9話 課題と再会
練習試合後疲れ果て、帰りの電車で眠りつく聖峰メンバー。
菜々子はと言うと今日のスコアをチェックしながら、沙弥に些細な事でも報告していた。
一方卜部はと言うと、栄人達が帰った後誰かと電話で話している。
「もしもし、あぁ練習試合とは言え勝ったよ・・でも、今年の県大会面白くなるよ」
「ほぅ・・聖峰高校か・・」
「下手すると食われるよ、四天王の一角の青山君」
「そりゃお前も同じだろ卜部、それより良い豆が入ったぜ、コーヒーでも飲みに来な」
「いや、僕カフェラテが飲みたいなぁ」
「わがまま言うな、とにかく来い」
卜部が話す相手は青山と言う男、四天王の一角らしいが、まだ素性は謎のままである。
唯一わかっているのが、卜部と同じ2年生家がコーヒーショップで、バリスタを夢見ている事だ。
翌日、県大会に向けて練習を開始する栄人達、沙弥が言っていた課題とは何なのか?
「さて、この前の練習試合は、君達に足りない物が出てきた、でも良い物もあった」
「・・・・・」
「先ず感じたのは、スタミナ面に不安があるわね、まぁ、最初だからそこはこれから付けるとして、佐久間君、君のゴール下の動きはは全く問題ない・・・そこから10本シュート打ってみて」
沙弥が指を差したのは台形型のラインの外側、言われるがまま、シュートを打つが10本中入ったのが僅か2本。
「うっ・・・」
「佐久間君、わかった様ね・・このままだと相手にゴール下しかないから、中に入れさせるなってなるのよ」
「苦手だったから、得意分野しかやらなかったッス」
「でしょうね」
図星を見抜かれ黙り込む淳大、泰に関しては言う事はないのだが、思い切りが足りないと指摘され、大樹も同様基本は出来ているが、如何せん影が薄い、もっと自分をアピールしろと言われた。
「県大会まで、今言った3人は別メニューをこなして貰うわ」
「あの、俺達は?」
練習開始となる前に、栄人と一志が意見を求め出す。
「君達は・・・ごめん、正直わからない」
「えぇーっ」
「取り敢えず、きっちり体力アップね」
「・・はい・・」
いざ、練習開始だが、大樹がもっと自分をアピールしろと言う言葉が引っ掛かり集中できないでいる。
更には、泰に対してはセンターのポジションにいるわけだから、威圧感を持たせたいと言う沙弥の目論見、それは控えセンターの茅野にも同じ事を言っていた。
「気迫スゲーなヤス」
「栄人、もう誰にも負けない、お前にも」
「俺もだヤス」
皆が練習を終えると、大樹が一人だけ残り居残り練習をしていた所に沙弥が声を掛ける。
「もう、9時になるし帰りなさい」
「監督?すいません、監督に言われた事がまだ引っ掛かって・・・」
「なるほど・・・君は試合の時周りに声掛けた?」
「あっ、いや、あまり掛けてなかったです・・」
「どうして?」
「俺にはスリーポイントしかないから・・・このシュートを決める為に集中してて・・」
汗だくになりながら、うつ向き加減で淡々と話をする大樹、沙弥が言いたい事がなんとく、わかりかけてきてはいるが、まだ答えが出ない。
「今村君や遠藤君は、君の事が見えていた、君は見えていた?」
「あっ・・・」
「気づいたようね・・直ぐに答えを出せとは言わない、県大会まで見つけなさい」
「はい・・」
そう言って大樹は家路に帰って行った。
話がさかのぼるが、大樹が居残り練習をしている間、帰宅途中に栄人のスマホが鳴り出す。
「もしもし、あっ姉ちゃんどうしたの?」
「ヒデ、今朝言うの忘れちゃったんだけど、今日お隣さんが引っ越してきたの、それでね一応挨拶に来たから、こっちも挨拶しといたから、ヒデも挨拶しておいてね」
「そう言う事は早く言ってよ・・・」
「あ、そうそう今日はお姉ちゃん遅くなるから、よろしくー」
栄人の姉の名前は今村まどか、今村家の家系は父親と姉と栄人の3人暮らし、母親は栄人が小学生の時に病気で亡くなり、父親は仕事の都合で家を空ける事が多い為、現在姉と二人暮らしをしており、まどかの職業は看護師で、現在22歳。
取り敢えず、家に着き隣へ挨拶に行きインターホンを鳴らすと、出てきたのはさらりとした長い髪の女の子が出てきた。
