17.ショットガン
4層を垣間見た翌々日になって、鉄の筒ができてきた。
それは長さ30センチ、直径5センチほどの筒で、5ミリほどの肉厚があってズシリと重い。
もちろん片側の穴は塞がっていて、擲弾筒のように弾を撃ち出す構造だ。
俺はそれを銀貨50枚で買い取ると、早々に店を後にした。
「フフフ、はたしてモノになりますかねえ」
「それは工夫次第ってことで、なんとかなるでしょう。とりあえずいつもの場所へ、移動しましょう」
「たのしみでしゅ♪」
アルトゥリアスが懐疑的な見方をする一方、全面的に俺を信頼しているニケの目は、キラキラと期待に輝いていた。
そんな彼女の期待に応えるべく、俺たちはよく魔法の練習に使う川のほとりへと移動する。
適当な岩の上に腰を落ち着けた俺は、おもむろに大筒を取り出すと、地精霊のガイアを呼び出した。
「さて、ガイア。こんな弾を作れないかな?」
「♪」
紙に書いた絵を見せながら訊ねると、ガイアは周囲の石を拾い、あっさりと弾丸に作り変えた。
それは直径4センチ、長さ6センチほどで、片側の尖ったどんぐり形の弾だ。
「よしよし。それじゃあ、ガイア。この筒に入れた弾を、撃ち出せるか?」
「……?」
今度はその弾を筒の中に入れて訊ねてみると、ガイアは腕を組んで首を傾げるばかり。
今までも石の礫や矢を撃ち出すことはできたのに、鉄の筒の中身に対しては事情が違うらしい。
そこで俺は絵を描きながら、いくつか撃ち方を提案してみた。
例えば弾の後端に魔力をくっつけて、それを爆発させて弾を飛ばすとか、弾の後ろに薬莢を形成して、その中に魔力を封入するなんて案だ。
しかしガイアは途方に暮れるばかりで、どれもお気に召さないらしい。
やがてそれまで黙って見ていたアルトゥリアスが、話に加わってきた。
「つまりタケアキ殿は、無属性魔法で火薬の役割を実現したいのですね?」
「ええ、そうです。俺の故郷では、そんな武器が普及してるんですよ」
「ほう、それは珍しい技術ですねえ。しかし残念ながら、無属性魔法とはそういうものでは無いのですよ」
「……本当にそうでしょうか? そういうのって、既成の概念に囚われてるだけで、やりようはあるんじゃないですかね?」
「ふ~む……」
俺の挑発的な問いに、アルトゥリアスが眉をひそめる。
さすがの彼も、自分の得意領域で挑発されて、少しムッときたようだ。
しかしそうでありながらも、彼は考えることをやめない。
「そもそも無属性魔法とは……いやしかし……」
何やらブツブツとつぶやきながら、俺の作った石弾をいじり回していた。
気づけばその傍らには、彼の契約精霊である風精霊も顕現している。
そしてアルトゥリアスは、シェールの力を借りながら、俺の注文を実現しようと試行錯誤を始めた。
やがて彼は何か細工を施した石弾を、俺に差し出す。
「これをその筒に入れてみてください。暴発するかもしれないので、気をつけて」
「あ、はい……」
俺は大筒を上に向けながら、受け取った石弾を落とし込んだ。
すると底に着いた途端、ボンッという音を立てて弾が筒から飛び出る。
「うわっ!……ビックリしたぁ」
「わふぅ、みみが、キーンて、なったでしゅ」
「ふむ、やはり暴発しますか。今のは無属性の魔力を、弾にくっつけたものだったのですよ。それではタケアキ殿、先ほど言っていた、”やっきょう”付きの弾というのを、作ってくれませんか?」
「ええ、いいですよ。ガイア、こんなのできるか?」
「♪」
俺とパスのつながっているガイアが、頭の中のイメージを読み取りながら、あっさりと薬莢と弾を作ってみせた。
それをアルトゥリアスが受け取ると、またシェールに何か頼んでいる。
そしてまた何か細工を施してからくっつけた弾と薬莢を、再び俺に差し出した。
「今度はこの”やっきょう”の中に、風魔法を封じました。これをまた筒に入れてください」
「今度は暴発、しないですよね」
「ええ、おそらく大丈夫でしょう」
恐る恐る弾を鉄筒に落とし込むと、コトンという音がしただけだった。
「ほっ、大丈夫でしたね。それでこれを、どうするんですか?」
「ちょっと貸してください」
アルトゥリアスが大筒を受け取ると、彼は閉じた下端に手を当て、何やらいじりはじめた。
しばらく見ていると突如、音を立てて石弾が空に向けて飛び出した。
それはさっきよりもずっと速く、高く飛んでいる。
「やった! 成功ですね?」
「ええ、まだまだ粗削りですが、とにかく撃ち出すことはできるようになりましたね」
「すごいじゃないですか。どうやったんですか?」
「簡単にいうと、風魔法を凝縮したような状態で”やっきょう”に封じ、外からそれを解放したんです。コツさえつかめば、タケアキ殿にもできるはずです」
「うわ、さすがですね、アルトゥリアスさん」
「すごいでしゅ」
「クエ~」
みんなの称賛を受け、アルトゥリアスも満更はなさそうだ。
気を良くした俺たちは、その後もいくつか試行錯誤を続け、安定して筒の外から弾を発射できるようになった。
そうなると次は、広範囲を攻撃できる散弾の開発だ。
「こんなんで、どうでしょう?」
「ふむ、これが散弾ですか」
「あたったら、いたそうでしゅ」
俺は直径3ミリほどの小石を数十個も束ねた散弾を、ガイアに作ってもらった。
それに風魔法を封じた薬莢を組み合わせてから、鉄筒に挿入する。
俺はそれを腰だめに構えると、近くの木に向けてから風魔法を解放した。
――ズバンッ!
その途端、大筒の後端を支えていた右手に、強い衝撃が走った。
それと同時に多数の石片が筒先から放たれ、前方の木にいくつもの傷を作る。
「あいたたた! ちょっと衝撃が強すぎますね」
「ふむ、しかしなかなかの威力ではありませんか?」
「まあ、威力はそこそこですね……フーッ、フーッ」
「だいじょぶ、でしゅか?」
「ああ、大丈夫だ。もっと改良しないといけないけどな」
俺の手を気遣うニケを心配させないよう、笑ってごまかす。
しかし考えていた散弾が実現できたので、気分は悪くない。
「フフフ、タケアキ殿には驚かされますね」
「こちらこそ、挑発するような言い方をして、すみませんでした。でも本当に、アルトゥリアスさんがいて助かりますよ」
「いえ、私も新たな魔法の可能性を感じられて、楽しいですよ。まるで若返ったみたいです」
「そんなこと言うと、年寄り臭いですよ」
「実際に年寄りですから、構いませんよ」
「ですか?」
「でしゅね」
互いに協力し、新たな魔法を開発できた喜びに、俺たちは和やかに笑い合っていた。




