなした。
そんなことを繰り返しているうちに、部屋の中のソルジャーアントがすっかり駆逐された。
「ふうっ、なんとか倒しきれましたね」
「ええ、たった3人にしては、出来すぎなぐらいですよ」
「クエ~」
「ゼロスも、がんばったでしゅ」
アルトゥリアスに抗議の声を上げたゼロスをニケがねぎらうと、パーティーの間に笑いが漏れる。
実際、ゼロスは役割を心得ていて、俺たちを奇襲しようとするアントを、よく牽制してくれていた。
ちゃんと抗議もする辺り、人間の子供並みの知能はあるのだろう。
そんな彼の功績もあって、俺たちのアント狩りは大成功となったのだ。
「それにしても、その散弾というのは便利ですね。今回のような敵に対処するには、最適な武器でしょう」
「ええ、わざわざ作った甲斐がありましたね。土魔法よりも速く撃てるし、威力も高いですから。問題は、いちいち弾丸をつくらなきゃいけないことですけど」
「フフ、それぐらい我々にとって、手間のうちに入りませんからね。他のパーティーが、歯ぎしりして悔しがるレベルですよ」
「ですよね」
実際問題、今回のような虫系魔物には、最適な武器だと思う。
この世界の魔法について、まだ詳しくは知らないが、改善の余地はいろいろとあるような気がした。
そんな話をしていると、ニケが目をキラキラさせながら、せがんできた。
「なまえ、つけるでしゅ」
「え、これに名前、つけるのか?」
「そうでしゅ。いっしょにたたかう、なかまでしゅ」
「う~ん……まあ、そう言えばそうかなぁ」
まあ、愛称を付ければ呼びやすいのは事実だが、何がいいだろうか。
神話関係でいえば、ゼウス、トール、インドラ……
う~ん、インドラでいいか。
古代インドの神様の名前だ。
凄い魔法をぶっぱなしたらしいからな。
「それじゃあ、インドラにするよ」
「インドラ、かっこいいでしゅ」
ニケは魔導砲の銃身を撫でながら、尻尾をフリフリと振るわせる。
けっこう気に入ったらしい。
「さて、魔石を回収して、次に行きましょう」
「そうですね。あ、弾作りもお願いしていいですか?」
「ええ、いいですよ」
ソルジャーアントの魔石を回収すると、20個以上もあった。
アント自体はそれほど強くないにしても、これだけいると相当に厄介だ。
改めて、少人数で探索することの困難さを感じる。
とはいえ、この魔導砲があれば、なんとかなりそうだ。
この仲間と一緒なら、なんとかやっていけるだろう。
魔石を回収してから、弾丸を補充すると、俺たちは4層の奥へ進んだ。
広い部屋に入るたびに、10~20匹のソルジャーアントが出現する。
そのたびに俺たちは武器を取り、連携して乗り越えた。
もちろん魔導砲が大活躍したことは、言うまでもない。
そうして夕刻まで狩り続けてから、地上へ帰還する。
その足で魔石を換金したのだが、その数なんと百個にもなった。
ソルジャーアントの魔石は2個で銀貨1枚なので、なんと銀貨50枚の大収入だ。
換金所の職員も驚いていたな。
普通のパーティーは、ソルジャーアントとの戦闘を極力回避するので、こんなに持ち込まれることは、めったにないからだ。
戦闘になっても、倒しながら逃げてしまうので、あまり魔石も回収されないらしい。
ずいぶんともったいないことをするものだが、命あっての物種、ということか。
その晩は順調な探索を祝って、また酒場で乾杯をする。
「それじゃあ、今日の探索終了を祝って、乾杯」
「かんぱい」
「乾杯」
「クエ~」
乾杯が終わると、ニケがすかさず肉にかぶりつく。
彼女は相変わらず、こんな体のどこに入るのかというくらい食べる。
もう、質量保存の法則なんか、完全に無視だ。
そのくせ、最近は肉体の目立った成長も無く、小さいままである。
しかしその顔は充実感に輝き、楽しそうだった。
「アハハ、おいしいか? ニケ」
「あい、おいしいでしゅ。ニケは、しあわせでしゅ」
つい最近まで、餓死しかけていたというのに、変われば変わるものだ。
願わくば、その笑顔をいつまでも守ってやりたいと思う。