「挨拶に来ました、隣の今村です」
「あーっ、ヒデ君久しぶりー」
「えっ?えっ?」
「バスケ部入ったって、まどかさんから聞いたよ、まだバスケやっていたんだね」
女の子は栄人を知っている素振りだが、栄人はまだ困惑している。
しばらくして、隣の家の表札を見た時ふと、思い出した。
「弥生・・・まさかお前、美奈か?」
「そうだよ、久しぶりだねヒデ君」
弥生美奈、栄人と幼なじみであったが、小学生の時に父親の仕事の都合で転校し、再びここ長野に帰ってきた。
「ご飯まだでしょ?食べて行きなよ」
「えっ、いや、悪いよ・・」
「いいからいいから、お父さん達もヒデ君に会いたがっていたから」
お言葉に甘え、美奈の家で夕飯をご馳走になる栄人、美奈の両親からも手厚く歓迎され、食卓には唐揚げとサラダと味噌汁が並んでいた。
「大きくなったな、栄人君」
「栄人君、久しぶりだね、遠慮しないで沢山食べてね」
「おじさん、おばさんありがとうございます」
まさかの幼なじみと再会、美奈の通う学校は美八原高校、栄人の通う聖峰とは隣町の学校だ。
週末となり、土曜日は学校も休みで練習は午前中で終了。
練習後、淳大は栄人が良く使用していた公園のバスケットコートにボールを持って1人で黙々と練習していた。
沙弥に言われた課題を完璧にする為ひたすらシュートを打ち込んでいる。
「くそー大分マシになったがまだまだ・・」
意外と完璧主義の淳大、ストイックに自分をとことん追い込むが、この姿を誰にも見られたくない思いがあった。
それは、影で努力し皆をあっと驚かせる方が格好いいと言う主張。
「あれぇ?お前淳大だよな?」
「あぁ?」
一人の男が淳大に声を掛ける、上背は淳大と同じくらいである。
その男を見た瞬間、淳大は凍りつく様に固まり出す。
「久しぶりっすね・・青山さん」
「久しぶりだな、淳大、まだバスケやっていたか、嬉しいぜ・・・まぁ飲めよ」
青山がバックから水筒を取りだし、淳大に差し出す。
「俺のオリジナルブレンドコーヒー、しかも、アイスバージョン」
「何か用ですか?」
「用はねーけど、たまたまお前を見かけたからな」
青山の差し出したコーヒーを飲みながら、昔話を始める青山と淳大だが、あまり楽しくなさそうにも見える。
「何だよ、久しぶりなんだから笑えよ淳大」
「あんたに一度も勝てないままだから、笑えねーすわ」
淳大がかつて、努力しても勝てない相手こそ目の前にいる青山だった。
二人は同じ中学の先輩と後輩の中であるが。
「昔散々俺と勝負したよな?そして、お前はバスケ辞めちまったよな?お前が中学2年の時・・・」
「・・・・・・」
「勿体ねーな・・・実に勿体ない・・正直お前にはがっかりしたわ」
「なっ」
楽しそうに語っていた青山の表情が、哀れむ表情となり淳大に失望の視線を送る。
「努力しても勝てない相手はゴロゴロいる、それでも向かって来る奴は俺は好きだし、俺が逆の立場なら諦めない」
「何が言いたいんですか?」
「空白の時間を作って、今更またバスケか、どういう風の吹き回しだか知らんが・・来い、久しぶりに相手してやるよ」
淳大のボールを取り上げ、ウォーミングアップがてらにドリブルを始める青山、淳大も青山の誘いに乗る。
「聖峰に入って、俺にバスケの情熱を取り戻してくれた奴らがいるから、俺はまたここに戻った」
「えっ?お前、聖峰行ったのか?練習試合で卜部のいる松潮相手に1点差の試合したって聞いたぞ・・・こりゃ嬉しいぜ」
淳大が聖峰に居ると知った途端に、青山が嬉しそうに笑い出す、自分の後輩が卜部を相手に僅差の試合をした事に。
「四天王て、お前も知っているよな?何だか知らんが、俺は一応四天王の一角と呼ばれている、改めて言うぜ淳大、北都商業2年、青山弘毅だ」
淳大も栄人達に影響され成長を遂げているが、互いに互角の勝負をするかと思ったのだが、徐々に青山と差が開きだし始め決着が着いた。
「中々だったぜ淳大、だがな、まだ甘い、県大会で待ってるわ、俺達に当たるまで負けんじゃねーぞ」
「言われるまでもねーす」
淳大の中にある闘志が燃え盛る様に熱く沸き上がり、再び練習を再開した。




